ディスクロージャー研究学会



(青空に物事を晒すと虫干しされ綺麗になる)

ディスクロージャーと市場評価

 

 


  
アナリストが選んだ
「ディスクロージャー優良企業」のパフォーマンス

 

 ディスクロージャーは企業内容を正確に、公平に市場に伝えることであるが、その最低限が制度的(マンデトリー)ディスクロージャーであり、最大限には自主的(ボランタリー)ディスクロージャーといえる。その結果市場は本来は証券の正しい評価をおこなうと考えることができる。

グラフで示す8銘柄は日本証券アナリスト協会が96年度の「ディスクロージャー優良企業」として選んだものである。各業界とも10数銘柄の中からディスクロージャーの方法や姿勢を高く評価したものである。

「ディスクロージャー優良企業」といってもあくまでディスクロージャーに関してのことであって成績が優良というわけではないが、気になるのは市場でのパフォーマンスはどうかということ。

グラフの「累積残差収益率」は個別銘柄の収益率(インカムゲインとキャピタルゲインの合計)から市場平均の収益率(日経平均の収益率)を差し引いたものを96年10月1日までの300営業日累計したもの。マイナスは文字どおり「平均以下」の成果であり、プラスが望ましい姿。なお株価は増資権利落ち修正済み。

最高のパフォーマンスは本田技研で、まさにリーディングストックというににふさわしい成果を上げている。ソニー、第一薬なども高い成果だった。

 一方、鹿島はこの間、株価は値上がりしたが、累積残差収益率は10%以上のマイナスを示している。業績が芳しくなくてもインベスター・リレーションズ(IR)で平均並の成果を期待するのは無理か?むしろIR、つまり自主的ディスクロージャーが問われているのではないか。

 

「ディスクロージャー優良企業」8社のパフォーマンスグラフ

 鹿 島   住友化   第一薬 
 住友金   ソニー   本田技 
 三菱商  イトヨーカ

 

第2回(平成8年)選定結果について

   

(社)日本証券アナリスト協会

 当協会(土井定包会長)では、企業情報開示の向上を目的とした「リサ-チ・アナリストが選ぶディスクロ-ジャ-優良企業」制度を昨年度からスタ-トさせましたが、去る9月19日、当協会のディスクロ-ジャ-研究会(松島憲之座長)による第2回の選定結果がまとまり、公表しました。その概要は下記の通りであります。

 当協会といたしましては、引き続きこの制度による定期的な優良企業の選定を通じて、公開企業とリサ-チ・アナリストとの意思疎通を図るとともに、企業情報開示の向上、促進に寄与して参りたいと存じますので、関係各方面のご理解とご支援をお願いする次第であります。


選定の趣旨

 近年、わが国証券市場の構造変革と活性化を巡る論議の中で、証券アナリストが企業のファンダメンタルズに基づく客観的な分析と投資価値の評価を行い、投資家に対して高度の投資情報を提供することは、効率的な市場形成にとって欠くことのできないものであるという認識が高まってきている。証券アナリストがこうした期待に応えて合理的な証券分析を行っていくためには、自ら分析技術の不断の研鑽に努めるとともに、企業情報のディスクロ-ジャ-が質・量両面から充実されることが極めて重要と考えられる。

 このような観点から、予て、企業のディスクロ-ジャ-に関する事例研究や提言を行ってきたディスクロ-ジャ-研究会(以下当研究会。メンバ-資料3)では、平成7年度から企業と投資社会との意思の疎通をさらに向上させる手段のひとつとして、証券アナリストの立場から望ましい企業情報のディスクロ-ジャ-についての評価基準を策定し、経験豊富なアナリストによる綿密な企業別評価を行い、ディスクロ-ジャ-優良企業を業種別に選定し、各業種における模範としてこれを公表することとした。


本年度の評価対象

 1.本年度は、東証1部上場株式時価総額を基準とし、建設業(ゼネコン、上位10社)、化学産業(総合化学、上位9社)、医薬品産業(上位11社)、鉄鋼業(上位8社)、電気・精密機器産業(上位16社)、自動車産業(上位7社)、商社(総合商社、全9社)および小売業(百貨店・ス-パ-、上位11社)の8業種合計81社(次ペ-ジ表参照)に絞って評価を行った。

 2.また、評価範囲は、原則として、平成7年度決算発表以降における企業情報のディスクロ-ジャ-状況とした。


評価方法および手続

 評価に当たっては、まず当研究会が先に策定した「ディスクロ-ジャ-・評価基準例」(資料2)をベ-スとして、建設、化学、医薬品、鉄鋼、電気・精密機器、自動車、商社および小売業の8業種の各専門部会(メンバ-、資料4)が、それぞれ当該業種の特性に応じて手直しを加えた「業種別ディスクロ-ジャ-評価基準(スコアシ-ト)」を作成した。これらの評価基準は、業種ごとに項目、配点等において若干の差異はあるが、何れも有価証券報告書等による制度的開示よりも、アナリストへの説明会、インタビュ-等企業の自発的、積極的な開示活動の評価に重点をおいていることが特徴である。

 この業種別評価基準に基づき、リサ-チ・アナリスト経験年数3年以上でかつ現在当該業種担当概ね2年以上の者の中から、評価対象企業に精通した186名(46社、メンバ-資料5)がスコアシ-ト記入を行った。これを各部会において取りまとめ、慎重に分析、評価のうえ、当研究会としての優良企業選定を行った。


評価結果

 評価結果は、各業種別ディスクロ-ジャ-評価比較総括表(資料1)に示すとおりであり、業種別の総平均点を比較すると、建設業(ゼネコン)61点(昨年度54点)、化学(総合化学)56点(本年度新規実施)、医薬品産業69点(昨年度61点)、鉄鋼業59点(昨年度63点)、電気・精密機器産業57点(昨年度71点)、自動車産業50点(昨年度54点)、商社(総合商社)49点(昨年度54点)、小売業(百貨店・ス-パ-)48点(昨年度ス-パ-71点)と業種間にばらつきが生じているが、これは、評価項目の数と配点に業種間相違があるためであり、ディスクロ-ジャ-の優劣を表すものではない。

 また、総平均点を昨年度と比較すると5業種において低下しているが、その理由としては、最も配点の高い「説明会、インタビュ-等における開示」において、本年度から口頭による開示などに比較して、決算説明会資料による開示をより重視して評価したことが主因であり、この資料開示の平均得点率がかなり低かったことが挙げられる。

 ちなみに、スコア-シ-ト記入者の意見を総合すると、昨年度から継続して評価対象となった企業の多くは、この評価を契機としてIR体制の整備、アナリスト受入れ姿勢の改善あるいは情報の質の充実を図りつつあり、ディスクロ-ジャ-は着実に向上していると述べている。


本年のディスクロ-ジャ-優良企業および選定理由

 1.業種別の優良企業は、当該業種でいずれも第1位の得点を獲得し、それぞれの業種において他社の模範になると認められる次の8社を選定した。


建設業(ゼネコン) 鹿島建設(2回連続)
化学産業(総合化学) 住友化学工業(新規実施)
医薬品産業 第一製薬(2回連続)
鉄鋼業 住友金属工業(昨年度3位)
電気・精密機器産業 ソニ-(2回連続)
自動車産業 本田技研工業(2回連続)
商社(総合商社) 三菱商事(2回連続)
小売業(百貨店・ス-パ-)イト-ヨ-カ堂(2回連続)

2.選定理由

(鹿島建設:総合得点72点)
 同社は、近年連結情報の開示改善、決算補足資料の充実などにより、説明会、インタビュ-等におけるディスクロ-ジャ-に積極的に取り組んでいることが評価される。


(住友化学工業:総合得点87点)
 同社は、説明会の改善、充実を中心にIR活動に積極的に取り組んでおり、説明会開催のタイミング、時間設定、配布資料の内容とその説明、アナリストの質問に対する回答のいずれにおいてもアナリストの満足度が高いことが評価される。


(第一製薬:総合得点90点)
 同社は、連結対象子会社全社の業績一覧表の作成開示および開発新薬に対する自己評価を行うなど、業界内で情報開示の先駆者としてアナリストのニ-ズに応えている企業であることが評価される。

(住友金属工業:総合得点72点)
 同社は、経営トップが自らアナリストミィ-ティングで積極的に経営方針等を説明しているほか、IR担当者が充実した情報提供に努めていることが評価される。


(ソニ-:総合得点69点)
 同社は、国内外の投資家を対象に、充実したIR専門スタッフのもとで、グロ-バルベ-スでの自主的なディスクロ-ジャ-活動を積極的に展開しており、連結決算情報、損益のセグメント情報など有意義な情報の開示に努めていることが評価される。


(本田技研工業:総合得点72点)
 同社は、当業界の海外現地生産化が進展する中で、連結決算開示内容の充実、経営トップ等とのミィ-ティングの開催など、ディスクロ-ジャ-に積極的に対応し、その内容が年々改善されていることが評価される。


(三菱商事:総合得点61点)
 同社は、近年IR組織の整備と専門スタッフの充実を図り、説明会資料の充実、事業活動を理解してもらうための見学会の実施など、ディスクロ-ジャ-の改善、向上に努めていることが評価される。


(イト-ヨ-カ堂:総合得点78点)
 同社は、経営トップが決算説明会で経営方針を説明するなど、常に率先してIR活動の陣頭に立っているほか、アナリスト受入れ姿勢が極めてよく、IR部門に十分な情報を集積して要領のよい的確な説明を行うとともに、極めて多くの有用な情報を説明資料により詳細に開示していることが評価される。以上


お問い合わせ ik8m-ysmr@asahi-net.or.jp


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