ディスクロージャー研究学会



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文書No.
940601

会社情報適時開示の手引き

    東京証券取引所

    平成6年6月   


1.適時開示の意義
 証券市場の機能は、国民の有価証券による資産運用と企業の有価証券の発行による長期安定資金の調達とを適切かつ効率的に結びつけることによって、国民経済の発展に資することにあります。この機能が十分に発揮されるためには、市場の公正性と健全性に対する投資者の信頼が確保されていることが必要であります。

 流通市場においては、多数の投資者の投資判断に基づき価格形成が行われていますが、これが公正に行われるためには、その有価証券について適切な投資判断資料が提供されていることが前提となります。

 証券取引法に基づく法定開示として有価証券届出書、有価証券報告書等による開示がありますが、流通市場においては、各種の会社情報によって売買取引が大きな影響を受けることが多く、従って、公正な価格形成を確保し、投資者の保護を図るためには、有価証券の投資判断に影響を与える重要な会社情報が適時、適切に投資者に対して開示されることが重要であります。

 特に、近年のように、国際化の進展等企業を取り巻く環境の変化が著しい時代にあっては、最新の会社情報が迅速、正確かつ公平に提供される適時開示の重要性が、一層高まってきています。


2.適時開示の要請
 本所は、公正な価格形成と投資者保護を図るため、上場会社に、重要な会社情報が生じた場合には、その会社情報を投資者に対して適時、適切に開示するよう要請しています。

(1)適時開示情報の項目
 適時開示が必要とされる会社情報は、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営又は業績等に関する情報であります。これを情報の発生態様別に「決定事項に関する情報」、「発生事項に関する情報」、「決算に関する情報」及び「上場外国会社に関するその他の情報」と区分しますと、現状においては次のような項目を挙げることができます。なお、既に開示された重要な会社情報の内容の重大な変更、中止等についても、重要な会社情報となります。

a 決定事項に関する情報
    株式、転換社債及び新株引受権付社債の発行
    資本の減少
    株式の分割又は併合
    配当の額又は方法の変更
    合併
    営業の全部又は一部の譲渡又は譲受け
    解散
    新製品又は新技術の企業化
    業務上の提携又は業務上の提携の解消
    子会社の異動を伴う株式又は持分の譲渡又は取得
    固定資産の譲渡若しくは取得又はリース
    営業の全部又は一部の休止又は廃止
    上場廃止の申請
    破産、和議開始又は更正手続開始の申立て
    新たな事業の開始
    公開買付け又は公開買付けに関する意見表明
    代表者の異動
    合理化等による人員の削減
    債務超過による上場維持の断念
    商号の変更
    決算期の変更

A1単位の株式の数の変更
Bその他会社の運営、財政状態、経営成績等に重要な影響を与える決定事項に関する情報


b 発生事項に関する情報
    災害又は業務に起因する損害
    主要株主又は主要株主である筆頭株主の異動
    上場廃止の原因となる事実
    訴訟の提起又は判決等
    仮処分命令の申立て又は決定等
    行政庁による法令に基づく処分又は行政庁による法令違反に係る告発
    親会社の異動
    破産、更正手続開始、整理開始又は企業担保権の実行の申立て又は通告
    手形等の不渡り又は手形交換所による取引停止処分
    親会社又は子会社に係る破産の申立て等
    債権の取立不能又は取立遅延
    取引先との取引停止
    債務免除等の金融支援
    資源の発見
    子会社に係る決定事項又は発生事項
    有価証券の発行等に関するその他の重要事項
    その他会社の運営、財政状態、経営成績等に重要な影響を与える発生事項に関する情報


c 決算に関する情報
    決算内容
    業績予想の修正等
    配当予想の修正等
    有価証券の含み損

d 上場外国会社に関するその他の情報
    会社制度に関する本国の法令等の変更
    自社株の公開買付け
    本国の証券取引所における上場廃止の原因となる事実の発生

(2)投資判断に与える影響に対する考え方
 上記の各情報項目について、適時開示が必要かどうかを具体的に考える場合においては、金額的な影響度合いばかりでなく、情報が生じたときの会社の状況等との関係についても十分勘案する必要があります。

 金額的な影響度合いについては、売上高又は総資産ばかりでなく、損益に対する影響度合いも考慮する必要があります。例えば、総資産に対する割合は小さいが多額の売却損益の発生を伴う固定資産の譲渡等の場合です。売上高又は総資産に対する影響度合いは少ないが、損益に対して重要な影響があると見込まれる場合については適時開示が必要となります。

 また、情報が生じたときの会社の状況等との関係については、第    部「適時開示が要請される会社情報」において、売上高、総資産、損益等に対する影響度合いという観点からみて適時開示が要請される場合の目安を示してありますが、この目安を参考に、経済環境、業界の動向、会社固有の実情、市場の動向等を踏まえ、個々の会社情報について投資者の投資判断に与える影響を考慮して、積極的な適時開示を行うことが望まれます。

 なお、一つの事実が複数の情報項目に該当するケースが考えられますので、この場合、それぞれの開示の目安について確認し、開示の必要性の有無を総合的に判断することになります。例えば、営業の一部の休廃止を決定した場合で、これに伴って従業員の削減や事業用地の売却が行われるようなときは、「営業の全部又は一部の休止又は廃止」の開示の目安だけでなく、「合理化等による人員の削減」、「固定資産の譲渡若しくは取得又はリース」、「業績予想の修正等」などの目安についても考慮する必要があります。


3.本所への通告等
(1)本所への通告
 上場会社は、通告規則第2条及び第5条の規定により、会社において重要な事実が発生した場合、又は重要な事項が決定された場合若しくは当該決定に係る事項を行わないことを決定した場合には、直ちに(緊急の場合には予め、口頭により)その内容を本所に通告するものとしています。この場合、上場会社はその内容を記載した書類を本所に提出することが必要です。

(2)照会事項に対する回答
 本所が、通告規則第3条の規定により、新聞等による報道、売買立会場内における風説又は外部からの通報等により入手した重要な会社情報の真偽等について上場有価証券の売買取引管理上必要と認めて上場会社に照会を行った場合には、上場会社は、速やかに照会事項について正確に回答するものとしています。

(3)上場会社との連絡体制
 本所は、重要な会社情報の適時開示等を円滑に行うため、上場会社との連絡の窓口として「上場管理担当者」を置いています。

 「上場管理担当者」は、上場会社からの重要な会社情報等の通告についての受付、会社情報に関する照会等を行うとともに、必要と認める場合には適時開示の要請又は助言を行います。また、上場会社が適時開示を行うに当たり必要であるときは、その時期、方法等について事前に相談に応じています。

 一方、本所は、上場会社に対して、「情報取扱責任者」を置くよう要請しています。「情報取扱責任者」は、本所との連絡の窓口となるほか、重要な会社情報の社内管理、あるいは、必要な場合の一般への適時開示を担当していただくことになりますので、原則として役員の方を選任していただくようお願いしております。

(4)合併等に係る事前相談
 重要な会社情報のうち、株券上場廃止基準又は売買取引等の手続きの関係から本所に事前相談する必要があるものがあります。

 まず、株券上場廃止基準に該当し、上場廃止となるおそれがある事項としては、「株式、転換社債及び新株引受権付社債の発行」(第三者割当増資の場合)、「合併」、「営業の全部又は一部の譲渡又は譲受け」、「業務上の提携又は業務上の提携の解消」、「固定資産の譲渡若しくは取得又はリース」及び「営業の全部又は一部の休止又は廃止」があげられます。これらについては、株券上場廃止基準第2条第1項第7号及び第8号に該当するかどうかの審査を本所において行うことになりますので、事前に相談することが必要です(株券上場廃止基準については第    部を参照してください。)。

 また、売買取引等の手続きの関係から事前相談が必要となる事項としては、「株券、転換社債及び新株引受権付社債の発行」(有償株主割当増資及び第三者割当増資の場合)、「資本の減少」、「株式の分割又は合併」、「決算期変更」及び「1単位の株式の数の変更」があげられます。

 事前相談の際の提出書類など具体的な点については、第    部の該当箇所を参照してください。 


4.適時開示の時期・方法等
(1)開示時期
 a 本所は、上場会社において重要な会社情報が生じた場合には、遅滞なく開示するよ  う求めています。また上場会社は、開示前の会社情報が外部に漏洩し、不当に利用さ  れて不公正な売買取引が行われるおそれなどがあると判断したときは、速やかに開示  の措置を講ずることが必要です。

 b 会社内で検討中でまだ決定されていない事項について、その情報が漏洩していると  認められるような噂が流布され、株価等に異常な動きがある場合には適時開示が要請  されます。噂が全く誤りである場合あるいは不正確である場合には、速やかにそれを

 否定あるいは明確にする必要があります。また噂の内容が正確である場合には、その  進行の状況等について直ちに開示することが必要です。未決定あるいは未確定である  からという理由で無為に放置しますと、公正な価格形成を阻害するばかりでなく、そ  の上場会社自体に対する信頼も失うおそれがありますので、適時開示について上場会  社の積極的な対応が望まれます。

(2)開示方法
 本所は、適時開示については、会社の代表者等により、新聞・放送・通信等の全国的な報道網をもつ組織を通じて一般投資者に対して遅滞なく、正確かつ公平に行われるよう求めています。

 開示場所としては、多くの場合、本所(8階)内にある記者クラブ(「兜倶楽部」)で行われていますが、本所としてはこれに特に限定するものではなく、また開示方法も、情報の性質や具体的な状況に応じ、上場会社において適時開示の趣旨を踏まえ適切な方法によることが望まれます。

(3)開示内容
 重要な会社情報が会社の業務、運営、業績等にどのような影響を及ぼすかについて、投資者が的確に判断するため必要な事項を開示する必要があります。この場合、開示内容を書面により配布することが望まれます。具体的な開示事項については、第    部「適時開示が要請される会社情報」に記載しています。


5.適時開示と売買取引の一時停止
 本所は、投資者に重要な会社情報を正確、公平に周知させる観点から、上場有価証券又はその発行者に関し、投資者の投資判断に重大な影響を与えるおそれがあると認められる情報が生じている場合で、その情報内容が不明確である場合又はその情報内容を周知させる必要があると認める場合には、当該上場銘柄の売買取引を一時停止することがあります。 売買取引の一時停止期間は、本所が必要と認めた時から当該情報の真偽及び内容に関する開示が行われた日の売買立会終了時までとします。なお、本所が停止の継続を適当と認めた場合は、停止期間を延長することがあります。


6.ファイリング制度
(1)制度の概要
 ファイリング制度とは、通告規則第5条の2に定められた制度です。具体的には、上場会社が、法令上の「重要事実」、本所の要請する開示事項、その他投資者の投資判断に影響を与える重要な会社情報について、施行令第30条第1項の方法により公開したときは、遅滞なく、「会社情報の公開に関する報告書」及び当該公開に係る資料(以下「公開報告書等」という。)を本所に提出し、本所はこれを公衆の縦覧に供するというものです。

(2)制度趣旨等
 同制度を導入した趣旨は、投資者の投資判断に影響を及ぼす重要な会社情報の開示の充実にあります。すなわち、上場会社が重要な会社情報を公開したとしても必ず報道されるとは限らず、また実際に報道されたとしても公開したすべての内容が伝えられるとは限らないことから、公開された重要な会社情報をすべてそのままの形で公衆の縦覧に供することにより報道機関の報道を補完し、適時開示の充実を図るというものです。このほか、内部者取引規制との関係もあり、重要な会社情報について確かに公開したという事実を第三者機関である本所に届け、広く一般に開示しておくといった役割も有しています。

 なお、こうした制度の趣旨を踏まえ、実際に公開報告書等を提出する際には、以下の点にご留意ください。

 一つは、公開に係る資料として、報道機関に配布した資料のほか、当該配付資料に記載されていない重要な事項等を口頭にて説明した場合にはその内容について記載した書面の提出が必要になることです。

 また、「会社情報の公開に関する報告書」には公開事項名、公開日時、公開方法等を正確かつ具体的に記載し、本所に遅滞なく提出することが必要です(株式、記載要領等については第    部を参照してください。)。

(3)公開報告書等の公衆縦覧
 提出された公開報告書等は、本所3階の「有価証券報告書等閲覧室」において、受付後1か月間程度公衆の縦覧に供します。 


お問い合わせ ik8m-ysmr@asahi-net.or.jp


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