「大公開時代」の新しいルールづけ、企業経営、市場経済の透明度をいかに高めるか?いま情報公開における正確さ、迅速さ、公平さが、改めて問われている。
日本経済新聞社刊、吉村光威著、1991年7月25日出版
まえがき
ソ連のグラスノスチ(情報公開)によるペレストロイカ(立て直し)は共産圏を民主化し、経済の市場化を進めた。これは情報の公開が民主主義や自由経済体制の原理の一つであることを改めて示した。このグラスノスチの考え方は西欧の自由経済主義の原理に一つであるディスクロージャー(情報開示、情報公開)に相当する。
ディスクロージャーは1929年のウオール街の株価大暴落以降、混乱のなかから生まれた考え方で、株式の発行や売買を円滑に行うためこれを発行する会社の経営内容を正確に公開させる制度して誕生した。理論的には「市場で取り引きされる商品に関する(品質)情報が売り手と買い手の間で同質、同量でなければならない。どちらかに情報が偏ると情報の対称性が崩れ市場はやがて崩壊する」(ジョージ――A――アカロフのレモンマーケットの理論)ーーという考え方に立っている。つまり証券だけでなくあらゆる商品は需給だけによって価格が決まるのでなくその商品に関する情報の公平な開示によって商品の質が知れ渡り、公平な市場が形成されるというわけだ。ディスクロージャーによって市場が透明になり、市場の自由――公正と効率性が達成される。
ところでわが国は第2次世界大戦後占領軍総司令部が財閥を解体し、株式民主化を断行、株式市場再開と同時にこのディスクロージャー制度を強制した。しかし当初これがあまりにも厳しく、戦時中の旧満鉄調査部の「支那人抗戦力調査」みたいなものだったのが災いした。このためその反動で講話条約発効とともに揺れ戻し中身は「日本化」していった。そしていまや戦後70%あった個人持ち株比率は法人にとってかわらり、証券市場は「上場会社が資金を調達し、同時にその資金を運用するインサイダー市場場」になり、バブル経済が発生した。これに関わる証券会社に損失補填事件が発生、銀行には多額の不良債権が発生した。
また企業経営そのものは、ポーランドのワレサ連帯議長(=当時)はじめソ連のゴルバチョフ大統領まで「ハラショ」(すばらしい)とそのノウハウを導入したがるまで高く評価される半面、自由経済圏の代表ブッシュ米大統領からは「不透明だ。もっとディスクロージャーを」と系列取引の情報開示を求められている。賞賛と非難――これこそ日本企業の二面性であり、日本的経営の普遍性のなさである。証券――銀行の事件とからんで日本的取引の閉鎖性が国際的問題になっている。日本の系列取引は「長期的――安定的――包括的」であるが、このシステムは根本からつくり直しを迫られている。系列取引のディスクロージャーは第2の財閥解体といっても過言ではない。
さらに地方自治体で進んでいる情報公開条例を国政レベルで「情報公開法」として法制化する動きがでている。また「商品のディスクロージャー」と関係の深い製造物責任法(PL法)も動き出している。
一方、世はまさに高度情報システムの時代。ディスクロージャーは「迅速」が「公平」を保障する時代でもある。ディスクロージャーと「概念」を同じくするディターベースを核とする高度情報システムとネットワークはますますディスクロージャーを促進させる。コロンブスのアメリカ大陸発見(最近は到達という)やマゼランの世界一周など大航海時代が近世の幕開きになったように情報の「大公開時代」が日本と日本経済の新しい幕開けになることを期待したい。真のグローバルになるにはこれが大切である。
1991年6月吉日 吉村光威
―― ――目次―― ――
第1章 情報公開は世界の潮流
1、グラスノスチが経済を市場化
東欧諸国を開放
独裁の腐敗に
私有化、80万の会社
米、ソ連にディスクロージャーを要求
「情報自由法」で公開
2.情報公開条例相次ぐ
政府の対応は遅れる
3.アメリカが求める系列取引の情報開示
閉鎖的な日本の取引
包括的、長期的、安定的取引
ヨロシク――システム対マニュアル――システム
5%ルール、セグメント会計実施へ
「兄弟姉妹」にまで及ぶ
取引条件の変更も明記
4.報道の自由はディスクロージャーに優先する
広義のディスクロージャー/インサイダー取引防止
形式主義を排す
第2章 情報公開はなぜ必要か
1.レモンの原理ーー情報の対称性
アカロフの欠陥車市場論
ランダムウオーク仮説とディスクロージャー
効率的市場をもたらす
持ち込まれた完全な市場主義
2.情報公開による消費者保護
工業品の売買もまた同じ
製造物責任との関連
大まかな「基本法」とこまぎれの省令
3.銀行の二重の「対象性」
預金の中身の開示
ようやく動き出した銀行のディスクロージャー
銀行の行動と構造の改善
スコープ(範囲)の経済学と情報システム化
生保のレポート
4.情報公開の三原則と五要素
谷村の三原則ーー公平、性格、迅速
世界同時進行
伊藤の五要素の積
5.ディスクロージャー「日本史」
連合軍最高司令部の押しつけ=第1期
支那人抗戦力調査
セグメント会計も要求
揺れ戻しくる
一応再び開示促進に進む=第2期
日本的ディスクロージャーの強化=第3期
問題の腰連結スタート
「ディスクロージャー法」できる
発行開示を簡素化
第3章 高度情報社会のディスクロージャー
1.コンピュータリゼーション
情報の産業化と産業の情報化
情報システムのステージ理論
2.データベースとディスクロージャー
情報システムの中核、ディスクロージャー
3.インハウスデータベースの展開
自社データベース時代
高度化し、戦略システムへ
4つの問題点
「販売」も「人事」も総合利用可能
公的データベースの開放
4.会社決算情報システム
即時で全世界に伝達
全世界のアナリストの予想の入力
日本の株安を予想
5.EDGARと有報CD/ROM
政府への報告をコンピューターで行う
ディスクロージャーのメディア革命
専業データベースとの競合
CD/ROM文字検索に威力
6.経営分析と企業評価
多変量による分析――評価
主成分分析法と判別関数式
大きく異なる量と質のランキングーー銀行
直接金融時代の利益率
7.コンテンツアナリシスの威力
パターン認識法もある
日立、東芝80年代に異質の言葉
ソニー、松下の違い浮き彫りに
第4章グローバリゼーションの流れ
1.ミューラー書簡とSECの国際調和
学会初のディスクロージャーシンポジューム
IOSCOのテーマに
複数管轄情報開示へ動く
2.日経国際標準財務データとグローバルバンテージ
進まない会計の統一
欧と米の中間トウキョウの発送
欧米も4年遅れでスタート
M&Aや経営計画に用いる
3.IASCの歩みと一株R利益の統一
資本市場の要請
一株利益の計算に大きな差
選択肢多いIASC基準
国際会計学会の発足
4.中国の会計報告のラチェッティング
70%が市場経済
資金平衡表と利潤表
過少表示と過大表示
経営目標は利益の追求
第5章 企業の情報戦略の方向
1.どうする20兆円の調達
波乱含みの90年代のマネーフロー
大量、海外、新型の調達
ファイナンス供給圧力倍率は高い
償還資金は社債で
格付け評価高める
2.企業のディスクロージャーとIR
タイムリーディスクロージャー
形式情報でなく意味情報を
企業のトータルバリューを上げる
相次いでIRチームつくる
ちゃんとしたセグメント会計を
時価情報開示の効果
連結決算日本方式
3.株式の大公開時代
ふえる株式の店頭公開
「事業リスク」開示
急激に減る一株利益
ストップ高とストップ安の連続
ディスクロージャーを信頼しよう
相互上場もふえる
第6章 これからのディスクロージャー
1.決算予想のディスクロージャー
ジャーナリストとアナリストに依存する
実害の少ないエコノミストの予想
売上より利益の予想が難しい
会社の予想も当たらない
アナリストの仕事は多い
アナリストは研鑽を
推薦銘柄が倒産――――――米国の例
2.資産金融のディスクロージャー
証券化関連商品の開示
ここでも比較の可能性が重要
投信と年金のディスクロージャー
投資収益率とリスクが尺度
3.流通市場のディスクロージャー
店頭市場の開示が市場を大きくする
米、店頭市場の債券の価格を開示へ
株式売買の手口を開示すべし
マクロ経済データの開示にルールを
エピローグ
自由は返却されない
「従業員主権型企業モデル」を
閉鎖的な日本経済
活力ある自由経済社会をもう一度
「業者行政」から「機能行政」へ
透明殿高い経営を
専門検討機関「COFRI」できる
(以下 本文省略)
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