ディスクロージャー研究学会



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文書No.
950303

「ファイナンシャル・マ−ケティング機能の担い手?・・・経営財務からみたIR・・・」

    『関東学院大学 経済経営研究所年報』 第17集 1995年3月 関東学院大学経済経営研究所発行

    宮本順二朗 手塚山大学教授  

はじめに

T.IR(インベスタ−・リレ−ションズ)の萌芽。

U.投資家の情報ニ−ズ・・・“SRI”の調査を参考として・・・

 V.経営財務にとってのIRの意義;ファイナンシァル・マ−ケティング機能の担い手として。


むすびにかえて・・・わが国企業のIR:その今後の展望と希望的観測・・・



はじめに

 1980年代末に“バブル”経済が崩壊したその後、現在は、われわれのほとんどにとってまさしく未曽有なほどに、長期的な不況に見舞われている。わが国企業にとっても、それぞれの環境諸条件の悪化は激しく、その好転への兆しすら容易には見い出せないところも未だ多いのである。企業のファイナンス(資金調達)活動を取り巻く環境状況についても同様である。1980年中葉まではわが国企業の事業面での発展は目覚ましく、それに伴って資金の流入出もグロ−バルな範囲で活発であった。他方で資金のストック面においても、“エクィティ・ファイナンス(新株発行を伴う増資)”の盛行により、自己資本充実の方向へ向きつつあったのである。しかし、それも周知の通り事実上、エクィティ・ファイナンス活動はストップした状況が続いた。かつその上に、デット・ファイナンス(負債すなわち他人資本調達)も、資金需要の低迷を反映して、不活発なままで推移してきているのである。

 しかしながら、さまざまなリストラクチャリングによった企業の自助努力のみでは、もはや不十分な面も現実に多々現れてきている。国家的レベルから諸施策や制度的な改善も必要とされ、すでに挙国態勢でもって、さらにより広範にリストラクチャリングは進められてきているのである。そのことは、証券・金融界においても然りであった。

 冷え切った企業の資金需給を再び活性化させるために、これまでにも(従来から懸案であった諸外国とりわけ米国との経済構造摩擦の解消のためとも相俟って)企業ファイナンスにインパクトをもたらすような、いくつかの諸施策・制度改善が見られてきた。たとえば、社債発行にあたっての諸制限の緩和・株式累積投資制度や株式売買単位引下げの容認・あるいは自己株式買い取り(消却)の容認といったことなどは、いずれも本来ならば企業ファイナンスに対して幾ばくかの積極的な支援材料となる筈のものだったのである。しかし、如何せん証券・金融市場の低調ぶりは実に惨憺たる有り様である。すでに、1989年のピ−ク時を境にして、株価をはじめ“右上がり”になったときに成長したといわれる、諸々のファンダメンタルズ(指標)は、逆に“右下がり”を続けてきているのである。

 此処へ来て、“IR(インベスタ−・リレ−ションズ)”が蝶々されるようになつてきた背景には(以下でも吟味するように)様々な事が想起される。とりわけわが国で、かつ現在において、そのIRが取り上げられる事の意義を、本稿では、とくに経営財務的な見地から考察してみよう。


T.IR(インベスタ−・リレ−ションズ)の萌芽

 企業に参加して来るさまざまな利害関係者(in-terest group)は、当該企業とそれぞれの立場において文字どおり何らかの関係(relation)をもっている。その利害関係者の分類は様々になされうる。仮に、企業とある利害関係者(典型的な者として、たとえば株式会社にあっての株主)との関係は、一方が資金の需要者で他方は供給者という場合を考えてみても、企業自体とそれぞれの利害関係者はそれぞれの立場が逆転することもある。また、企業と各利害関係者は常にそれぞれの立場は固定的とは限らないし、別なタイプの関係を同時に当該企業と持つといったことも現実にあり得る。従って、上述の例である株主の場合、ある時にある株式会社に出資(俗にいう“カネ”の供給を)していた者が、何かの理由でその持ち分を他者に譲って(売却し)、別な所へその資金をどうしても途用しなければならなくなるといったことは現実には起こりうる。また、同じある企業の経営者が同時にその企業への出資者である、あるいは労働力(さらに俗にいう“ヒト”)の供給者・需要者という関係である企業と繋がっている従業員でさえ(いわゆる“従業員持ち株”制度のおかげで)その同じ企業の出資者であるといったこともあり得るのである。さらにまた、当該企業から、なにかの物品ないしはサ−ビス(これも俗にいう“モノ”)の供給を受けてその見返りに代金を支払う消費者が、同時にその企業の従業員や株主であるといったことにもなり得る。

 つまり、企業とその利害関係者ないし利害関係者集団との関係においては、二重以上の関係が入り乱れているのが現実ではあるが、企業とそれぞれの利害関係者の立場は、(通常そうされてきているように、ここでも)各利害関係者と当該企業との関係の仕方の違いから、以下のように分類しておこう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・資 金(カネ)    財・用役(モノ) ・
 ・ ・

・株主・債権者等     仕入先・得意先等・
・                    ・
・   企  業        ・
・                    ・
 ・ ・

 ・ ・

・労働力(ヒト)   その他(情報など) ・
・ 従業員等     監督官庁・地域住民 ・
・          報道機関・一般大衆等・
・          (潜在的関係者含む) ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
図1.企業と利害関係者との諸関係    

[供給・需要の対象となるものの違いによる分類]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 そもそも企業は、人類が人類のために考案した他のいろいろな道具・手段と同様に、いわば文明の産物である。しかるに、それぞれの企業が各々どのような発展のプロセスにあるのかによっても、各企業とその利害関係者との関係はさらに様相はさまざまに異なって来よう。たとえば、設立以後間もない個人営業の会社で出資者と経営者が同一人物であるといった場合と、出資者は不特定多数者で“資本と経営との分離”がもはや進んでしまっている“上場企業”の場合とでは、出資者と経営者との“関係”のみに限ってみても、考慮すべき事はまるで変わってくるだろう。また、各企業は一体どの様な事業を主に行っているのか、言い換えればいかなる業種に属している会社であるのかによっても、さらに個々の利害関係者との関係において違いが生じてくる。たとえば、製造業なのか商業・サ−ビス業なのかによって、後者の場合でもさらに、銀行等金融機関であるのかあるいは貿易商社なのかなどによって、両者の関係はまた様相は違ったものとなろう。従って、どんな企業にとっても一般的に考えられる利害関係者との関係を問題にする場合でも、それぞれ関心の程度の違いによって、ウェイトのおかれ方も変わってきて、むしろ然るべきであろう。その上に、どの企業も真空の中で活動をしているわけではないこと言うにも及ばないほどであるが、企業を取り巻く環境(例えば天変地異といった自然環境・景気や金利ないし為替等経済環境・あるいは法制度など社会的環境)の諸要因の変化によっても、 各企業にとってのその時々の戦略的要因によって、働きかけるべき利害関係者ないしその集団も変わって来ると考えられるのである。このように考えながら、これまでの“Investor Relations(:インベスタ−・リレ−ションズ;以下では単にIRと略す)”の発展・経緯を跡づけてみることは、今後のそのあり方について論ずる場合に大いに有用となるだろう。

 さて、昨今わが国でもIRについて議論される機会がにわかに多くなってきたその大きな原因の一つとして、証券・金融市場の長期的低迷といったことがよく取り沙汰されてきている。そのことも確かに原因の一つと考えられるがそれはいわば消極的な面からのものであり、さらに別な積極的な面からの働きもあったのではないかとも考えられる。すなわち、IR活動を既に実施していたり関心を寄せている企業の中には、(たとえ現下のような景気の局面でなくとも)その企業の成長過程から必然的にそうしていたものもあれば、他方では現状打開のための窮余の一策としてこのIRに縋ってみようとする切迫したものもあると考えられる。

 これまで、このIRをその企業の戦略的活動と考えて、最初に積極的に取り組んだのは米国の電機業界大手の General Electrics (以下ではGEと略す)社であろうといわれている 1) 。すなわち、GE社はすでに1950年代から、先駆的にこのIR活動を開始していたことが、いくつかの文献・資料上からも知られる 2) 。当のGE社では、そもそも、ポ−トフォリオ管理者ならびに証券会社の投資アドバイザ−に対して、投資対象としての自社のメリツトを“教え込む(educate)”のが狙いであったといわれている。また、GE社の他にもIR活動に早くから積極的であった会社(例えばわが国でも比較的有名と考えられるATT社(電信電話)やスタンダ−ド石油あるいはスペリ−ランド社など)においても、共通していたのは、それぞれがそれ以前から既に Public Relati-ons (パブリック・リレ−ションズすなわち公共関係;以下PRと単に略す)活動において十分な経験を有していたというバック・グラウンドがあったことを看過してはならないだろう。つまり、それらIRのパイオニア的な各企業にとっては、利害関係者との間におけるコミニュケ−ションの重要性を既に達観していたという事になろう。そして、その当時の時代においては、ことさらに株主といった特定の立場の利害関係者が最も戦略的に重要な要因としてクロ−ズアップされたものと考えられるのである。ただし、当時そのGE社のIR管理部長であったロウェル・E.ペティットによれば、株主に働きかけて意思疎通を図るためのプログラムの重要性を提唱した際に、その「・・プログラムは、明らかに、いわゆる株主関係(share owner relations)プログラムとは違う。・・・もっと範囲が広いものである・・・」と述べていたことは注目を要する。さらに、「・・・投資家関係(IR:筆者加注)という言葉は、当然その中に旧来の概念である株主関係という意味も包含していて、あたかもマ−ケティング機能という近代語がセ−ルス努力を含んでいるのと同様・・・」と明確に述べていたのである。しかし、投資家関係といった場合、単にその時現在に株主名簿に記載されている株主だけでなく、“潜在的な株主・・・現在は株式を所有していないが、その能力・可能性がある個人および団体・・・”をも併せて対象として考えられていたのである。従って、証券の多様化に伴って現れてきた、転換社債やワラント債の保有者はいうに及ばず、さらに一切の証券をも未だ保有していない投資家さえも、その定義によれば、広く含まれるのである。

 このIR活動の実施状況や成功例などは、わが国にも紹介がなされたが、一部の人たちが関知したに留まったようであり、とても今日ほどには一般に周知されず、かつ流布しなかったと言わねばならないだろう。

 振り返ってみるに、その当時(少なくともAMA(アメリカ経営協会)編集の) Investor relati-ons: The Company and its Owners の翻訳本が出版された昭和42年頃)といえば、わが国企業は未だに規模の違いに拘わらずほとんどの企業では“借金経営”が圧倒的に多く、資金調達といえば如何に、低利でかつ(“自転車操業”であっても)多額の資金を借り入れるかといったことが課題であった時であった。そんな矢先に、通産省産業構造審議会管理部会の『意見』「企業財務政策の今後のあり方」といった答申が(昭和44年からの研究検討を経て)出されたのである。その第二章 企業の経営理念と財務目標 をみれば、二.企業成長の今後の意義と問題点の見出しの下で「・・・出資者、債権者および従業員の協力を得ることはもちろんであるが、さらに取引先、販売先、地域住民などが、複雑な制約条件となって利害関係がますます多様化することに留意しなければならない。ことに、最近における消費者運動、公害問題等は、企業成長の継続にとって大きな制約条件となっている。したがって今後は、単に企業資本の出資者の利益目標を考えるだけでは不十分であり、・・・」利害調整することの必要性を、当時のわが国企業のトップマネジメントに説いていたのである。そのように、彼岸の米国においては当時すでにその重要性が認められていたIRではあっても、わが国においては、むしろ公害対策や消費者対策といった投資家以外の利害関係者ないしその集団との関係(リレ−ションズ)、すなわちむしろPRの方が戦略的にはより重要な要因として、ほとんどの企業に対して立ちはだかっていたと考えられるのである。端的に言えば、当時のわが国のほとんどの企業にとってIRは未だしも、あまりに時期尚早な課題であったといえよう。


U.投資家の情報ニ−ズ・・・“SRI”の調査を   参考として・・・

 前節Tでみたように、IRの意義そのものは、わが国にも既に比較的早くから伝わっていたことが認められたが、それが広くに渡っては普及しなかった理由も若干探ってみた。例えとしては不適切であろうが“衣食足りて礼節を知る”といった域までに、当時ではわが国企業の大部分は未だ成熟していなかったということにもなろうか。しかしながら、本稿の「はじめに」で既に示したように、まさにここ二・三年間の間に、わが国企業でもこのIR活動が現実化し始めており、かつ他方で、未だ実施されていない企業からも関心が多く集まってきているのである。本節では、IR活動の主体(働きかけを行う側)である企業の立場からというよりも、逆にその客体(働きかけを受ける側)

 である投資家の立場から見て、一体どういうニ−ズ(要求)があるのかを予備的に考察しておこう。

表1.専門・個人投資家の情報ニ−ズの相違
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ 専門投資家      ・ 個人投資家 ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・当該業界の近況・見通し ・会社の評判 ・
・      ・      ・
・会社の利益額(PLより)・業界動向 ・
 ・ ・ ・

・市場における会社の順位 ・会社の動向 ・
 ・ ・ ・

・会社のリスク ・会社の株価実績・
 ・ ・ ・

・会社に影響する最近の事件・最近の発展状況・
 ・ ・ ・

・会社の財政状態 ・財務成績・状態・
・           ・       ・
・会社のキャッシュフロ− ・会社のリスク ・
 ・ ・ ・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(出所)Investor Information Needs and the
 Annual Report,SRI International,1987より作成

 そのために、米国で Financial Executives Re- search Foundation(“財務担当重役協会:The Financi-al Executive Institute”)からの資金援助によって、Stanford Research Institute International(スタンフォ−ド国際調査研究所)スタッフが1986〜1987年にかけて行った調査のリポ−ト 3) "Investor Inf-ormation Needs and the Annual Report";『投資家の情報ニ−ズとアニュアルリポ−ト(以下ではSRI調査と略す)』を主に参考として見ていくこととする。

 その調査のねらいは、“各企業のトップおよび財務担当重役に、投資家の情報ニ−ズ、ならびに財務(ファイナンス)上のコミニュケ−ションの用具としてのアニュアルリポ−トの役割の理解を促す”ことにあった。すなわちこの調査により得られた情報から、財務意思決定者は、投資家集団とのより良いコミニュケ−ション、より効果的なIRプログラムを開発し、アニュアルリポ−トの改善を図って、経営者の信頼度を高めることが出来るようにとの期待が込められていたのである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

表2.専門・個人投資家の投資情報源の相違

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・  ・利用最頻ソ−ス ・影響最強ソ−ス ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ 専 ・Annual Report ・会社経営者 ・
・ 門 ・SEC10Kフォ−ム ・その他アナリスト・
・ 投 ・四半期報告書 ・SEC10Kフォ−ム ・
・ 資 ・その他アナリスト・SECファィリング ・
・ 家 ・会社経営者   ・Annual Report ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ 個 ・Annual Report ・投資アドバイザ−・
・ 人 ・新聞 ・証券会社の分析 ・
・ 投 ・Wall Str.Journal・証券会社担当者 ・
・ 資 ・証券会社担当者 ・投資情報サ−ビス・
・ 家 ・ビジネス出版物 ・10K・10Qフォ−ム ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(出所)Investor Information Needs and the
 Annual Report,SRI International,1987より作成

[SRI調査の方法]1986〜1987年の期間、米国
全土に渡って、個人投資家および専門(プロフェ
ッショナル)投資家および(投資)アドバイザ−
を対象にし、個人インタビュ−ならびにグル−プ
・ディスカッションを行った。
[SRI調査結果の(一部)要約]
(1)専門・個人投資家の情報ニ−ズの相違;
まず、この調査において、専門投資家は次の3つ
に分けて吟味がなされた;@買い手側専門投資家
(Buy-side professional A売り手側アナリスト
(Sell-side analysts)B証券業者(Securities
brokers)
このうち、@とは銀行・保険・投資信託会社・年
金基金等のポ−トフォリォ・マネジャ−Aとは証
券会社及び投資銀行の証券アナリストBとは個人
・機関投資家対象の登録証券業者のことをそれ
ぞれ指しているものである。
他方、個人投資家についても、この調査では以下のように、3区分が行われた;
図2.投資家情報ニ−ズ(SRI)調査結果の
利用に当たっての作業手順プロセス
プ ロ セ ス
・・・・・・・・・・・  
@ 目 的 の 確 立
・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・・・・
A タ−ゲット・セグメントの選択
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・  
B 意思決定スタイルと  
情報評価システムの決定 
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・ ・・・・・・・・
C情報ニ-ズ決定 D情報源の選択
・・・・・・・ ・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
E 会社の要求との統合
およびプラン開発     
・・・・・・・・・・
 [出所]Investors Information and the Annual

Report,SRI International,1987 p.46より作成
@持久型投資家(Buy-and-hold investors)
A日和見型投資家(Opportunity-driven invest
-ors)
Bセミ・プロ型投資家(Semi-professional inve
-stors)

 このSRI調査によって判明した限りでみると、専門・個人投資家それぞれについての情報ニ−ズの内、表1.で示すように各々7つの項目が上から順に重要と考えられた(表1.専門・個人投資家の情報ニ−ズの相違を参照)。また、この調査によってみると、専門・個人投資家によって、それぞれが最も良く利用する情報源(利用最頻ソ−ス)と最も強く影響を受ける情報源(影響最強ソ−ス)の順位(各々上位から順に5つずつ)の一覧を表2.に掲げておこう(表2.専門・個人投資家の投資情報源の相違を参照)。

 このSRI調査結果の全容については、紙幅の関係上から、かつ本稿のテ−マとの関連から、ここではもはや紹介と吟味をしている余裕がない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 [ 図2.の解説]; 以下のような手順で見ていくのである;1.例えば、IRの目的が個人投資家の持ち株割合を高めて、かつ株主の安定化を図ることであったとしょう。

 2.持久型投資家ならば、年あたり平均1回未満しか売買しないという結果がこのSRI調査によって知られた。

 3.持久型投資家は、投資アドバイザ−により依存する傾向が強いことも、この調査結果より知られた。

 4.このタイプの投資家は、会社の評判・業界の動向・会社の動向・についての情報によりウェイトを重く置き会社のリスク・財務諸表情報・株価パフォ−マンスなどには、二次的なウェィトを置く傾向がある。それらの情報は投資アドバイザ−により多く依存している。

 5.このタイプの投資家は、さらに証券会社の担当者からも情報を得手、影響を受けることがある。6.従って、IR活動の焦点はこれらの投資アドバイザ−および証券会社担当者に絞ると良い。

 ただ、本節の終わりにあたって、このSRI調査報告の中で、IR(厳密には株主関係(Share-holder Relations ))プログラムを改善するために、この調査結果から得られた情報の利用法を紹介している。それは、図2.で示したような作業手順プロセスを経て、投資家集団とのコミニュケ−ションを改善しょうという一つの提案とみることが出来よう(図2.投資家情報ニ−ズ(SRI)調査結果の利用に当たっての作業手順プロセス 参照)。また、この図2.の見方についての解説を、図2.の右側に添えておくことにする。


 V.経営財務にとってのIRの意義;ファイナンシァル・マ−ケティング機能の担い手として。


 T節でも見たように、IRの主要な役割は何と言っても資本市場に対する一種の“マ−ケティング”的活動であって、その働きかけるべき相手方がまさしく投資家(Investors)というわけである。そして、働きを主体的に行う側が当該企業ということになり、“売り込みの”対象になるモノは、一般的なマ−ケティングの場合の商品・サ−ビスに相当するモノが、実はその企業自体ないしその企業の部分ということになるのである。従って、立場を逆に見るならば、そのマ−ケティング活動によって購買を誘われる顧客は、それぞれIR活動すなわち経営財務(ビジネス・ファイナンシァル)マ−ケティングに応じて、やはり当該企業に資金の供給を求められているのである。

 しかし、このことはIR活動を行う各企業が決して、自社を(さながら蛸が自分の足を切って自ら食べてしまうように)自らの手で切りさいなむわけでも無いし、切り売りをして、リストラクチャリングを図ろうとするわけでも勿論ない。

 むしろ、IR活動を自ら積極的に行おうとする企業は、さらに好条件のファイナンス(資金調達)を求めるからこそであるといえよう;そのより好条件のファイナンスとは、次の二つの条件を満たすことが可能な案件であろう。すなわち、4)

(1)資本コストを最小化出来るもの、
(2)資本構成(例えば自己資本比率や負債比率でもってその企業の財務的安定度の指標が通常算定し利用されてきている)の最適化が図れるもの、である 。

 しかしながら、まず、この2つの内(1)については、一つの盲点が有ることに注意が必要である。というのは、資本コストが低く見え有利と考えられて、その調達源泉ないし案件から資金調達があったとしても、反面で調達されたその資金の運用がしかるべき成果(収益)を達成しなければ、実に元も子も無くなってしまうリスクからは厳然として免れ得ないということである。蓋し自明の理でありながら、軽視されてしまっているきらいが窺えてならないのである。かてて加えて、最近に米国から伝えられ、かつわが国でもしきりにその重要性が叫ばれてきているように、調達された資金が、いずれにせよ早晩、エクィティ(株主資本)となるものであってみれば、資本プレミアムといえどもそれはいずれ何らかの型で還元される方途を講じておかなければならないであろう。株主価値の高揚こそがエイジェントとしての経営者に求められていることだからである 。さらに次いで、(2)については、さらに多くを述べるまでも無いかも知れないが、そもそも資本構成に最適点は存在しうるのかといった、経営財務論の領域では論じ尽くされてきたほどの論点を敢えてこの場で何故再び復活させるのか、甚だ疑問視せざるを得ないのである。従って、上記のような事柄が、IR活動の成果として期待できるといった考え方は、むしろ、余りにも楽観的に過ぎるといった謗りを免れないであろう。

 総じて云える事は、IR活動それ自体の成否は、決して、それだけでもって企業活動ないし経営財務活動全体の成否に繋がるものでは無いと言うことなのである。


W.むすびにかえて・・・わが国企業のIR;その今後の展望と希望的観測・・・

 IR活動が、ここ最近2〜3年前から、わが国でもにわかに着目されてきている。このことは、(とくに経済・経営の)いろいろな面でわが国と比較がよく行われれてきた、ドイツ連邦共和国においても同様に見られる傾向なのである。そのドイツ連邦共和国においても、このIR活動の進展は、まさにわが国のそれとほぼ同期に始められ、かつ一部の企業(とりわけグロ−バルな事業活動を営んできているBASF(化学大手)社など)で既にパイオニア的なIR活動が始められてきている 5)。また、わが国と同様に、IRの推進団体として日本インベスタ−・リレ−ションズ協議会のような組織Deutschen Investor Relations-Kreis(DIRKがその略式名称)も設立されており、すでにかなりの参加企業かあると報ぜられて来ている。しかしながら、ドイツ連邦共和国全体から見れば、こうした実例は未だ極々稀にしか見られないものである。それ自体の、成り行きをじっくり見守ってから初めても、決してバスに乗り遅れるといった性質の活動でも無いであろう。むしろ、IR活動の性格付けは、マ−ケティングの一種と観念するからには、資金のマ−ケティング活動を積極的に進める以上は、その他より一般的な財ないし用役(モノ)のマ−ケティングと同様にもしくはさらによりシビアに、そのIR活動自体につぎ込まれる資金のコスト・ベネフィット分析が肝要となって来よう。しかし、仮にIR活動が功を奏して、前述のようなメリットを実施企業にもたらしたとしても、そのベネフィット自体の測定は、その活動自体の貢献のみを分離して評価することが恐らく困難であろう。すなわち、さながらR&D(研究・開発)活動や一連のマ−ケティング活動のなかでもより戦略性の高い広告・販売促進などとも同様の性格を備えていると思われるからである。しかしながら、極めて資金需要が旺盛でかつ資金運用の成功可能性が確実であるような、不況知らずの超優良ベンチャ−企業があれば、そのような企業にはまさしくIR活動は緊要であろう。


[注]
 1)Jerome W.Blood, Investor Relations : The Company and its Owners, 1963, American Mana gement Association, Inc., アメリカ経営協会編。

 内田幸雄訳。『株主関係管理』 昭和42年 東洋 経済新報社。この本の中でGM社の関係者は、執 筆者総勢24名の内7名にまで上っている。

 2)Mark, J.Appleman, Rediscovering imvestor relations, FINANCIAL EXECUTIVE, 1984, Sep.

pp.10-14 ここではとくに、pp.10-11
参照。
 3)SRI International, Investor Information Needs and the Annual Report, 1987, Financial

 Executives Research Foundation The Research Afflliate of Financial Executives Institute, 101p. 4)Dr.Walter, Paul, Umfang der Investor Relations, BFuP, 1993, Nr.2, S.133-161, hier insbes. S.135

 5)Dr.Walter,Paul, Investor Relations-Management− demonstriert am Beispiel der BASF, Zfbf, 1991, 10, heft.43, S.923-945など参照。


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