ディスクロージャー研究学会

 

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文書No.
950601a

「格付けの機能と課題」
 

    (証券アナリストジャーナル 95. 6 特集債券格付(その2)) 
 
     吉村光威(よしむら みつたけ)1962年日本経済新聞社編集局入社、証券部次長、編集委員、データバンク局次長を経て1991年から日本公社債研究所取締役。日本経営分析学会理事。 
 
      目 次 


      はじめに 

      1. 格付けの意義と機能 

        (1) 格付けの意味 
          ―債券投資リスクの目安 
        (2) 資金の効率的配分機能 
          ―発行規制の道具ではない 
        (3) エージェンシー・コストを引き下げる 
      2. 格付けの時代的要請 
        (1) バブル経済崩壊の影響 
          @ デッド・ファイナンスへの傾斜 
          A 巨額の不良債権の発生と倒産リスク再認識 
          B 含み益の喪失と担保金融の限界 
        (2) 社債の空洞化と規制緩和  
      3. 社債市場と格付け 
        (1) 社債の投資情報 
        (2) 格付けは流通市場で定着 
        (3) 発行市場は格付けを反映しない 
      4. 格付けは金融・証券取引のキーワード 
        (1) 全ての金融機関に格付け 
        (2) ALMを格付けで管理 
        (3) 資産金融も格付け 
      5. 社債市場活性化の課題 
        (1) ジャンク債市場の行方 
        (2) 効果的な財務制限条項 
        (3) 格付機関の独立性の確保 
 
要約

1. わが国の(普通)社債市場はもともと発行規制が厳しく閉鎖的な市場であった。 
2. 1990年代にはいってバブル経済の崩壊にともないエクイティ・ファイナンスの機能がマヒすると海外起債が急増、国内社債発行市場が空洞化した。 
3. 90年代にはいってバブル形成期に発行したワラント債の償還が殺到したほか設備投資の支払が廻ってきたうえBIS(国際決済銀行)の規制で銀行貸付が抑制気味となった。 
4. このため商法を改正して社債の発行限度規制を撤廃、受託制度を見直し社債管理会社に組織変えするとともにデフォルト債を買い取るというこれまでの慣行を廃止した。社債の種類を多様化、手数料も引き下げた。銀行の証券子会社も相次いで設立された。こうして国内起債は急増した。 
5. 一方、銀行の巨額の不良債権の発生で担保金融の問題が表面化、信用リスクに対する関心が高まり、またスワップ取引などデリバティブ(金融派生商品)の活発化で、93年央から資本市場で信用リスクにもとずく社債価格(利回り)の形成が目立ち、価格メカニズムが働くようになった。 
6. しかし発行市場は規制色が強く、発行レートは格付けを反映していないものが多かった。格付けは流通市場に定着し、発行市場は今後の課題である。「格付けは発行市場に定着したが流通市場はこれから」という ¥識≠ヘウソで、このため「適債基準」など発行市場の規制を来年から撤廃することになった。発行市場と流通市場が格付けを軸に価格メカニズムによって機能的に結びつくことが望まれる。 
7.資本市場が投資家の自己責任体制のもとで価格メカニズムが働く正常なものになるにはエクイティも含め発行・流通市場とも大胆に規制を撤廃することが結局は最も近道である。特にバブル崩壊期に設けられた「懲罰的」ルールは即刻廃止するべきである。「企業者の自由で創造的な活動が資本主義であり、体制と組織で動く社会は社会主義だ」とはシュンペーターの言葉だが、「事件」の度に肥大した規制で市場は窒息している。 
8.同時に民間も有担原則中心の金融システムはデフレ経済下で破綻しているのでこれを「格付けシステム」に切り替え、含み益と持ち合いの日本的経営システムはもはや通用しないので市場経済体制に再生することが必要である。 
 

はじめに 

 わが国の社債市場(ここでは主に普通社債を考える)はかねてから発行が極く限られた閉鎖的な規制市場であったため、国内発行を避け海外、中でも発行規制の少ないユーロ市場に傾斜、いわゆる「空洞化」していた。特に1990年代にはいって、わが国の企業は設備投資資金の支払が回ってきたうえ、80年代後半に大量に発行したワラント債の償還に追われたが、バブル経済の崩壊でエクイティ・ファイナンスが行き詰まり、銀行貸付もBIS(国際決済銀行)基準の設定から貸し渋りとなった。こうしたことから社債などデッド・ファイナンスに傾斜するためその規制を解除せざるを得なくなった。発行限度の撤廃、デフォルト債の買い取り廃止、社債の種類の多様化、手数料の引き下げなど相次いで対策が打ち出された。これによって発行金利の低下もあって国内起債が量的に急増するとともに大型化した。 
 一方、質的にも債券取引の価格形成は、スワップ取引などデリバティブ(金融派生商品)の導入で市場に価格メカニズムが鮮明に働くようになり、93年央から普通社債の価格は格付けに応じ格付けの高い(リスクの低い)ものにはレートが低く、格付けの低い(リスクの高い)ものには高く、形成されるようになった。この背景にはバブル経済の崩壊で貸し倒れが巨額に発生、デフォルト・リスクの認識が高くなったこともある。 
 こうしたことから自由で開かれた市場経済をもたらす「格付けシステム」がようやく本格的に認識されつつあるともいえる。格付けは行き詰まった「有担原則」に代わる「信用リスク基準」という一つのシステムであり、リスクとリターンの関係をポートフォリオに陽表的に示すため、国民経済的にも資金の効率的配分の機能をもつ。資金を調達するものから運用するものまで金融機関はもとより企業も格付けを取得する段階にきている。 
 格付けシステムがより効率的に機能するためにはエクイティ・マーケットも含め資本市場全体の各種規制の解除をはじめ市場の透明性を高めなければならない。引き受け会社、管理会社、機関投資家やその関係者から独立の第三者でかつ勝手に格付けするのではなく、発行体との十分なコミュニケーションのもとで日本の企業経営に通じた専門のアナリストによって「本物の」の格付けは存在する。「関係者」の利益相反による格付けは情報の非対称性を起こし、価格形成が歪められる。再びバブル経済のような「市場の失敗」を起こさないようにしなければならない。 
 来年早々には先進国に例を見ない「適債基準」が撤廃されるほか一律適用の「財務制限条項」は「特約条項」に衣替えする。歴史的な転換であるが、より根本的には、バブル経済の形成にいたるまでの日本の企業金融独特の@「有担原則」の日本的な金融システム、A「含み益」と「持ち合い」の日本的企業経営システム、B不透明な行政指導や自主ルールという規制体制は、バブルの崩壊でことごとく「コペルニクス的」な抜本的改革を迫られている。 
 本稿は「証券アナリストジャーナル」の編集を担当しておられる太田八十雄つくば国際大学教授から依頼があったので書いた。かつて本誌は「債券格付」の特集(90年)を掲載しており、今回は2回目の特集という。適債基準撤廃が決まり、格付けが新しい段階を迎えたとの認識が今回の特集のきっかけのようであるが、それだけに改めて格付けの意味と機能を問い直し、若干の実証分析をふまえながら報告したい。実証分析は日興証券投資工学研究所の鈴木茂央氏によるところが多く、記して感謝したい。当初題名は「格付けの機能と問題点」であったが、「問題点」の指摘もさることながらもうすこし前向きにするため「課題」とした。なお、意見にわたる部分はすべて筆者の個人的見解であることを予めお断りしておきたい。 
 
1. 格付けの意義と機能 
 (1) 格付けの意味 
 ―債券投資リスクの目安 格付けは債券などの元利の支払能力、つまり信用リスクを評価し、AAA(トリプルA)など分かりやすい記号で格付け機関が金融・資本市場に示す投資に関する意見、すなわち投資情報である。あくまで意見であるので格付け機関によって格付けが異なっているのは当たり前である。また投資の保証ではないので、投資のよって生じるリスクや損失を補填するもではない。本来投資リスクの目安である。 
 格付けは個々の債券にそれぞれ格を付与するが、元利を支払うのは債券の発行体であり、一つの発行体が発行する複数の債券の格付けはよほど条件に違いがない限り同じ格付けとなる。発行体が期間のキャッシュフローで発行時の契約通り債務を返済するとみられる場合、「健全」といえるだろう。しかし資産を売らなければ償還できないようではおぼつかないし、別の負債で賄うようなこともあろうが、デフォルト(債務不履行)に陥ることもある。デフォルトに陥った場合、その回収が問題になるが、格付けには回収率も含意していると考えて良い。 
 格付けは発行体の事業展開、財務構造などからあくまで将来の負債の返済能力を測定・評価するもの。あくまで「負債」であり、「資本」ではない。一般に企業評価は資本の評価であるが、「資本」の配当が予め約束されていないのに対して、負債の元利返済は契約によって決まっている。利益の配分は成長によって急増することもあるが、ゼロにもなる。金利は決められた分しか支払われない。償還まで長期にわたるため約束通り元利が償還されることが問題になる。 
 格付けはAAA,AA、A、BBBクラスまでは投資適格でBB以下はジャンク債と呼ばれる。 
 (2) 資金の効率的配分機能 
 ―発行規制の道具ではない 債券の発行・流通が自由な市場では債券の価格(利回り)は格付け別に図1の形をとる。 
 債務支払能力が高い、安全な債券は利回りが低く、同能力が低くなるにしたがって利回りは高くなる。それだけ不払いの危険が高くなるのでそのリスクプレミアムを要求するもの。格付けが市場で機能するとはまさにこのことで信用リスクに応じて債券のレートが決定され、初めて格付けは市場に定着したといえる。この市場レートをもとに発行レートが決定されると流通・発行両市場で格付けが機能を発揮する。 
 
 
 
図1 格付け別利回り構造モデル 
 
 
 
 デフォルト・リスクの高い負債には高い金利を要求されるので企業はリスクを回避し安全な経営を進めるようになる。その結果より健全な経営が広まる。一方投資家はリスクとリターンの関係から資産を選択する。ハイリスク・ハイリターンを求めるリスク・ラバーがいればこれの逆のリスク・アバーターもいる。この結果資本市場で資金の需給が突合し、価格メカニズムによって資金の効率的配分を国民経済にもたらす。もともと発行規制の道具ではない。 
 また債券や発行体に関する情報が関係者に十分流布され、「情報の対称性」が確保されないと市場は不完全になる。発行体や引き受け会社・管理会社に情報が遍在していた場合や独立の第三者でない当事者やその周辺からの格付け情報は、超過利益が情報優位者にもたらされ、ひいてはこれが原因で市場の価格形成は歪められる。これがそのまま高進すると「情報不足の欠陥品」がはびこり市場は崩壊する(レモン マーケットの理論(注1))。 
 格付けは発行体、アンダーライターや社債の管理会社と関係の無い独立の第三者の格付け機関の専門のアナリストがこれに当たるのが当然である。これに関係する関係者が格付けを行うことは一種のインサイダー取引で情報の対称性どころか非対称性をもたらすことになる。 
 (3) エージェンシー・コストを引き下げる 格付けはいわゆる「企業理論」からも一定の役割が認められる。なかでも米国の「エージェンシー・コスト・アプローチ(注2)」によると社債権者(プリンシパル=依頼人)は経営者(エージェンシー=代理人)に契約によって資金を提供しているが、契約通り元利が支払われるかがこのプリンシパルの重要な問題。エージェンシーが別のプリンシパルである株主に向けて過大な配当をしたり、エージェンシー自身のために過大な設備投資をすることで社債権者のリスクを高めるかもしれない。このことを「エージェンシー・コストが高まる」といい、キャッシュフローから設備投資を差し引いた「フリー・キャッシュフロー」がこのような危険をもたらしやすいといわれる。 
 格付け機関は社債権者のためエージェンシーがこのようなリスクを犯さないようキャッシュフローを絶えずフォローアップしている。危険を犯せば格下げをもって社債権者に知らせ、その結果債券価格が低下(利回りが上昇)してエージェンシーの次の資金調達コストに影響を与える。このことをエージェンシーが理解しているのでこのようなリスクを避ける。つまりエージェンシー・コストが引き下げられる。金融機関は社債権者と同じく債権者であるプリンシパルの一つであるが、以上の論理から銀行など貸付者の審査と格付け機関の格付けはいずれもエージェンシー・コストを引き下げようとしており、これを競う形となるのが望ましい。しかしこれがメインバンク制のもとでは負債間の利益相反があるうえエージェンシーがプリンシパルから送り込まれているケースもあり、矛盾が起きる。日本的経営体質の大きな課題である。 
 
2. 格付けの時代的要請 
 (1) バブル経済崩壊の影響@ デッド・ファイナンスへの傾斜 
 ―エクイティ・ファイナンスの行き過ぎと行き詰まり 
 表1に示す通り1980年代の後半、上場会社の増資、転換社債、ワラント債のいわゆるエクイティとそのからみのファイナンスが内外で盛んに行われた。 
 この資金調達はデリバティブを用いるなどして、当時「無原価資金」とか「マイナス金利の調達」と呼ばれ、一方で調達の傍らで資金は株式など運用に廻されその運用益で調達コストを賄うかそれ以上の益をあげるというもの。このメカニズムは行き着くところまで突き進んで、90年代を迎えた。図2に示す通り調達と証券など金融資産での運用はほぼ同じ勢いで増加している。 
 金融機関を含め事業会社も互いに株式をもち合う形で調達と運用がスパイラル状でバブル経済を形成していった。株価は「法人相場」といわれ、結果的に配当利回りは極端に低くなった。この資金調達は勿論実物投資にも廻され、設備投資はバブル崩壊後の91、92年まで支払は高水準が続いた。 
 
 
 
表1 エクイティ・ファイナンス推移 
(千億円) 

年度 (1) (2) (3) (4)
84858687888990919293
19416711717626451632650
 9451535632
 11635517076913620
92034508326371721
   
     (1) エクイティ・ファイナンス合計 
     (2) 国内時価発行増資(内数) 
     (3) 国内転換社債(同) 
     (4) 海外新株引き受け権付社債(同) 
     -は0または微量、四捨五入 
    (大蔵省の適債基準撤廃に関する説明資料から) 
 
 
 
図2 資産・資本残高の推移 
 
金融資産=手元流動性+長期投資 
営業資産=投下資本−金融資産 
(山一証券経済研究所:証券月報95/5「企業財務の近代化とEVA」から) 
 
 
 
図3 テコ(負債倍率) 
 
上場1229社集計値(日経財務データによる) 
 
 
 
 しかし影響が大きかったのは内外の資本市場から集めた資金を金融機関の返済にあてたこと。図3に示すとおり、負債比率は極端に低下した。 
 銀行をはじめ金融機関は上場大企業からの借金返済に対応するため、余剰資金を不動産や株式を担保とする貸付に積極的に振り向けた。規制金利下では利ザヤが保証されており、競争は「量」に偏る。預金を増やし、貸付を増やすことのみに金融機関を走らせた。高度成長時代の「規模の利益」の追求の最後の場面であった。不動産の担保評価も「値上がり」前提の行き過ぎた貸付が多かったことはバブル崩壊後一斉に明らかになる。 
 バブル経済の形成の過程をエージェンシー・コスト・アプローチで考えると、証券会社、金融機関と企業のエージェンシーは互いに情報交換して資金の調達と運用を行ったため、情報は当事者のみに遍在し、市場は情報の対称性が著しく欠如し、市場は行き着くところまで行き着き、結局「市場の失敗」となった。プリンシパルとエージェンシーの関係は系列取引を含む「仲間うち」の閉鎖社会のなかで混同、悪用されそれぞれの本来の監視機能を喪失した。貸付者が株主であり、これがエージェンシーを送り込んでいるという関係からバブルは形成されたといってよい。銀行の審査部は営業の付属に堕落し、エージェンシー・コストはいやが上にも高まった。バブル崩壊の過程で証券界の損失補填事件や銀行の不法貸付の発覚がこの間の事情を証明したといえる。 
 もともと銀行・証券会社にたいする行政の徹底した「保護的規制」がこのような「仲間うちの市場」を形成させたことが問題として指摘された。証券関係だけでも496項目の自主ルールという行政指導もあった。議会を通過しないまま実効(実害?)のある政策(通達)が打ち出されたのは枚挙にいとまがない。バブル崩壊の過程でさえつくられたルールを未だ廃止されずに温存されている。ノーベル経済学賞を受けたマートン・ミラー教授は筆者に後に日本の資本市場を評して「人形浄瑠璃のようなもの」と後ろで糸を引いている何かの存在を指摘した。米国から市場の開放、自由化を激しく要求された。 
 増資が利益の額をはるかに上回って伸びたため図4に示すとおり、株主資本利益率(ROE)は急速に低下した。 
株主資本利益率(r)(注3)は 
r=p+(p−i)D/E 
但し p:総資本利払い前利益率 
   i:負債利子率 
   D:負債 
   E:株主資本 
と表せるが、p−i=利ザヤが縮小したこともあるとはいえ、D/Eつまり負債倍率が前述の通り急速に低下したため89年度から早くもrが低下を始めた。この結果、90年代にはいり株価は急速に値を下げ、エクイティ・ファイナンスの機能はマヒした(表1参照)。80年代後半に大量に発行した新株引き受け権付き社債の償還が90年代にはいり到来し、償還資金の調達に企業は追われたが、金利の低下もあって普通社債の発行に走った(図5参照)。 
 
 
 
図4 株主資本利益率 
 
出典:図3と同じ 
 
 
 
 ここでの普通債の発行増加はa従来から大宗を占めていた電力債が90年度以降急増した、b海外発行が同じく90年度から大幅に増え、国内の空洞化が叫ばれた、cこのため電力以外の一般事業債の国内発行が92年度から電力債並に急増した――ことによる。国内発行社債の国内消化は一般事業債の増加とともに80年代後半にかけて「個人」・「都・長銀」計50%超から90年代にはいって「公務員共済組合・学校法人・宗教法人・事業法人・証券会社の自己など」が60〜80%を占めるようになった。保険・農中・信託銀もシェアーを高めたことが注目される。 
 
 A巨額の不良債権の発生と倒産リスク再認識 
 バブルの崩壊は不動産・株式への貸付が貸し倒れになるケースが多く、金融機関の不良債権は90年代に入って急増した。バブルの崩壊で失われた資産価値はピーク比おおよそ株式300兆円、不動産700兆円の計千兆円といわれた。表2は最近の都・長・信託銀行(日本信託除く20行、*は大和総研推定)の不良債権の状況である。 
 
 
 
図5 普通社債の発行推移 
上段は海外、下段は国内公募 
 
出典:表1と同じ 
 
 
 
表2 不良債権 
   (94/9末、億円) 
公表不良債権 金利減免債権(*) 合計(A) リスクア・セット  残高(B) A/B(%) 実質自己資本(*) A/C(%)
121,129
156,650
277,779
4,409,216
6.30
429,737
64.67
     
 土地・株式の高値からバブル崩壊まで1,000兆円の喪失とはいえこの不良債権の大きさは異常。米国ではBB格債の10年間の累積倒産率は15.21%、BBB債のそれは3.66%である(注4)。巨額の貸し倒れの発生はいやがうえにも倒産リスクを再認識させた。この結果金融機関は倒産リスクを織り込んだ貸付を考慮せざるをえなくなり、大きな荷物を負った。今後の金融・資本市場の問題はすべてこれを前提に考えざるを得なくなった。 
 
 B含み益の喪失と担保金融の限界 
 バブル経済の崩壊にともなって企業の手持ちの株式や不動産の時価も下落し簿価を割っているものが増え、平均して簿価に近づいている。これまで間接金融中心に企業は主に不動産の含みをテコに借り入れし、その後のインフレで「債務者利潤」を享受し、成長してきた。企業に貸し付けると言うより「不動産」に貸し付ける「担保金融」制度がバブル経済を起こしたが、これがむしろ行き過ぎ大量の不良債権の発生につながった。不動産に係わる不良債権は「自己競落」(金融機関の管財子会社が落札)するが、なお「含み損失」が残るという厳しい実状である。含みが少なくなると担保金融は自ずと制約される。金融機関自身も株式の含み益はバブルの反動で急速に減少している。日経平均が12,000円になれば多くの金融機関は株式の含みをなくすといわれている。担保金融原則は昭和恐慌の中から生まれたが、デフレ経済下では根底から揺さぶられている。「工場財団」も円高による国際競争力の喪失で著しく担保価値を下げている。 
 (2) 社債の空洞化と規制緩和 デッド・ファイナンスの国内空洞化を防ぎ国内発行を増やすためこれまで規制が強かった社債制度は次々緩和された。バブル崩壊の過程に絞ってこれを挙げるとまず社債法の改正が挙げられる。社債は従来商法297条で国内無担保普通社債を新たに発行できるのは純資産の範囲内、またこれ以外の転換社債、新株引き受け権付き社債、外債、担保付き社債を発行できるのは純資産の2倍までであった。このような規制はイタリアを除き欧米にはみられないものであり、収益力があるのに資産が少ない小規模高収益会社や商社には円滑な資金調達の妨げであった。これを完全撤廃するとともに社債権者保護のため従来の受託会社から管理会社に権限を明確にし、発行会社の業務・財産状況に関する調査権を新たに付与した。同時にこの際事実上の機能であった発行会社の経営破綻時に社債の買い取りを行ってきたが、これ以降はこれを「予定しない」こととなった。これは重要な変化で「社債にデフォルトなし」というこれまでの慣行(表3)を打ち破るもので「社債にデフォルトもある」ことは信用リスクを投資家サイドは考慮せざるをえなくなった。同時に社債の管理会社は(メーンバンクが多いが)社債以外の債務との優先・劣後を厳正に管理・処理しなければならない。利益相反があってはならない。発行限度規制の撤廃が社債の量的な規制に関するものとすればデフォルト債の買い取りの廃止は質的に社債に対する考え方を変えるもので、まさに社債発行・投資の自己責任原則を認識させるものであった。投資家は社債のデフォルト率とその回収率を念頭に入れた格付けをもとに投資採算をはじくことが課題となった。投資採算は「デフォルトなし」に比べて大きく異なるため、デフォルトを考慮している社債格付けへの認識はいやがうえにも高まった。 
 社債法の改正と慣行の廃止のほかは有価証券の定義を拡大して「新しい有価証券」として企業金融型に加え「資産金融型」の有価証券を認めた。社債の種類、期間の多様化、大型私募債制度、手数料の引き下げなどこの間相次いで行われた。 
 
 
 
表3 戦後の主なデフォルト社債とその処理 
 
1978(昭和53)年
起債企業社債種類発行残高受託銀行引受主幹事社債の買取り状況
(百万円)
1953(昭和28)年6月津上製作所転換社債発行額250大和野村和議申請―償還期限を延長(31.3.31から35.3.31へ)
1954(昭和29)年11月高砂鉄工普通社債140勧銀日興会社更生法適用申請―受託銀行一括買収(額面価格)
1955(昭和30)年7月東洋繊維普通社債377興銀・広島大和会社更生法適用申請―受託銀行一括買収(理論価格)
1955(昭和30)年9月川南工業普通社債発行額200富士野村受託銀行買取、肩代わり、弁済計画不明
1965(昭和40)年2月日本繊維工業普通社債318三和・勧銀日興会社更生法適用申請―受託銀行一括買収(額面価格)
1965(昭和40)年3月山陽特殊製鋼普通社債200神戸・興銀・三菱山一会社更生法適用申請―受託銀行一括買収(理論価格)
1969(昭和44)年4月明治鉱業普通社債408三井・第一・北拓野村会社解散―受託3行一括買取
1975(昭和50)年3月興人普通社債186一勧会社更生法適用申請―受託銀行一括買収(額面価格)
転換社債690一勧・三井信・三菱信会社更生法適用申請―受託3行一括買収
2月永大産業普通社債932大和・一勧・三菱信日興会社更生法適用申請―受託3行一括買収(額面価格)
転換社債1,300大和・一勧・三菱信日興会社更生法適用申請―受託3行一括買収(額面価格)
ユーロドルCB3,092千ドルトラスティー・ディベンチャー社日興保証銀行3行買取(額面に対し104%)
1984(昭和59)年2月大沢商会SF普通社債約1,000千SF三和(保証会社)会社更生法適用申請―保証銀行代理弁済
1984(昭和59)年7月リッカーSF転換社債約850千SFなし会社更生法適用申請
1985(昭和60)年8月三光汽船普通社債9,180大和・長銀・東海日興、山一会社更生法適用申請―受託銀行一括買収(額面価格)
転換社債3,200大和・長銀・東海日興、山一会社更生法適用申請―受託銀行一括買収(額面価格)
1991(平成3)年8月マルコーSF転換社債約11,579なし会社更生法適用申請
1992(平成4)年5月レックSF転換社債約89なし会社更生法適用申請
   
    (注:1) SFは、スイスフラン建。 
    (注:2) マルコーの発行残高は2回発行した転換社債の合計で、91年6月末現在の残高を円換算したもの。 
    (注:3) レックは、91年9月末現在における発行残高を円換算したもの。 
    (「適債基準等基本的見直し」に関する大蔵省資料) 
 
 
 
3.社債市場と格付け 
 (1) 社債の投資情報 社債に投資する場合考慮しなければならないことは価格の変動、つまり金利の変動リスクである。資金の需給で変動する。市場全体の金利変動に併せて社債の利回りもまた変化する。また外債なら為替リスクがつきまとう。転換社債などは株式転換権の価値が投資の決め手になる。個別の社債については発行額など流動性によってリスクが生じる。このため最近流動性を格付けしてはどうかという考え方が英国で提起されている。英金融イノベーション研究センターは起債規模、発行体の知名度、マーケットメーカーの数などで評点化、L1からL5まで5段階で示すもの。わが国ではまずきちっとしたマーケットメイクが必要である。 
 
 
 
図6 米格付けクラス別イールド・スプレッド 
(対TB) 
 
 
 
 しかしなんといっても信用リスクが社債価格の決定的要素。米国の社債の流通市場においてハイ―コリティ債(AAA―AAクラス)、ミドル―コリティ債(A―BBBクラス)、ハイ―イールド債(BB―Cクラス)はTB(財務省証券)にたいしてそれぞれ図6に示す差がある(ウオール・ストリート・ジャーナルより計算)。 
 TBに対してハイクラス(AAA―AA)の社債は50―80ベーシス、ミドルクラス(A―BBB)で100―120ベーシス、ハイイールド(BB―C)のジャンク債は300―400ベーシスの差である。またこの間、グラフからも分かるように金利水準が高い場合より低い方が、格付け別利回り格差が大きい。 
 
 
 
図7 社債発行市場の#LIBOR#スプレッドの推移 
(日本公社債研究所格付けによる) 
 
 
 
 (2) 格付けは流通市場で定着 わが国では格付けは社債の流通市場にどのような影響を与えているか、実証分析(参照:日経金融新聞94年11月18日金曜ゼミナール「格付け格差広がる」:日興リサーチセンター(当時、現在日興證券)投資工学研究所課長代理鈴木茂央)によると図7となる。(価格は日本証券業協会の店頭基準気配による電力を除く一般事業債、格付けは日本公社債研究所による。格付けのうち例えばAAクラスではAA+(プラス)、AA−(マイナス)は除外しAA(フラット)のみを用いている。)これは債券を6カ月円LIBOR金利で調達、得られた固定キャッシュフローにたいし固定支払い/変動受けの円ー円スワップを構築すると得られた変動金利(LIBOR+α)のαはスワップ相手が倒産しない、債券が途中償還しない限り、債券の信用リスクであることによる。 
 グラフで示すとおり格付けは93年夏まではAAAと「それ以外はひとかたまりのダンゴ状態」であったのに対して、それ以降はBBBの格差が拡大、AAAとAA、AAとA、AとBBBのそれぞれの差がだんだん大きくなるという形でスプレッドが形成されるようになる。格付け別に利回り構造が形成されるように、市場に定着したように見受けられる。その後、AAA債がスワップ金利を下回ったが、BBBのスプレッドが急速に縮小、全体として差が小さくなったものの格付け別の差は逆転することはなかった。格付けは流通市場に定着したといえよう。 
 「倒産学」の権威でジャンクボンド研究の第一人者であるニューヨーク大学のアルトマン教授は「いずれは東京マーケットも合理的になると教室で教えてきたが、やはり市場の国際化が意外に早くそうさせたのではないか。AAAとBBBのスプレッドも米国並だ」とコメントしてきた。 
 不況の長期化で貸し倒れの大量発生など信用リスクが認識されたことが背景にあるが、直接的には国際的なスワップ取引などデリバティブ取引が東京の外銀・外証中心に活発となったことが響いている。デリバティブ取引においてはLIBORに格付け別スプレッドと取引相手方のリスクを加えて行われるためである。 
 日本公社債研究所の格付けは日系2社より「辛い」(野村総合研究所企業財務レポート95年5月号:「格付け機関を比較する」)といわれているが、流通市場は格付けは「辛い」方が用いられている。 
 
 
 
図8 社債発行市場、流通市場の#LIBOR#スプレッドの推移 
 
 
 
 (3) 発行市場は格付けを反映しない 流通市場に対して発行市場はどうか。 
 図8は図7に発行市場のレートをドットで示したものである。発行レートは手数料を考慮したもので、いわば発行者コストといえる。発行価格で債券を購入してアセットスワップを構築した場合のスプレッドを示している。 
 グラフから分かることはこれまで格付けが発行レートとなんら関係ないこと。さらに94年にはいって、LIBORより低い(アンダーLIBOR)ものが登場している。発行体は銀行金利より低いレートで資金調達したことになるが、流通市場では格付け別にレートが決定しているためこの新発債はやがて流通価格にサヤ寄せすることを意味している。これは投資家が負担することになる。格付けは発行市場の適債基準として規制の道具であったが、発行レートは別の論理でレートを決定しており、規制は市場には何の意味もなかった、単なる起債のハードルに過ぎなかったことが分かる。価格メカニズムが機能していなかった。また発行市場は「甘い」格付けを採用する嫌いがあるが、適債基準撤廃後は流通市場に用いられている格付けが発行市場でも使われることになろう。 
 
4. 格付けは金融・証券取引のキーワード 
 (1) 全ての金融機関に格付け デリバティブ取引をはじめ証券・金融取引では信用リスクがキーワードになっている。BISは「金融仲介機関によるマーケット・リスクおよび信用リスクのパブリック・ディスクロージャー」に熱心で、世界の金融仲介機関は年次報告で取引相手(カウンター・パーティー)の格付け別取引高を開示するようになった。例えば、スイス銀行は94年のアニュアル・リポートで、行内システムによる格付けは6段階と非格付けに分類している。要するにこれは世界中の取引先金融機関を信用リスクでランク付けしているわけである。つまり金融・証券取引はBISの勧めで信用リスク基準が用いられ、信用リスクが低い取引先はその分取引に際してリスク料を支払わなければならない(カウンター・パーティーリスク)。世界のデリバティブ取引は92年末で既に17兆ドル(想定元本)という巨額に達しており主要な金融機関はこれに必ずといっていいほど関わっているため、格付けは必ず取得せざるを得ないと言える。最近、ロンドンで邦銀系のデリバティブ子会社が最上格のレーティングを取得するケースが出ている。 
 (2) ALMを格付けで管理 国内においては銀行の貸付も「上場会社なら皆同じ」プライム・レート(最優遇貸出金利)の適用から「信用リスクに応じたレート」に変更しつつある。この場合、LIBORに信用リスクに応じたプレミアムを上乗せしたレートが適用されている。都銀の短期貸付の27%がこれに該当するという(日本経済新聞95年5月17日「企業融資短プラ形がい化、リストラ圧力で金融価格破壊――スプレッド型浸透」)。かねて大企業向けのプライム・レートでは「儲からなかった」のにたいして「中小企業向けで大いに儲けた」が、スプレッド貸付はこれを大企業にも当てはめようというもの。 
 このため銀行など金融機関はALM(アッセト・ライアビリティ・マネッジメント)システムのなかで取引先の信用リスク評価システムを構築しつつある(日本経済新聞94年9月13日、「大和證券、与信業務に基準設定、リスク管理強化」同94年11月9日、「東銀、融資に格付け」、同95年2月1日、「第一勧銀、中小向け融資格付け」)。ただし、格付けは独立の第三者の格付け機関の客観的な評価であるが、各金融機関のALMの中の信用リスク評価はそれぞれの金融機関の評価であり、違いがある。米国の投資銀行はこうした内部格付けと公平な第三者の格付けを絶えず比較検討し、ALMの運営の効率化を進めている。 
 (3) 資産金融も格付け これまで企業金融型の債券について述べてきたが、資産を切り出し(オフバランス化)それを担保に新たに債券を発行する「資産金融型」の債券の発行が国内でも来年から認められる。リースやクレジットなどからこれが進められるが、一般事業会社も売り掛け金を担保に同じようなことが可能である。資産金融型の債券を企業金融型債券より高い格付けを取得することでより有利な資金調達も可能である。質の高い債権ばかりを切り出し、資産が空洞化すると本体の格付けが引き下げられるかもしれない。格付け機関がこれを判定することになるが、資産金融型債券で高い格付けが得られる仕組みを格付け機関は提案できなければならない。 
 
 
 
図9 米・ジャンク債発行推移 
 
(日本証券経済研究所:証券研究111巻95年1月「ドレクセル社倒産後のジャンク債市場」柴田武男著による) 
 
 
 
図10 米・デフォルト後の債券の価格/100$ 
1971→1994 
 
 
 
5. 社債市場活性化の課題 
 (1) ジャンク債市場の行方 社債の発行は現在BBB以上が起債できるという適債基準があるが、来年からはこれが撤廃され原則的にはジャンク債のBBクラスでも起債できるようになる。「金融を除く上場会社の格付け未取得企業の1,275社の内BB以下は522社」(ニッセイ基礎研究所推定:同所調査月報94年5月、ちなみにBBBが572社、A137社、AA41社、いずれも+、−の区分は付与していない)である。とりあえずBBBクラスが起債に走るだろうが、BB債の起債も行われよう。信用リスクが高いのでそれなりのクーポンをつければ買う投資家が現れるかも知れない。これまでの受託銀行は発行体が債務不履行に陥った場合社債を買い取っていた。しかしこれがなくなるので、倒産すると時価ベースで債務超過になるケースが多く、債権カットが大幅で弁済期が長いわが国の場合、担保付でも社債の回収は多くを望めそうにない。今後はあくまで投資家の自己責任でこれは行われなければならない。 
 米国ではジャンク債(格付けがBB―C)は図6の通りTB(財務省証券)に対して400ベーシスものスプレッドがある。80年代ジャンク債の引き受け会社が倒産し一時下火になっていたが、90年代にはいって徐々に件数、発行額も増え、93年は444銘柄、817億ドルと過去最高で、社債の全発行額の30.2%を占めるようになった。(図9参照、比率では88年の39.8%が最高)。 
 しかしジャンク債はデフォルトの危険が高い。米国でもデフォルト6カ月前の格付けがBB―Bで246銘柄、全デフォルト銘柄の44%を占める(Edward I.Altman & Vellore Kishore Defaults and returns on high yields bonds analysis through 94)もちろんCCCがデフォルトが一番多いが、Aが2、BBBが38(全体に対する比率6.8%)もあったのは注目される。また図10は発行当初取得した社債の格付けのデフォルト後の価格を100$当たりで示したもの。いわば回収率であるが、BB以下は40$にもならない。さすがにAAAは80$台である(出典は同上)。 
 ポートフォリオ(資産選択)はハイリスク・ハイリターンものからローリスク・ローリターンものまで組み入れ全体として一定のリスク管理のもとでリターンを確保するもの。BB以下のようにハイリスク・ハイリターンもポートフォリオ・マネージャーは一部組み入れないとパフォーマンスを上げられない。いずれにしても一般事業会社の普通社債が10兆円規模の残高ぐらいないと流動性リスクが高い。 
 
 
 
図11 株主資本(指数) 
倒産10期前=1 
 
 
 
 (2) 効果的な財務制限条項 適債基準の撤廃とともに財務制限条項の一律的な義務づけを廃止し、当事者間でまさに契約されることになった。大いに創意工夫のある「財務上の特約」が誕生し社債市場が活発になることを望む。「ヒナ型」が当局から提示されるが、あくまで例示である。「ヒナ型」は担保重視でかつ一律適用の延長線の上にあるように見受けられる。担保重視は先に述べたように現実に問題だらけのためもっと投資家保護上効果的なものを考えなければならない。 
 ヒナ型の「その他の特約」に属する純資産維持、利益維持特約(ヒナ型では配当制限は削除されている)はこれまでも付与されていた。しかし倒産した興人、リッカー、大沢商会のケースを調べてみると株主資本は倒産1期前まで増加しており(図11参照)、純資産維持特約があってもなんら機能しなかった。 
 いずれも粉飾決算の為ともみられるが、受託銀行のメーンバンクはその間の事情を理解していたから社債を買い取らざるをえなかったのか。 
 ユーロ市場では財務制限条項は少なく、わが国があまり厳しい契約にすると再び空洞化を招く。管理会社は担保を中心に一律的標準型を、引き受け証券は社債の商品性を高める工夫をするとみられる。高成長であるが、担保力のない情報産業などへの配慮も必要であろう。また財務制限条項に用いる財務データは単体か連結かといえば興人など3例でも分かるとおりいろいろな問題を抱えているが連結が実態を示す。ただし連結制度は@連結配当、A連結税制、B純粋持株会社が認められ、かつ国際基準に合わせるのが望ましい。単体でも倒産判別に有効といわれる「経常収支比率」は興味深い。リースバック制限、自社株買い取り制限、ABS(アセットバック証券)による資産空洞化問題、期限の利益の喪失と期前償還など検討すべき課題は多い。米国は担保付きにさえ財務特約をつけることがあるが、格付けをトリガーにする財務制限条項さえある。財務制限条項が厳しすぎて「これを守るコストがかかりすぎ1格低い格付けを甘受する方がコストが低い」ことからAからBBBに格下げし、積極的に設備投資し発展した企業(マリオット・ホテル)があるほど(「企業財務入門」日本経済新聞社刊、井手正介著参照)だが、これが究極の契約社会というものか。 
 (3) 格付け機関の独立性の確保 社債流通市場はバブル崩壊時損失補填の道具に使われたため、今後こういうことのないようにと債券価格の報告は大蔵、公取委のほか検察、そして警察にまで行われている。事件の度に規制が厳しくなった典型的な例であるが、先進国で例をみないこのような規制は即刻廃止すべきである。発行市場だけが自由化し、銀行子会社の証券会社まで認められても流通市場にこのようなルールが残っていては国際化などいつのことになるかおぼつかない。 
 流通市場の問題は決済システム。マーケット・リスク、クレジット・リスクに加え決済リスクまで高くなってはたまらない。決済に1カ月もかかることがあると関係者はいう。決済システムを構築する際、国際的に通用する機構を構築するのがよい。これまでの既得権益を市場に開放することが市場全体の大きな利益につながることはユーロクリアーが証明している。 
 格付け機関の利益相反も根本的に問直されなければならない。メーンバンクが社債の管理会社になり、その証券子会社が引き受け、出資・出向している格付け機関が格付けしている構図はよほど厳重なチャイナウオールがないと個人投資家を含め正常な市場には理解できない。米国の場合、SEC(証券取引委員会)のNRSRO(全米認知統計格付け機関)の指定の条件は@利益相反がない、Aカバレッジが高い、B名声が高い――である。格付けの独立性が格付け情報の価値を決定する。厳しい格付けだから指定格付け機関から外すなどという行政の介入は論外である。格付けが信用システムになったからである。ディスクロージャーが情報の対称性によってのみ価値が出るが、情報優位者が非対称をもたらすと「いつか来た道」で「市場は再び失敗」する。 
 マートン・ミラー教授の今年の年賀状には「MOFは最終的には市場経済を受け入れるだろう。それが私の希望だ」と書いてあったが、そうなる日が待望される。 
 
(注1) レモン・マーケットの理論: 
  George A.Akerlofが1970年クォータリー・ジャーナル・オブ・エコノミックスで発表した「レモン・マーケット:品質、不確実性とマーケットメカニズム」が提示した情報経済論。レモン=欠陥車は外からその品質はわからない。この場合、品質に関する情報が供給者、需要者どちらかに偏ると市場の価格形成が歪められ、やがては市場は崩壊するというもの。公正な価格形成は量的には需給の合致によるが、質的には情報の対称性が求められる。 
(注2) エージェンシー・コスト理論: 
  企業を契約の束と考え、例えば資本の提供者(委託者=プリンシパルという)は資本の運用者たる経営者(エージェンシー=代理人)との関係を一つの契約と捉え、エージェンシーが勝手な行動をとってプリンシパルに負担(コスト=機会費用)をかけないようにする仕組みを考える理論。キャッシュ・フローから設備投資を差し引いたフリー・キャッシュ・フローが多いとエージェンシー・コストが高くなる危険が大きいと言われる。 
(注3) ROE: 
  rE=p(E+D)−iD 
  利益=利潤−利子 
  r=p+(p−i)D/E 
  p>iのもとでDの増加はrの上昇をもたらす。 
(注4) Edward E.Altman and Bobe E.Simon: The Investment Performance of defaulted bonds for 1994 and 1987-1994, New York University Salmon Center.なお日本の累積倒産確率平均は信用ランク上から第5位クラスで5年計、5.62%(帝国データバンクのデータにもとづく:日本経済新聞社刊「ALM手法の新展開」西田真二著による)。また昭和53―57の5年間に会社更生法適用申請178社中平成5年に債務を弁済し更生終結したのはわずか18%の32社にすぎなかった。貸し倒れの回収率は悪い。(商工リサーチ:TSR情報による) 
 


お問い合わせ ik8m-ysmr@asahi-net.or.jp

 
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