文書No.
960618
平成8年6月18日自由民主党行政改革推進本部
<基本認識> 1.「日本を元気にする行政システム」の確立−超高齢社会と大競争時代に備えて 昭和56年以降、土光臨調が「増税なき財政再建」を旗印として、国鉄、電電、専売の三公社の民営化をはじめ、年金、医療保険の改革や行政組織の再編・合理化などに数々の成果をあげたことは、高く評価される。 しかし、わが国の現況を見ると、その土光臨調が当時想定した以上のスピードで高齢化が進み、租税と社会保険料を合わせた国民負担率も、当時の予想を上回るペースで上昇が進むことが懸念されている。加えて、巨額の財政赤字、バブル経済の後遺症などの深刻な問題にも直面している。 われわれは、このような超高齢社会の到来を真正面から見据え、国民負担率の上昇を抑えるために、いかにして効率的でスリムな政府を作りあげ、「超高齢社会においても活力ある日本」を可能とする社会・経済構造を構築していくかの課題に取り組んでいかなければならない。 国際社会・経済の領域でも、市場経済の拡大と深化が進む一方、ヒト、モノ、カネ、情報が極めて迅速に地球規模(グローバリゼーション)で動き回るようになってきている。企業は、激しい競争に勝ち抜くため、有利な環境を求めて国境を越えて移動(経済の空洞化)するようになり、いわば、人や企業が国を選ぶ時代が到来しようとしている。一言で言えば、「大競争(メガ・コンペティション)時代」の到来である。 このような大競争時代にあって、わが国がなおワールド・センターの一つとしての地位を維持していくべきだとすれば、この面からも、効率的でスリムな政府と活力ある社会・経済システムの構築は、待ったなしの課題である。 ところが、このような内外の環境変化に由来する重大な課題を前にして、わが国の社会・経済システムは現在、そこここで綻びと行き詰まりを見せ、行政に対する国民の信頼も大きく揺らいでいる。わが国はこれまで、明治以来のキャッチ・アップ型政策手法に典型的に見られるように、生産・供給優先の立場と行政主導の手法によって運営されてきた。しかし、これからの行政の目的は、これまでと異なり、消費者の立場に十分に配慮し、民間の活力を一段と自由闊達に発揮させることでなければならない。そして、そこで展開される行政の手法は、明確なルールの制定と透明な手続きによる執行であるべきである。行政は、こうした目的と手続きの両面にわたる改革によって初めて、国民の信頼を取り戻すことができよう。 土光臨調は、財政再建という課題に現実的解決を与えるものであった。これに対し、今回の橋本行革は、時代環境の大きな変化を前にして、わが国がこれまで依拠してきた価値観とそれに基づくシステムについて歴史的な転換を図ろうとするものである。それだけにその実現のためには、広く国民の各界各層、特に中央・地方官庁の職員、国会・地方議会の議員の理解と協力が不可欠であることを確認しておかなければならない。
今後の人口構成の高齢化等を考えれば、わが国の国民負担の上昇は避けられないが、他面、若い世代の負担や企業の活力に配慮すると、国民負担率の上昇を最小限に止めなければならず、その上限は極力50%を超えることのないよう、45%程度に止まることを目指すべきである。このため、今後の国の財政運営に当たっては、シーリングや予算補正のあり方を再検討し、既得権や現状維持の考えを打破する改革を断行しなければならない。地方財政についても、一方において分権の進展に見合った財源確保を図りつつ、他方国の財政と同様の見地からその支出について厳しい見直しを行わなければならない。そして、これらの改革に中期的に取り組むため、「財政再建計画」を策定し、これに基づいて具体的な作業を進めていくことが求められよう。 また、公共投資についても、投資対象の選択において、超高齢社会のもとでの国民生活の質的向上に資する分野や大競争時代を生き抜くための真に戦略的な分野を重視するとともに、従来のハード中心の投資から、ソフト面にも配慮したものに大胆にシフトしていかなければならない。
中央官庁の再編成は、首都機能移転の課題との関連をも念頭において取り組むべきは当然である。首都機能の移転が行われるときは、中央官庁は前述の再編成により全体としてスリム化されたものが政策立案に携わる部門を中心に移転することとなろう。
タテ割り行政の弊害を是正し、国民の立場に立った行政を実現するため、この際、外交官を含む公務員の人事管理のあり方について、一括採用など人事管理の一元化を含め、具体的な検討を始めなければならない。 官民の人事交流も活発化させるべきであり、そのために年金や退職金の面での障害の解消の方策を検討すべきである。 いわゆる天下り問題については、公務員のライフサイクル全般にわたる制度・運用の問題として、適切な解決策を見出さなければならない。
規制緩和に伴う競争の激化が強者による不公正をもたらさないよう公正取引委員会の監視を強化するとともに、被用者、農林漁業者、自営業者、中小企業経営者など、厳しい影響が予想される人々に対しては、手厚い支援を実施し、わが国社会の伝統である人間相互間の厚い信頼関係を崩壊させないよう努めなければならない。
少子化の状況に対しては、家族、地域、企業など種々の社会単位を通じて、安心して子供を生み育てることができる制度環境を整備することが必要である。 高齢化や少子化の問題の背後に共通する女性への負担のしわ寄せの問題については、その軽減・解消のため実際的で有効な方策を見出し、女性がその能力を存分に発揮できる公正な社会を築かなければならない。
財政投融資については、一つには国の財政活動の形態として投融資によることが適切な分野があると認めるのかどうか、二つには特殊法人等の事業資金の調達について、市場からの直接調達方式に比し、現行制度が適切かどうか、の観点を中心に、そのあるべき量的限度などとともに、この際本格的な検討を行うべきである。
これに伴い中央官庁による地方団体への個別的な関与が大幅に削減されることとなるが、その場合には、地方財政に対する国の一般的な関与統制も当然に排除されなければならない。そうでないと改革の目的は完成しないのみならず、改革に逆行することにもなろう。この見地から、地方交付税の配分については、これに関与する行政組織のあり方を含め、より透明なルールと手続きの実現を図るための検討を行うこととする。また、地方債の発行についても、許可制度のあり方とともに、債券発行市場の活用の方策について検討する。 また、地方団体も分権の真の受け皿となるにふさわしいものに脱皮することが必要である。このため、市町村が名実共に地方行政を担うためには、市町村の合併や一部事務組合・広域連合制度の活用を促進し基礎的自治体としての適正規模の実現を図る必要がある。また、現行の都道府県制度についても、あるべき地方組織の原点に返って、道州制をも視野においた幅広い観点から検討を行うことが必要である。さらに、地方行政における公正と透明性を確保する観点から、議会や監査の機能を活性化する方途を講じるとともに、行政の停滞や独善を防止するため、首長の多選についても一定の制限を設けることも検討する必要がある。
また、諸種の行政調査についても、法律的根拠を整理するとともに、それらの相互の関係について十分に吟味するなど、国民に無用な負担を与えないよう、全面的に見直しを行うこととする。
今後は、行政事務の民間への委託に当たっては、委託すべき事務の基準及び委託先を明確にするとともに、委託された事務がどのように処理されているかを常に行政が監視し、それが隠れた行政機関として規制緩和の障害となったり、国民に不必要な負担を与えないためのシステムを作る必要がある。
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