ディスクロージャー研究学会



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文書No.
960704a

生保、区分経理の公表見送り

    個人軽視色濃く(アングル)

    96/ 7/ 4 日経金融新聞  

 生命保険各社は、個人保険、企業年金など一般勘定の商品分野ごとに含み損益を含めて資産を分ける「区分経理」の公表を見送ることを決めた。当初は三日の社員総代会で説明することを検討していたが、「区分経理は内部管理を目的にしており、公表する必要はない」(日本生命保険)と判断した。ただ、厚生年金基金連合会など一部の企業年金には月内に説明する考えで、個人など他の保険契約者が軽視されることになる。生保の情報開示の姿勢が改めて問われそうだ。

 生保各社は大蔵省の指導で、今年度からすべての資産をまとめて運用する一般勘定を団体年金、団体保険、個人年金、個人保険の四分野に区分する。六月十日の九五年度決算発表時には「まだ区分が終わっていない」として公表を見送った。三日の総代会では、四分野への配分が終わったにもかかわらず説明を伏せた。

 公表を見送ったのは、区分経理は社内の資産管理用と位置付けたため。保証利率などで一定の運用成果の還元が義務付けられており、「個人などに含み損益を公表してもあまり意味がない」(明治生命保険)との判断もある。

 しかし、実態は「含み損益の配分の仕方に明確な基準がないため、説明しにくい」というのが本音。公表すれば、含み益が少ない分野の契約者からは、苦情が出ることが予想され、含み益の配分が厚い生保に資産が流出する可能性もある。「どんぶり勘定」をはっきり分けると、波紋が大きすぎるというわけだ。

 しかし、厚年基金連合会は今年度の保証利率引き下げを受け入れる見返りとして、生保各社に区分経理の公表を求めており、各社は近く連合会に団体年金の含み損益などを説明する。公表を強く迫る契約者にはこっそりと説明する一方で、声が通りにくい一般の契約者には説明しない。

 生保各社は株式、債券など投資分野別の時価情報でも、多くの有価証券を「市場性がない」などの理由で公表対象から外している。今回の区分経理の公表見送りで、情報開示に消極的な姿勢が改めて浮き彫りになった格好。生保の情報開示にはかねて契約者から批判が強く、生保は自己改革が求められる。 (経済部 品田卓)生保の含み益配分、情報開示にも課題(解説)96/ 7/ 8 日本経済新聞 朝刊すべての資産を商品分野別に分け、それぞれの資産の実態がはっきりすれば、保険契約者はどの程度、自分の分野の勘定に配当余力があるかなどを推測できる。しかし生保各社が株式含み益の配分で大きな割合で会社勘定を設ける結果、生保のあいまいな商品別経理は踏襲されることになる。(1面参照)

 しかも会社勘定を使い、生保各社が各分野の含み損益を操作できる状況は変わらない。ライバル会社の運用実績などをにらんで恣(し)意的に配当を変えることが可能になり、区分経理の本来の目的を損なう。

 団体年金は一般勘定の含み益を活用して配当を上乗せするなど、他の商品より優遇してきた。過去の経緯に沿ってそのまま資産配分すると、団体年金分は含み損になりかねない。

 情報開示の問題も残った。生保は今回の配分自体も、厚生年金基金連合会など一部企業年金だけに説明し、個人など他の契約者への情報開示を見送る。公表すれば、含み益の形成に貢献してきた個人の契約者から苦情が出ることが予想されるし、含み益の配分を厚くするライバル生保に資金がシフトするなど、競争が激しくなるからだ。

 今回の区分経理導入では、生保側の経営戦略の都合ばかりが目立つ。保険契約者の立場に立った改革が求められている。




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