ディスクロージャー研究学会



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文書No.
960704b

基金の情報開示が重要

    厚年基金研究会若杉座長に聞く

    96/ 7/ 4 日経金融新聞  

 厚生省の「厚生年金基金制度研究会」はこのほど、厚年基金制度の改革案をまとめた。同研究会の座長を務めた若杉敬明・東大教授に、報告書で積み残した課題を含めて、今後の企業年金制度改革のあり方について考え方を聞いた。(聞き手は証券部 田中直巳)――今回の報告書を自己採点すると。

 「八十―八十五点ぐらい。大学の成績なら優をつけられる。受給権の保全とともに、基金の自主的な運用を尊重するという考え方をきちんと打ち出せた点が重要だ。基金はあくまで企業による加入員のためのもの。だから、労使合意による基金運営を担保するためにも、基金は企業と加入員に対し、基金の財政状況などに関する情報開示をまず徹底しなければならない」――代行制度への企業の不満は強い。基金の自主性尊重とも矛盾しないか。

 「代行制度はもともと基金をつくる際に、財界の主張で始めた。厚生年金本体の利回りが予定利率を上回った場合、基金のプラスアルファになるので、企業が基金を設立するインセンティブになった。自ら言い出して導入したのに、運用環境が変化したから返 上したいと言われても、おいそれとはやめられない。企業にも勝手なところがある」 「だが、負担調整などの考え方を取り入れ、制度の趣旨を過去の経緯から切り離し、中立化した。報告書では、消極的な継続というニュアンスが強くなったが、私自身も、代行制度を維持しようとすれば、制度自体に何かもっと積極的な意義を見付け出す必要があると感じている」――総合型基金の問題点を指摘する声が強いが。

 「研究会ではほとんど議論されなかったが、総合型が一番問題を抱えていると思う。業種別、地域別に区切っているから、産業の盛衰の影響をもろに受けるし、規模のメリットも生かせない。今後、力のある総合型基金同士が合併すれば、弱い基金が淘汰(とうた)される可能性もある。総合型にメスを入れないと、役所が天下り先を温存していると言われても仕方がない」――条件付きで給付の引き下げを認めた点は、企業寄りの印象を受けるが。

 「積み立て不足を解消するには、企業が多額の拠出金を負担する必要があるが、現実には企業にいくらでもカネを出せというのは難しい。だから、みんなで痛みを分かち合い、一回限りのこととして、給付の引き下げを従業員に我慢してもらおうという趣旨だ」

 「いわば非常事態を乗り切るための一時的な策で、恒常的な措置ではない。企業業績や基金の財政状態が良くなれば、速やかに給付を元に戻すべきだ。ただ、こうした結論に至った背景には、基金制度強化のために大企業、特に適格年金にとどまっている財界 のリーダー企業に、厚生年金基金へ移行して欲しいという配慮があったのも事実だ」――非常事態を抜け出すのに想定される時間は。「今はマイナスからの出発だ。おそらく今世紀いっぱいかかるのではないか」――確定拠出型年金は受給権保護に反しないか。

 「確定給付をきちんと実施することが先決だ。その上で余裕があれば、既存の基本部分や加算部分の上に、確定拠出型を置けばいい。企業の選択肢が広がった点に意味がある。ただ一般論で言えば、日本国民の金融に対する意識は、米国より二十年程度遅れている。従業員が運用のリスクを負う確定拠出型の全面的導入は時期尚早だろう」――支払い保証制度についての考え方は。

 「強制加入を基本とし、基金のリスクを評価して保険料率を弾力化するのが望ましい。リスク評価の基準を公表する必要もあろう」――報告書は、企業年金制度の横断的な見直しを今後の検討課題としたが。

 「適格年金と厚生年金基金の二つの企業年金制度を置く以上、両者は競争し合い、切磋琢磨(せっさたくま)していかなければならない。だが現状は、大蔵省と厚生省の縦割り行政の中に二つの制度があるため、残念ながらそうはなっていない。基金制度改革のための研究会だから、報告書は適年まで言及できず、抽象的な表現にとどまったが、非常に大きな問題だ」

 「この問題を解決するには、政治がイニシアチブをとり、もう一段高いところで考えてもらうしかない。行政の枠組みにとらわれず社会保障の観点からの総合的な議論が望まれる」




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