ディスクロージャー研究学会



(青空に物事を晒すと虫干しされ綺麗になる)

文書No.
960731a

超入門!銀行のディスクロージャー ’96年度版

    全国銀行協会連合会 小冊子 平成8年7月

     

はじめに
銀行のパンフレットにしてはずいぶんとハデな表紙につられて
これを手にした(であろう)みなさん。
まず
右側の目次をみてください。細かすぎて読めないって?じゃあ
おもな項目を特筆大書すると・・・
・わたしも銀行にたいする債権者?
・3分間で貸借対照表と損益計算書を理解したいんだけど・
・そもそも不良債権って?

どうです。中身もけっこうおもしろそうでしょう。
だいたい
「○○入門」と名のつくものは
その道の専門家が書くんで概してむずかしいものが多いんですが
このパンフレットはちがいます。というのも
これはディスクロージャーについてのアマチュアが
自分自身でわからないことをいわば自問自答しながら書いたものだから。
ただ
全部が全部やさしいというわけではありません。残念だけど
ページを追うごとに段々むずかしくなっていきます。でも
これは教科書ではないんだから
理解不能のところはどうぞ読みとばしてください。

 最後にお願いをひとつ。29ページ以降に用語説明がついています。活字がちいさいんで読むのはシンドイかもしれないけれど

これはふつうの用語説明とはちょっとちがいます。これを読むと
銀行の仕事の全体像がわかってくるはず。ぜひ
読んでみてくださいね。
平成8年7月 全国銀行協会連合会

 この1996年度版では「統一開示基準」の改正にともなう改訂をおこなっています。





 *== 変換元[ 文書名 & 備考 ]===============================================*

目次                       
 *== 変換先[ テキストデータ ]===============================================*

目次
1.そもそもディスクロージャーってなに?(3〜4ページ)
Q1  ディスクロージャーって暴露?
Q2  企業経営内容って?
Q3  なんで企業にディスクロージャーが必要なの?
Q4  それで
銀行のディスクロージャーって?
Q5  でも
わたし銀行の株なんてもってないし
銀行の債権者でもないし・
Q6  わたしも銀行にたいする債権者?
2.銀行のディスクロージャー誌にはどんなことが書いてあるの?(5〜6ページ)
Q7  じゃあ
銀行のディスクロージャー誌ってどれ?
Q8  それ
わたしたちどうしたら手に取ることができるの?
Q9  それで
銀行のディスクロージャー誌にはいったいなにが書いてあるの?
Q10 全銀協統一カイジ基準?
Q11 じゃあ
統一開示基準の内容は?
Q12 なるほど
それから・?
3.銀行の経理・経営内容って?(7〜8ページ)
Q13 銀行の経理・経営内容って
一言でいうとなに?
Q14 でも
ディスクロージャー誌のどこに貸借対照表とか損益計算書がのって るの?
Q15 てっとり早く貸借対照表と損益計算書を知るには?
Q16 3分間で貸借対照表と損益計算書を理解したいんだけど
4.銀行の貸借対照表のポイントは?(その1)(9〜10ページ)
Q17 メーカーと銀行の貸借対照表のちがいはなに?
Q18 どうして貸借対照表を知る必要があるの?
Q19 銀行は預金で集めたお金をもとにして貸出しているというけれど・
Q20 じゃあ
銀行ってどんなところにお金を貸してるの?
Q21 借り手の具体的な名前ものってるの?
5.銀行の貸借対照表のポイントは?(その2)(11〜12ページ)
Q22 銀行の商売は預金・貸出だけではないっていったけど・
Q23 ちょっと待って
数字が合わないんだけれど・
Q24 それでも数字が合わないわ
Q25 いったいどうして?
Q26 念のためだけど
銀行の貸借対照表の数字ってまちがいないんでしょうね
6.銀行の貸借対照表のポイントは?(その3)(13〜14ページ)
Q27 カシダオレヒキアテキンってなに?
Q28 でも
銀行はお金を貸すプロでしょう?
Q29 銀行の「資本金」って
 ふつうの企業の資本金とはちがうみたいだけど・  Q30 銀行の資本金についてもうすこし説明して・

Q31 利益準備金って?
7.銀行の損益計算書って?(15〜16ページ)
Q32 とりあえず覚えた「経常収益」だけど・
Q33 「費用」と「利益」の説明をもうすこし・
Q34 それで
銀行はどうやってモウケてるの?
Q35 銀行の収益は貸出金利息だけ?
Q36 じゃあ
費用は?
8.銀行の経営内容をみるポイントは?(17〜18ページ)
Q37 銀行の経営内容のあらましを知りたいんだけど
Q38 5期?
Q39 でも
どうみればいいの?
Q40 ずいぶんと思わせぶりね
Q41 じゃあ
銀行の利益率はどこでみるの?
9.銀行の不良債権ってなに?(19〜20ページ)
Q42 そもそも不良債権って?
Q43 どうして不良債権が問題なの?
Q44 でも
銀行にだって貸し倒れがあるって言ったじゃない
Q45 じゃあ
不良債権はディスクロージャー誌のどこにのってるの?
10.まだ不良債権ってよくわからないんだけど(21〜22ページ)
Q46 『破綻先債権』と『延滞債権』のちがいはなに?
Q47 ショウキャク?
Q48 なんで費用がかかるの?
Q49 ???
Q50 でも
 「費用」というのは貸借対照表ではなくて損益計算書の言葉じゃない?Q51 頭が混乱してきたわ。不良債権の基本を整理して

11.相当というか
かなり
むずかしくなってきたわ(23〜24ページ)
Q52 『貸倒引当金内訳(残高)』をみたけど全然わからない・
Q53 『貸出金償却』って?
Q54 『金利減免等債権』って?
Q55 なるほど
じゃあ
金利減免等債権の『等』ってなに?
12.『超入門』って
 入門を超えてむずかしいということ?(25〜26ページ)  Q56 ついでに『経営支援先に対する債権額』を教えて

Q57 ちがうところは?
Q58 それで不良債権の結論は?
Q59 なるほど
でも
もう疲れたわ

・全国銀行ベースの貸借対照表(27ページ)
・全国銀行ベースの損益計算書(28ページ)
・貸借対照表と損益計算書の用語説明(29〜32ページ)
・全銀協統一開示基準(33ページ)
・さくいん(34ページ)
・全国銀行一覧(裏表紙)




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Q1〜Q12                    
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1.そもそもディスクロージャーってなに?
Q1  ディスクロージャーって暴露?
確かに
 ディスクロージャー(Disclosure) を辞書でひくと最初にでてくる日本語は「暴露」とか「露見」。余りいい語感の言葉ではありません。ただ

もともと
 DisclosureというのはDisclose(覆い(おおい)を取る)の名詞で

ふつう企業経営内容の公開と訳されています。
それなら
 何もカタカナじゃなくて日本語でそう言えばいいじゃないの?という声がきこえてきそうですが

じつはこのディスクロージャーという言葉はすでに一般用語になりつつあるんです。

Q2  企業経営内容って?
 たとえばメーカーはモノをつくる。そのためには人と設備そしてお金が必要。こんなふうに

どんな企業でも
大なり小なりヒト・モノ・カネという3つの要素がないと活動できません。
ということで
企業経営内容の公開というのは
簡単にいうと
その企業が自分のヒト・モノ・カネをどうやって動かして
どれだけの業績をあげたかを
公開することなんです。

Q3  なんで企業にディスクロージャーが必要なの?
あなたはもしかしたら株をもっているかもしれない。では
 あなたは何をもとにしてその会社の株を買ったんでしょう?とうぜん事前にその企業についての情報を集めて買ったはずですよね。

このように
株主は
その企業の経営内容をよく知っておく必要がある。必要だけじゃなくて
知る権利がある。逆にいうと
その企業は株主にたいして
経営内容を公開する義務があるわけです。また
企業にお金を貸すばあい
貸し手としては
その企業の経営内容をよく知っていないと安心して貸せない。つまり
貸し手としてはその企業の経営内容を知る権利がある。
こんなふうに
企業は
株主とかお金の貸し手(債権者)という利害関係人のために
その経営内容を知らせる義務があるわけです。

※債権(さいけん)についてはQ42を参照。

Q4  それで
銀行のディスクロージャーって?
じつは
銀行も株式会社です。銀行の基本を定めた法律である銀行法の第5条で
銀行は株式会社でなくてはならないと決められている。だから
銀行もふつうの株式会社のように
まず
株主とか債権者にたいしてその経営内容を公開する必要があるわけです。

Q5  でも
わたし銀行の株なんてもってないし
銀行の債権者でもないし・
たぶんそれが多くの方々の感想でしょう。どうして
このわたしと銀行のディスクロージャーとが関係するのかと・。
でも
ちょっと考えてみてください。銀行はふつうの企業とはちがって
みなさんの大切なお金を預かり(預金業務)
それをもとに企業とか
みなさんがた個人に貸すという仕事(貸出業務)をしている。また
銀行は口座振込とか口座振替とか
お金を送ったり決済する仕事(広い意味の為替(かわせ)業務)をしている。
どんな企業でも社会生活に関係した仕事をしているけれど
銀行は特にわたしたちの暮らしに密接に関係した仕事をしていて
銀行がなかったらわたしたちの生活はなりたっていきません。
ということは
銀行にかかわる人はふつうの企業以上に大勢いるということになる。そうすると
銀行は株主・債権者だけではなく
 ふつうの企業以上に広く社会全体にその経営内容を公開する必要があるということになる。それだけではありません。

じつは
 あなたはまちがいなく銀行に対して債権をもっているはず。つまり債権者のはずなんです。


Q6  わたしも銀行にたいする債権者?
あなたは銀行に預金をしていますよね。そして
普通預金とか定期預金をすると
あなたは銀行にたいして利息込みでお金をもどしてもらうという権利をもつ。だから
あなたは銀行にたいする債権者というわけです。
そうすると
 あなたは銀行のディスクロージャーにまったく無関心というわけにはいかなくなるはず。そこで

銀行はこれにこたえて
 毎年その銀行の業務とか財産について説明した書類をつくっています。これを銀行のディスクロージャー誌とかディスクロージャー資料とよんでいるんです。


2.銀行のディスクロージャー誌にはどんなことが書いてあるの?
Q7  じゃあ
銀行のディスクロージャー誌ってどれ?
『○○銀行の現状』とか『○○銀行レポート』とか
 あるいは単に『○○銀行 19××』といったタイトルの冊子のこと。大きさはだいたいA4判(縦28センチ

 横21.5センチ)のものが多くて50頁程度。なかには100頁を超えるボリュームのものもあります。


Q8  それ
わたしたちどうしたら手に取ることができるの?
銀行によっては各支店においてあるので
実際に手に取って読むことができます。1冊ほしいと言えば
もらえるかもしれません。
「銀行によっては」とか「もらえるかもしれない」とか
あいまいな言いまわしネといわれそうですが
これには理由がある。
銀行のディスクロージャーは
銀行法第21条に規定されているんですが
その条文にはずいぶんとむずかしい書き方だけれど
こうあるからです。
「銀行は
営業年度ごとに
業務及び財産の状況に関する事項を記載した説明書類を作成して
主要な営業所に備え置き
公衆の縦覧に供するものとする。・」(→Q16の※)

Q9  それで
銀行のディスクロージャー誌にはいったいなにが書いてあるの?
この質問にたいして簡潔に答えると
全銀協統一開示基準で定められている項目が最低限記載されている
ということになります。

Q10 全銀協統一カイジ基準?
そう。全銀協というのは
 このパンフレットをつくった全国銀行協会連合会の略。そして開示(かいじ)は開いて示すことで

ディスクロージャーのこと。

統一開示基準だけれども
たとえば銀行の財産の状態をしめす項目が全部で10あるとして
A銀行はその全部を開示したとする。いっぽう
B銀行は4しか開示しなかったとする。
そうすると
わたしたちは
A銀行とB銀行のどちらのほうが財産の状態がいいのか判断できない。だから
わたしたちが銀行どうしを比較するためには
開示項目・基準を一緒にしたほうがよい。これが
全銀協が統一開示基準をつくったひとつの理由なんです。

Q11 じゃあ
統一開示基準の内容は?
このパンフレットの33ページをみてください。
「なあにこれ?むずかしい!」といわれそうだけれども
大項目の2番目の『経理・経営内容』を除くとそんなにむずかしくはない。まず
 銀行をふくめたどの企業にも経営方針というものがある。その基本方針にもとづきヒトの組織がいろいろな活動をするわけだけど

 その活動のもとになるのは簡単にいうと銀行のばあいには店舗というモノと資本金というカネ。そして

これらを記載したのが大項目の1番目の『概況・組織』というわけ。
 3番目の『資金調達』と4番目の『資金運用』。調達とか運用というとむずかしいけれども

要するに銀行は基本的に

預金などの形でお金(資金)を集め(つまり調達して)
それを貸出などの形で運用して利益をあげている。じゃあ
 どれだけの預金を集めてどれだけの額の貸出をしたか。またそのうちいわゆる不良債権はどれくらいか。これらをしめしたのが

このふたつの項目というわけです。

Q12 なるほど
それから・?
5番目の『証券業務』。じつは銀行の商売は預金・貸出だけではない。銀行は
 国が発行した借用証書である国債などをお客さまに売っている。また国債などを銀行自身のお金で売ったり買ったりして利益をあげている。これらをしめしたのがこの証券業務というわけです。6番目の『国際業務』は

企業の輸出・輸入に関係した銀行の業務(外国為替業務)の実績をしめしたもの。
 7番目の『その他業務』。みなさんが銀行で振込などをするばあいには手数料が必要だけれども

この項目はそうした銀行の手数料をしめしたものなんです。
8番目の『連結情報』は
 銀行と子会社の財産状態などを合算して開示したもの。そして最後9番目の『その他』はその銀行の沿革とか商品・サービスの案内などをしめしたものです。

では
大項目の2番目の『経理・経営内容』とはどういうものかというと・。




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Q13〜Q31                    
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3.銀行の経理・経営内容って?
Q13 銀行の経理・経営内容って
一言でいうとなに?
その銀行がもっている財産はどれくらいか
また
その銀行は1年間でどれだけの利益をあげたか。これが銀行の経理・経営内容で
ちゃんと数字でしめされている※。それが
ディスクロージャー誌にのっている『貸借対照表』と『損益計算書』なんです。

※この数字は前年度の決算計数です(→Q45の※) 。

Q14 でも
ディスクロージャー誌のどこに貸借対照表とか損益計算書がのってるの?
銀行によって多少ちがうけれども
 ディスクロージャー誌の後半部分には『経営資料』とか『資料編』とか『財務情報』というタイトルの部分があって

そのなかに『貸借対照表』と『損益計算書』がのっている。なお
銀行によっては
経営資料とか財務情報の部分を別冊にしているところもあります。

Q15 てっとり早く貸借対照表と損益計算書を知るには?
このパンフレットの27〜28ページをみてください。これが
全国149の銀行※の数字を合計した貸借対照表と損益計算書です。
ただ
これをはじめてみた人はびっくりするはず。まず
わたしたちが日常使っている数字とは桁がちがうし
また
銀行の貸借対照表は一般の企業のものとはちがうからです。
 たとえば全銀協のメンバー銀行(これを全国銀行といいます) の預金の総額はいくらか?

 貸借対照表をすこしでも知っている人は左側の「資産の部」をみる。でものっていない。おかしいなと思って念のため右側をみるとどういうわけか「負債の部」の冒頭にのっている。そしてその金額は平成7年度でなんと545

134
702 。しかも単位は百万円です。ということは
545 兆円以上ということになる。
それに
「預金」ならわかるけれども
その下にははじめてみるようなむずかしい専門用語がズラリと並んでいる・。
こんなふうに
銀行の貸借対照表と損益計算書を理解するのは正直いってなかなかシンドイんです。

※全国銀行はQ24のとおり150ありますが
この表では149の銀行の合計の数字をのせています。
ただし
みなさんが実際にみるディスクロージャー誌はもちろん個々の銀行のもの。だから
そこにのっている数字はとうぜんながらもっとずっと少なくなります。

Q16 3分間で貸借対照表と損益計算書を理解したいんだけど・
では
まず貸借対照表の基本から。
貸借対照表にはいろいろな項目が記載されているけれども
基本の基本は左側と右側です。そして
これを簡単に書くとつぎのとおりになる。
(左側)           (右側)
「資産の部」      「負債の部」・「資本の部」

そして
左側の合計の数字は一番下の「資産の部合計」で
右側の合計の数字もやはり一番下の「負債の部及び資本の部合計」です。そこで
平成7年度のその数字をみてみると・。
そう
両方とも848
201
423 (約848 兆円)です。
このように
 貸借対照表の左側と右側の数字は一致している。つまり「資産」=「負債」+「資本」となる。

だから
貸借対照表を英語ではバランスシートといいます。バランスというのは
もちろん「均衡」という意味。ちなみに
貸借対照表というとお金の貸し借りの一覧表という感じがするけれども
「貸借」という言葉は無視して
貸借対照表は単に左側と右側が均衡している表と単純に覚えたほうがいい。
さて
ではどうして貸借対照表の左側と右側は均衡するのか?それは
右側で集めた(つまり調達した)お金を左側で運用しているからです。
ただ
貸借対照表は
その銀行の財産の状況をしめしただけのものなので
 その銀行がどうやって利益をあげたかは貸借対照表をいくらみてもわからない。じゃあ

なにによってそれを知るか?それが損益計算書。そして
この損益計算書のキーワードは
経常収益
経常費用
経常利益の3つ。
損益計算書では
とりあえずこの言葉だけを覚えておいてもらうとして
もう3分以上たってしまいました。

※Q8の銀行方第21条の条文について
このなかの「説明書類」がディスクロージャー誌です。
また
「主要な営業所」とあるので
法文上は
 銀行のすべての支店にディスクロージャー誌を備え置く必要はないということになります。さらに

「縦覧(じゅうらん)に供する」というのは
「自由にみてもらう」という意味ですから
法文上は
 銀行がディスクロージャー誌を預金者等にさしあげる義務はないということになります。


4.銀行の貸借対照表のポイントは?(その1)
Q17 メーカーと銀行の貸借対照表のちがいはなに?
メーカーの貸借対照表も銀行の貸借対照表も基本的には同じ。
つまり
左側に『資産の部』があり
右側に『負債の部』と『資本の部』がある。
ただ
メーカーのばあい
その資産のおもなものは自分がつくった製品だけれども
銀行は製品をつくっていない。また
 メーカーもふくめた銀行以外の企業の「預金」はその企業にとって『資産』になるけれども銀行のばあい「預金」は逆に『負債』になる。銀行は預金として預かったお金をみなさんに返さなければならないから

銀行にとって預金は負債になるわけです。
また
メーカーが銀行から借りたお金は『負債』になるけれども
銀行にとっては
貸したお金(貸出金)は『資産』になる。
こんなふうに
同じ貸借対照表といっても
銀行の貸借対照表は
ふつうの企業とはずいぶんとちがっている。だから
銀行の貸借対照表は
銀行以外の企業の経理のプロがみてもかなりむずかしいんです。

Q18 どうして貸借対照表を知る必要があるの?
 「経理のプロでもよくわからないものをどうしてわたしが知らなくちゃいけないの?」というのは

とうぜんの疑問。
でも
 Q9にでてきた「全銀協統一開示基準」の項目は33ページのとおりぜんぶで76項目あるけれども

 じつはそのうちの14番から64番まではすべて貸借対照表と損益計算書がもとになっている。だから銀行のディスクロージャー誌を読み取ろうとしたら

どうしても貸借対照表と損益計算書の見方を知っておく必要があるんです。

Q19 銀行は預金で集めたお金をもとにして貸出しているというけれど・
これは銀行の業務の基本だけれども
では
これをどうやって確かめるかというと・。
簡単です。まず
27ページの貸借対照表の右側のK〔預金〕の額をみてみる。そう
約545兆円です。次に左側のF〔貸出金〕をみてみると
約554兆円となっている。だから
 銀行はやはり預金で集めたお金をもとに貸出をしている※ということが確認できるというわけです。


 ※集めた預金のどれくらいの額を貸出で運用しているかをしめすものを預金にたいする貸出の比率という意味から『預貸率』(貸出金額÷預金額

上の例だと101.6%)といい
この預貸率はディスクロージャー誌に必ず記載することになっています。なお
銀行の預貸率の適正な水準については何ともいえないけれど
ただ
たとえば預貸率がかりに40%だとすると
預金を集めたのはいいけれど
貸出として運用できない部分がありすぎるということになります。

Q20 じゃあ
銀行ってどんなところにお金を貸してるの?
これは貸借対照表にはのっていません。ただ
わたしたちはそれをディスクロージャー誌によって知ることができる。たとえば

〓その銀行の中小企業向け貸出はどの程度か。
これは中小企業向貸出という項目に掲載されています。
〓社会にはいろいろな業種の企業があるけれども
その銀行のたとえば製造業と か農林水産業
建設業などへの貸出の割合はどれくらいか。
これは貸出金業種別内訳という項目に掲載されています。
〓設備資金などにどれだけのお金を貸しているか。
これは貸出金使途別内訳という項目に掲載されています。
〓その銀行の個人向け貸出はどのくらいか。
これは
消費者ローン・住宅ローン残高などの項目で知ることができます。

Q21 借り手の具体的な名前ものってるの?
その銀行が○○会社にいくら貸しているか
 あるいはその銀行の預金者は誰かといった個別・具体的なことはディスクロージャー誌には記載されていません。銀行には取引の秘密を守る義務があるからで

銀行法第21条は
開示が必要でない事項をつぎのとおり規定しているんです。
『・ただし
信用秩序を損なうおそれのある事項
 預金者その他の取引者の秘密を害するおそれのある事項及び銀行の業務の遂行上不当な不利益を与えるおそれのある事項並びにその記載のため過大な費用の負担を要する事項についてはこの限りでない。』


5.銀行の貸借対照表のポイントは?(その2)
Q22 銀行の商売は預金・貸出だけではないって言ったけど・
Q12の答を覚えてるなんてスゴイ!
銀行というと
預金で集めたお金をもとに貸出で運用している
つまり
お金の仲介業というのがふつうのイメージだけれども
 じつは銀行もある種のモノの売買をしている。銀行は集めたお金でもって国債とか地方債を買ったり

売ったりしているんです。そしてこの国債などが貸借対照表のE〔有価証券〕です。
数字をみてわかるとおり
この額は貸出につぐ額となっている。そこで
ディスクロージャー誌では
これについて『証券業務』という大項目で開示するとともに
有価証券残高とか有価証券平均残高などの項目でくわしく開示しています。
なお
調達した預金のどれだけを有価証券で運用したかをしめすのが預証率で
これもディスクロージャー誌に記載されていますよ。

Q23 ちょっと待って
数字が合わないんだけど・
これは鋭いご指摘。
 全国銀行の預金の額はさっき言ったとおり約545兆円。そしてこれを運用した貸出の額が約554兆円で有価証券が約131兆円。合計685兆円になるわけだけれど

そうすると
 銀行は預金で集めた額以上の額を運用しているということになる。だから「数字が合わない

おかしいじゃないの」という疑問になるわけですね。
でもじつは
Q19で説明した『預貸率』の預金には
貸借対照表のL〔譲渡性預金〕(約39兆円)もふくめるんです。
この譲渡性預金というのは
ふつうの預金とちがって
他人へ譲渡することができる預金。そんな預金みたこともないって?そう
この預金の最低預入単位は5千万円(平成8年7月現在)で
 個人から集めたお金を専門的に運用する投資信託などの機関投資家がおもに利用している預金なんです。


Q24 それでも数字が合わないわ
そう
ふつうの預金と譲渡性預金を合計しても584兆円で
運用総額の685兆円に足りない。やはり
銀行は集めたお金以上の額を運用していることになる・?
このマカ不思議を解くカギは
貸借対照表のM〔債券〕とS〔信託勘定借〕にある。
結論をいうと
銀行は預金だけでお金を集めているわけではないということ。
全国銀行は裏表紙のとおり
平成8年7月現在
普通銀行(都市銀行(10)
地方銀行(64)
第二地方銀行(65))
長期信用銀行(3)
信託銀行(8)の計150あるんですが
このうち
長期信用銀行と一部の都市銀行は
預金のほか
債券(『リッ○○』という利付債
『ワリ○○』という割引債)でお金を調達している。
また
信託銀行は金銭信託
貸付信託という信託でもお金を調達している。
つまり
日本の銀行がわたしたち個人とか企業から広くお金を調達する手段は
預金
債券
信託ということになるわけ。
そして
預金
譲渡性預金
債券
 信託勘定借を合計した額は約669兆円。これでも調達の額のほうが貸出と有価証券という運用の額(約685兆円)を上回ることにはならない。


Q25 いったいどうして?
銀行は預金
債券
信託でお金を調達し
これを貸出
有価証券で運用する。これが基本だけれども
じつは調達の手段は他にもあるんです。
 たとえば貸借対照表のNの〔コールマネー〕とかPの〔借用金〕。コールマネーというのは簡単にいうと銀行が他の銀行からお金を借りること。また

借用金は主として
銀行の銀行である日本銀行から民間銀行がお金を借りること。そして
運用の手段としては
コールマネーを貸し手側からみたA〔コールローン〕などがある。
要するに
銀行は銀行どうしでもお金を調達し運用もしているというわけで
 こうした金融機関相互のお金のヤリトリの場を金融市場(しじょう)といいます。ちなみに

銀行が決める預金と貸出の金利は
実はこの金融市場の金利がもとになっているんです。

Q26 念のためだけど
 銀行の貸借対照表の数字ってまちがいないんでしょうねそういうご質問をうけることがあるけれど

 銀行のディスクロージャー誌にのっている貸借対照表と損益計算書は公認会計士などがちゃんと監査したもの。まちがいはありません。


6.銀行の貸借対照表のポイントは?(その3)
Q27 カシダオレヒキアテキンってなに?
27ぺージの〓の〔貸倒引当金〕。これは不良債権の処理に関係する項目で
くわしいことはあとで説明しますが(→Q42以降)
 ここでは引当(ひきあて)という独特の言葉について理解してください。これは会計用語で

引当金と同じような用語に準備金がある。では
そのちがいはなにかというと
多少の例外はあるけれども
基本的には
将来必ず発生する不測の事態に備えたお金が引当金で
 発生するかどうかは確実ではないけれども発生のおそれが高い事態に備えたお金が準備金

ということになるんです。

Q28 でも
銀行はお金を貸すプロでしょう?
これはたぶん
 「お金を貸すプロの銀行が貸倒れは必ず発生するとみずから認めるのはおかしいんじゃない?」という趣旨の質問ですね。ところが

銀行がどんなに注意深く審査して貸出したお金でも
 そのうちの一部は必ず貸倒れになるというのが銀行の経験則なんです。だからこれは貸倒引当金であって貸倒準備金ではないというわけです。


Q29 銀行の「資本金」って
ふつうの企業の資本金とはちがうみたいだけど・ご推察のとおりです。
ふつうの企業の資本金は
製品をつくったりするためのもとになるお金ということができるけれども
銀行の資本金は
預金者保護のための基盤で最後の砦ということになる。
これはどういうことかというと
銀行が預金として受け入れたお金をそっくり貸出にまわしたばあい
 預金者に支払うお金のもとになるのは銀行自身のお金つまり資本金ということになるからです。

このため
銀行法の関連規定では
 普通銀行の最低資本金は20億円以上と定めています(貸借対照表の〓の〔資本金〕は約8兆円だけど

これを銀行数の149で割って1銀行の資本金をだすと約536億円となります)。

Q30 銀行の資本金についてもうすこし説明して・
ここでもう一度
銀行の貸出のもとになるお金が預金だけというばあいを考えてみる。
まず
とうぜんながら
貸出したお金は返済日までは銀行にもどってきません。ところが
普通預金などはいつでも払いもどしができるし
また
 定期預金でも中途解約があるから途中で支払わなければならないということが起こる。だから極端な話

 預金のすべてを貸出にまわすとその銀行は預金の払い出しに応ずることができないということが起こるわけです。また

貸出には大なり小なり貸倒れが発生する。だから
貸出のすべてが預金でまかなわれたばあいには
貸倒れの部分の預金は払いもどし不能ということになってしまうわけです。
ということで
銀行の経営は
貸出金の額の一定割合以上の資本金がないと健全ではないということになる。そこで
これに関してはちゃんと規制がある。それが
むずかい言葉だけれども『自己資本比率規制』で
ごく簡単にいうと
貸倒れになる危険が大きい資産を銀行がもてばもつほど
 銀行はその危険をカバーするための自己資本を備えなければならないというもの。そして

その比率は
支店が国内だけという銀行のばあいには4%
海外に支店をもつ銀行の場合には子会社もふくめて8%となっています。
この自己資本比率。ディスクロージャー誌にもちろん掲載されています。

Q31 利益準備金って?
27ページの〓〔利益準備金〕。
 ご存じのとおり株式会社の利益は出資者である株主に配当のかたちで還元されます。ただ

会社にはいつなんどき不測の事態が起こるかわからない。そこで
どの会社でも法律により
 利益の一定部分は準備金として積み立てることになっている。これが『利益準備金』で

これは資本金の一部です。
そして
Q30での説明でわかるとおり
 銀行自身のお金である資本は多ければ多いほど銀行の健全な経営につながることになる。このため

一般の会社のばあいには
利益準備金は資本の4分の1の額に達するまで積むとされているんですが
銀行のばあいには
銀行の経営健全性を保つ趣旨から
資本の額に達するまで積むとされているんです。





 *== 変換元[ 文書名 & 備考 ]===============================================*

 Q32〜Q41   

 *== 変換先[ テキストデータ ]===============================================*

7.銀行の損益計算書って?
Q32 とりあえず覚えた「経常収益」だけど・
Q16で
損益計算書のキーワードは『経常収益』
『経常費用』
『経常利益』の3つと説明したけれど
そもそも
損益計算書というのは
 収益から費用を差し引いた利益が1年間(4月1日〜翌年3月31日)でどのようにでてきたかをしめす計算書のこと。

そこで
まず
経常収益の「経常」ですが
これは「通常」と同じ。だから
「経常」でないのは「特別」となる。
つぎが「収益」。ふつうわたしたちは
「利益」と「収益」をゴッチャに使っているけれども
じつはちがうんです。
たとえば家具屋さんがタンスを売って20万円の収入を得た
つまり20万円の売上があったばあい
その20万円を「収益」という。では「利益」はなにかというと
これは「収益」から「費用」を引いたものなんです。

Q33 「費用」と「利益」の説明をもうすこし・
まず費用。上の例で
家具屋さんが売ったタンスの仕入れ値が15万円だったとすると
この15万円がタンスにかかる費用です。また
そのタンスについてチラシなどで広告をしたら
それも費用になり従業員への給料もとうぜん費用になる。
だから

経常収益−経常費用=経常利益

基本的にこの利益がモウケになるわけです。
ただ
 この『経常利益』がそのまま家具屋さんの1年間の利益になるわけではない。もしも家具屋さんが火災にあったらその損失は『特別損失』となってそのぶんは『経常利益』から引かなければならない。また

家具の販売という本業以外でたとえば土地を売って利益をあげたら
そのぶんは『特別利益』として
『経常利益』に足さなければなりません。
だから
『経常利益』−『特別損失』+『特別利益』が1年間の利益で
これを『税引前当期利益』というんです。

Q34 それで
銀行はどうやってモウケてるの?
たとえば
 八百屋さんは野菜・果物を安く仕入れて高く売る。つまり仕入値と売上高との差が利益になるわけで

同じことは銀行にもいえる。
ただ
 銀行が扱うのは基本的にお金であってモノではない。じゃあ銀行がお金を安く仕入れて高く売るとはどういうことか?

その典型は
預金などの形でお金を集め
 預金金利以上の金利で貸出をおこなうということ。この金利の差を利鞘(りざや)といい

基本的には
 預金(債券などをふくむ)利息と貸出金利息との差が銀行にとって利益になるんです。


Q35 銀行の収益は貸出金利息だけ?
そんなことはありません。
貸借対照表のところで説明したように
@お金を運用する手段には貸出のほか
有価証券がある。つまり
国債とか地方債の利息そして株の配当金なども銀行の収益になる。
また
みなさんが振込を銀行に依頼すると
銀行は手数料をいただくけれども
このA手数料収入も収益になる。そして
 急激な円高などになるとよく銀行のディーリングルームの風景がテレビに登場するけれど

ドルを売って円にかえたり
 逆に円を売ってドルにかえたりしたばあいの差益などに代表されるBその他業務も銀行にとって収益になる。さらに

銀行がもっている株式を売ってあげた利益などもCその他経常収益になるんです。

Q36 じゃあ
費用は?
 銀行は預金・債券などを受け入れてD利息を支払う。この利息が銀行にとって最大の費用になります。

また
 たとえばE振込の取扱いにも費用がかかる。振込の依頼を受けて相手の銀行に振込をするばあい

その銀行は
じつは相手の銀行に手数料を支払っているんです。
3番目に
円を売ってドルを買ったばあい
いつも利益があげられるわけではない。1ドルを90円で買って
 それを1ドル88円で売らざるをえないときには2円の損失になる。こうしたFその他業務によって生じるものも費用になるわけです。

さらに
 銀行員への給与とかコンピュータの設備などのG営業経費もとうぜん銀行にとって費用になります。

なお
 以上の@〜Gは28ページ掲載の損益計算書の項目の番号と基本的に一致しています。確かめてみてください。


8.銀行の経営内容をみるポイントは?
Q37 銀行の経営内容のあらましを知りたいんだけど
 ディスクロージャー誌にのっている『主要な経営指標の推移』をみればいいというのがその答え。

これは
貸借対照表に掲載された『預金残高』
『貸出金残高』
『有価証券残高』
『総資産額』
それに損益計算書に掲載された『経常収益』
『経常利益』
『当期純利益』などを
5期にわたって開示したものなんです。

Q38 5期?
そう。ディスクロージャー誌には
 貸借対照表と損益計算書はふつう2期つまり今年と去年の2年分しか掲載されていないけれども

『主要な経営指標の推移』には5期分の数字がのっているんで
その銀行の経営内容の推移がわかるというわけ。それに
貸借対照表と損益計算書の全部を読むのは大変だけど
この『主要な経営指標の推移』なら項目が少ないので簡単にわかります。

Q39 でも
どうみればいいの?
銀行は基本的に預金(債券などをふくむ)をもとに貸出をするのだから
 預金がふえれば貸出もふえる。そして有価証券の残高もふえ結果として総資産もふえる。これはたとえていうと

モノをたくさん食べれば体格がよくなるということ。そして
体格(規模)がよくなればふつうはそれに比例して力もつき強くなる。だから
『主要な経営指標の推移』の項目で
『預金残高』
『貸出金残高』
『有価証券残高』
『総資産額』がふえていれば
一般的にはその銀行の経営内容はよいといえるんですが・。

Q40 ずいぶんと思わせぶりね
これには理由があるんです。
まず
銀行の預金は
景気がいいと自然とふえ
景気が悪いと自然とへる傾向にある。だから
『主要な経営指標の推移』をみて
その銀行の預金がふえ
総資産がふえていたとしても
 それだけで銀行の経営内容がよくなったとはいえないわけです(景気が悪くなると逆に預金がへり

総資産もへっていきます)。
第2に
食べるモノはタダではない。同じように
銀行が預金を受け入れたらとうぜん利息の支払いという費用がかかる。だから
かりに預金がふえて結果として総資産がふえたとしても
費用が従来以上にふえて利益がへっていたとしたら
その銀行の経営内容はよくないということになる。
ということで
その銀行の経営内容がよいか悪いかは
結局は資産と利益のふたつでみなければならないということになるわけです。

Q41 じゃあ
銀行の利益率はどこでみるの?
「利益率」とは
またむずかしい言葉をご存じですね。
4打数1安打よりも4打数2安打のほうがよいというのは
誰もが知っていることだけれども
では
 これと同じような見方で銀行の経営内容を知ることができるか?じつはそれが「利益率」で

ディスクロージャー誌には
これが4種類のっている。
その1つが総資産経常利益率。言葉はむずかしいけれど
 これは総資産(貸借対照表の左側の一番下の数字)でどれだけの経常利益をあげたかをしめす数字で

算式はつぎのとおりです。
経常利益
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・×100
総資産(除く支払承諾見返)平均残高                2つ目が
総資産でどれだけの当期純利益をあげたかをしめす総資産当期純利益率で
算式はつぎのとおりです。
当期純利益
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・×100
総資産(除く支払承諾見返)平均残高                3つ目が
資本金などの額を対比して
どれだけの経常利益をあげたかをしめす資本経常利益率で
算式はつぎのとおりです。
経常利益
・・・・・・・・・・×100
資本勘定平均残高                   最後が
資本金などでの額を対比して
どれだけの当期純利益をあげたかをしめす資本当期純利益率で
算式はつぎのとおりです。
当期純利益
・・・・・・・・・・×100
資本勘定平均残高                   なお
 銀行が調達したすべてのお金(総資金)を運用してどれだけの利ザヤを得たかを表すものが総資金利鞘ですが

これもとうぜんディスクロージャー誌にのっている。
また
銀行の収益・利益をみる重要な指標に業務純益というものがあるけれども
これについては32ページで説明しています。




 *== 変換元[ 文書名 & 備考 ]===============================================*

Q42〜Q59
 *== 変換先[ テキストデータ ]===============================================*

9.銀行の不良債権ってなに? 
Q42 そもそも不良債権って?
まず債権というのは
人になにかを請求する権利のこと。たとえばあなたがAさんに5万円を期間1か月
利息500円で貸したとする。そうすると
あなたはAさんから1か月後に50
 500円を返済してくれと請求する権利をもつことになる。これがあなたのAさんにたいする債権というわけ(この逆にAさんはその金額を返済する義務を負う。この義務を債務といいます) 。


Aさんが1か月後に利息込みで返済してくれれば問題はないけれど
 なんらかの事情で返済ができなかったとする。つまりあなたはお金を返してもらえない。簡単にいうとこれが不良債権です。


Q43 どうして不良債権が問題なの?
5万円がもどってこなくても平気だなんてずいぶんと太っ腹。
でも
額にもよるけれども
貸したお金がもどってこないとか
いつもどってくるのかわからないなんてことになったら困るでしょう。そして
このことは
お金を貸すことを本業にしている銀行にとっては大変なことなんです。

Q44 でも
銀行にだって貸倒れがあるって言ったじゃない。
そう。『銀行がどんなに注意深く審査して貸し出たお金でも
 そのうちの一部は必ず貸し倒れになるというのが銀行の経験則なんです』と説明しました(→Q28)。

ただ問題は
その経験則以上の貸倒れが発生したばあいです。
ここでたとえ話をしてみましょう。ただ
たとえ話というのはわかりやすいけれど
 その内容のすべてが正確というわけではない。あくまでもそういう前提つきなんですが・。

まず
どんなに健康な人でもかぜをひいたり
歯が痛んだりする。生きている限り病気はつきもので
 その際の費用負担のためにわたしたちは保険料を払って健康保険に入っているわけです。ところがふつうの保険ではカバーできないような病気にかかるばあいがある。

たとえば
どうもお腹の調子が悪いんで病院に行ったところ
 精密検査がいるので長期の入院が必要といわれた。そして検査の結果しだいでは手術が必要で

手術をしないと取り返しのつかないことになるかもしれないという・。
このような長期の入院のばあいには
当然
費用がかかる。そこでわたしたちはその費用を準備する。また
手術のばあいには
準備した費用以上の出費が必要になるかもしれない・。
わたしたちの体イコール銀行の貸出金
病気イコール不良債権というのがこのたとえ話です。
そして
 重い病気をほっておくと大変なことになるのと同じように多額の不良債権をほっておくとその銀行の経営状態はさらに悪化する。これが

 銀行をふくめた金融機関にとって不良債権の処理がどれだけ大切かという意味なんです。

ただ
銀行の不良債権のすべてが回収不能というわけではない。ご存じのとおり
銀行は貸出の際に不動産などを担保にしています。そして
その担保のモノを競売して競売価格を返済にあてることもできる。つまり
銀行は不良債権の額のうち担保のぶんは回収できるというわけです。
なお
『健康保険』
『長期の入院』
 『準備した費用以上の出費』の文字の色をかえたのにはちゃんと意味がある。その意味を知るためには

この先もうすこし我慢して読まなくちゃなりません。

Q45 じゃあ不良債権はディスクロージャー誌のどこにのってるの?
これはおそらくディスクロージャー誌を読んだ方の多くの疑問。
確かに
 ディスクロージャー誌のなかで不良債権をズバリ不良債権という名称で開示している銀行はあまり多くありません。じゃあ

銀行は不良債権を開示していないのか?
 そんなことはありません。銀行によってちょっとちがうけれど平成4年度の決算計数から不良債権の内容別に開示しています。具体的には@『破綻(はたん)先債権額』

 A『延滞債権額』という名称でディスクロージャー誌に掲載してるんです(Q54)。


※貸借対照表とか損益計算書にのっている数字を決算計数といいますが
たとえば
平成8年発行されてディスクロージャー誌に掲載されている計数は
前年度(平成7年4月1日〜8年3月31日) の決算計数です。
というのも
決算計数は株主総会(ふつう6月)で承認されてはじめて確定するので
 平成8年発行のディスクロージャー誌に8年度の決算計数(これは平成9年6月に確定する)を掲載するのは不可能だからです。


10. まだ不良債権ってよくわからないんだけど
Q46 『破綻先債権』と『延滞債権』のちがいはなに?
『破綻先債権』というのは
借り手の倒産などにより
 銀行が返済を受けることが困難となる可能性の高い貸出金のこと。銀行にとっては最悪といえる債権です。

これにたいし
『延滞債権』は
借り手の業績不振などにより
利息の支払いを6か月以上受けていない貸出金など
 銀行にとって利益を生んでいない貸出金のこと。これを厳密にいうと「将来においてショウキャクすべき債権に転換する可能性の高い債権」ということになります。


Q47 ショウキャク?
そう
 ショウキャク。この言葉をふつうのワープロで打つと最初に『焼却』がでてくる。2番目は『消却』。ところが

 ここでいうショウキャクは『償却』。『消却』と意味が似ているけどすこしちがう。『消却』は単に消し去るという意味しかないけれど

『償却』は償って(つぐなって)消却すること。つまり
費用をかけて『消却』するのが『償却』ということになる。
不良債権がわかりにくいのは
じつはこの専門用語の難解さがひとつの理由なんです。

Q48 なんで費用がかかるの?
不良債権の処理になんで費用がかかるか?これはとうぜんの疑問。自分が貸したお金
たとえば5万円がもどってこない・・・つまり貸倒れ・・・というのは

そのぶん財産がへるのでまちがいなく損失ではあるけれど
でも
貸倒れのばあいに費用がかかるなんて
ふつう
そうは考えませんよね。でも
病気で入院・手術すると費用がかかるのと同じように
 不良債権の処理にも費用がかかる。だから不良債権の処理のことをふつう『償却』と言っている・。


Q49 ???
貸借対照表の説明をもう一度思い出してください。
そう
左側の「資産」と右側の「負債と資本」の額は一致していなければならない。だから
銀行にとっての資産である貸出が全部で100のときに
そのうちの2をショウキャクして98にしたばあいには
右側のどこかを2へらす
つまりその分を償わないと貸借対照表のバランスがとれなくなるわけです。
結論をいうと
このばあい「資本の部」のうちの「当期未処分利益金」の額をへらす。つまり
利益をへらさないと償却はできないという仕組みになってるんです。

Q50 でも
「費用」というのは貸借対照表ではなくて損益計算書の言葉じゃない?
おっしゃるとおりです。では
損益計算書ではどういう処理をするかというと
 損益計算書のH〔その他経常費用〕のうちの『貸出金償却』の額を2にする。つまり費用をふやすわけです。そして

費用がふえると全体としての利益はとうぜんながらへる。
では
損益計算書で具体的にどの部分の利益がへるかというと
それがKの〔当期未処分利益金〕です。
さて
ここで
 貸借対照表と損益計算書の〔当期未処分利益金〕をみてください。ほら同じ額でしょう。つまり

不良債権の処理に費用がかかるというのは正確には損益計算書上の処理だけれど
貸借対照表でも同じ結果になるというわけです。

Q51 頭が混乱してきたわ。不良債権の基本を整理して
まず
銀行の貸出金の総額は
貸借対照表のF〔貸出金〕にのっている。ただ
この貸出金には
 じつは不良貸出(不良債権)もふくまれているんです。だから不良債権の額がどれだけかを知るためにはディスクロージャー誌のなかの『破綻先債権額』・『延滞債権額』の項目をみる必要がある。これがポイントの1番目。でも

この項目はいわば病気の状態をしめしているだけで
銀行がその病気(不良債権)についてどのように手当てしたかは
この項目をみてもわからない。では
 どこをみればよいか。それがディスクロージャー誌のなかの『貸倒引当金内訳(残高)』。これがポイントの2番目です。

そして
ここでつぎのページに書いてあることを予告しておくと

健康保険=『一般貸倒引当金』
長期の入院費 =『債権償却特別勘定』・『特定海外債権引当勘定』
準備した費用以外の出費=『貸出金償却』
という関係になるんです。



お問い合わせ ik8m-ysmr@asahi-net.or.jp


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