ディスクロージャー研究学会



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文書No.
960801b

日本の金融システムの再構築

    96年8月1日日本経済研究センター講演レジュメ

    池尾 和人(慶応義塾大学経済学部教授)  

住専処理と金融関連法案の成立−システム再構築の道筋はつけられたか。

 金融システムの意義−金融システムは、産業活動と国民生活のための重要なインフラの1つである。インフラは、頑健で安定したものである必要があるが、同時に効率的なものでなければならない。

また、金融産業は、これからの日本が発展させるべき高度情報化産業の1つである。

 日本の金融システムと金融産業の現状は、残念ながら、こうした意義を満たすことから程遠い状況にある。


 当面の課題(危機対策)と中期的課題(構造対策)−現象的な危機は、不良債券問題であるが、真の危機は、日本の金融システムが時代遅れなものとなり、日本の金融産業が国際競争力を喪失していること。


 当面の危機への対処も完了していないし、何よりも真の問題解決のために不可欠な本格的な(第2次)金融制度改革の議論すら始まっていない。当面の困難を克服できるまで制度改革や金融自由化はしばらく棚上げにしたいというのは、陥り易い発想であるが、二重の意味で決定的に誤っている。@現在の困難は、1980年代に金融制度改革を中途半端に終わられたことのツケであることを認識していない。Aグローバルな競争を見ない一国主義的考え方である。


 日本経済の構造転換−基調的に資金不足の構造から資金余剰構造への転換。当然、金融制度は経済の構造転換に適応すべきであったが、果たされていない。

 1980年代の初頭には問題が顕在化していたが、バブル経済の中で問題が解消したかのように錯覚され、結果的にプラザ合意以後10年間を無為に過ごした。


 グローバルに共通した変化−高齢化とストック化(資産蓄積の進展)、および情報技術の革新が、金融サービス産業の変容を不可避としている。


 高齢化(45-65歳層の増加)とストック化→預金という金融商品だけで個人の金融ニーズを十分に満たすことが難しくなった。金利選好の高まりといった単純なことではなく、より豊富で洗練されたメニューを(潜在的に)欲している。

 われわれには、きわめて貧困な資産運用サービスしか提供されていない。このことによる将来的な国民負担はいかばかりか。


 情報技術の革新→コンピュータとネットワークに関わる技術の長足の進歩とインターネットのような新しいインフラの登場。それによる内部調整コストと外部調整コストの双方の低下、しかし外部調整コストの方が限界的な低下は大きいのではないか→最適企業規模の縮小。

 分業体制のネットワークの中で、メニューを豊富化しつつ、業務の専門化を行う。ただし、こうした戦略には補完性があるので、単独で踏み切ることは難しい。


 銀行の競争力−個別企業の力(technologyとcapital)とシステムの力(network)

 コスト競争力では邦銀に優位という考え方には疑問。変化対応力では、明らかに劣位。さらに、分業体制の高度化の傾向は、属するシステムの優劣が個別企業の競争力を規定する度合が高まっている。


 相対的に劣化する日本の金融システム−時代遅れな金融制度、市場間競争に遅れをとる証券市場


 東京市場の国際化の挫折、いわゆる空洞化の原因は、単純に国際金融センターにふさわしいインフラとルール(規制)の確立を怠ったことにある。

 厳格な業務分野の区分(銀行、証券、信託、保険)を残しているのは、いまや先進国では日本だけとなってしまっている。しかるに、既存の金融機関(証券会社、証券取引所等など)自身が改革に反対し、タイタニック号の上で椅子取りゲームを続けているようにみえる。囚人のジレンマである可能性。


 ビック・バンの必要性−斬新主義では制度の慣性(inertia)を断ち切れず、旧体制の温存につながった。戦略的・制度的補完性が大きいとき、部分的改革はシステムのパフォーマンスをむしろ低下させる。


 業務分野の全面的な撤廃を内容とする第2次金融制度改革を早急に実現し、日本の金融システムの現代化(modernizing the financial system)を実現する。


 危機を危機として認識しない危機的状況−このままでは、日本の金融システムが日本経済の最大の弱点になる。差し迫った危機感が必要。

以上日本の金融システムの再構築(追加)
1.金融制度改革の継続
 従来の「仕切られた競争」ではなく、活動の場(playing field)を思い切って拡大し、多様な参加者間の競争を促進する。明示的に禁止されていないこと以外は原則自由をプリンシプルにする。ビック・バン方式で、一挙的・全面的な改革を実現する(「金融システム改革委員会」を設置する)。


業務分野規制の撤廃

金融持株会社の解禁

証券取引法の改正

2.資産取引の自由化
 資産収益率の趨勢的な低下に歯止めをかけ、国民の保有する資産の運用を効率化する。高齢化・ストック化が進行する中で、「低利で安定した資金供給」以上に、「高利回りでリスクの少ない資産運用」の実現が、国民経済的に重要な課題となっている。


資本市場の機能向上

年金基金・投資信託・商品ファンドに対する運用・商品設計規制の緩和

外国為替管理制度の抜本的な見直し

3.規制・監督体制の見直し
 新しい金融システムのあり方と両立的な規制・監督体制の確立が不可欠であり、そのための金融行政組織の再編成がなされねばならない。また、破綻処理の積み残しの分の解消を急がねばならない。


破綻処理の制度的基盤整備

支払い能力監視と早期是正措置

金融行政組織の再編成


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