97年度にかけ4期連続経常増益が期待され、期間、……
日興リサーチセンター投資月報96年8月号 日経金融新聞
(1)97年度にかけ4期連続経常増益が期待され、期間、ボトムからの回復力の両面で80年代後半の円高不況克服後の大型景気時に匹敵する収益回復期を迎えている。しかし、製造業の大企業に偏ったアンバランスな回復なのが、今回の特徴である。
(2)中小企業苦戦の背景には、大企業の海外調達・生産移転や取引見直しがあり、この流れは少々の円高修正では後戻りしない。中小企業等では業界再編などが予想される一方で、大企業では海外事業の強化で連結で評価すべき時期になってきた。
(3)円高の進行で一時危機的な状況にあったわが国産業の国際競争力は、その後の徹底した合理化努力と行き過ぎた円高の是正により、造船、鉄鋼などで回復を示している。しかし化学、医薬品、繊維などは厳しい状況が続き、再編が不可避であろう。
(4)わが国の産業構造改革は、円高進行による内外価格差の顕在化、輸出入バランスの均衡化を契機に、創意工夫のない中小企業の淘汰、流通改革などがようやく始まった。規制緩和の後押しにより、この流れは止りそうにない。
(5)激烈な国際競争で勝ち残るためには、グローバル化の深耕、「常識(価値観)」の見直し、経営戦略策定スピードの向上などが必要と考える。
国内景気の緩やかな回復、円高修正メリットの享受、自動車中心に一層の合理化努力、不良債権処理の進展などを要因に、我々は96年度8.6%増、97年度9.7%増と94年度以降4期連続の増益を予想している。4期連続増益は87〜90年度(円高不況克服後の大型景気時)や77〜80年度(第一次石油危機後の回復)に並ぶ回復である。また、ボトムからの回復は1.5倍と、86年度→90年度の1.6倍とは大差なく、回復力でも大型の回復局面にあると言える。
1、バブル崩壊と競争促進で低迷する非製造業
しかし、今回では回復感に乏しい状況が続いており、しかも収益回復が製造業の大企業に偏っている。ボトムである93年度を100とした経常利益の推移をみると、製造業は半導体・移動体通信ブーム、徹底した合理化、洋紙市況回復などで素材・加工ともに既に95年度には対93年度比で2倍前後まで回復しているが、非製造業はほぼ底這いにあることが分かる。特に不良資産処理が遅れている建設・不動産では大幅減益が続き、95年度の底入れ後も回復力が弱い。
2、苦戦続く中堅・中小企業
今回の収益回復を牽引している製造業について、大企業と中堅・中小企業(以下、中小企業等とする)に分け、経常利益及び金融収支の改善幅(対前年同期比、1社当たり)をみてみよう。大企業は景気が底打ちした94年以降経常増益に転じ回復幅も拡大基調にあるが、中小企業等は94年央に回復にしたものの、95年前半の超円高で再度減益となった。96年1Qは増益転換したが、金融収支の大幅な改善に支えられたもので脆弱さを抱えている。
このような今回の中小企業等の苦戦は、以下の様にパソコンや移動体通信など一部を除けば需要回復が緩やかであること、大手製造業中心に海外生産・調達の強化や取引関係の見直しなど一層の合理化努力が中小企業等を圧迫していること、等のためである。
3、盛り上がりに欠ける内需と輸入圧力増大
全産業の売上高は、86年度→90年度では1.4倍となったが、今回(93年度→97年度)はわずか6%しか増加しない見込みである。資本ストック調整持続、所得の伸び悩み・雇用不安などから内需回復が緩やかだからである。しかも、内外価格差拡大による輸入品との競合激化から、資本財・中間財から消費財まで幅広く価格低下圧力がかかっている。GDP統計でも、86年度→90年度が実質5.2%・名目6.6%(年率)に対し、93年度→95年度は実質1.3%・名目1.1%(〃)と成長率が低く名実も逆転している。
4、加速する海外移転・調達
このような状況に対応するため、大企業中心に、取引先選別や海外調達・生産拠点の海外移転を一段と加速し、コスト削減を強化している。第1図をみても、90年代に入り海外生産の加速とアジア地域からを中心とする逆輸入の急増が分かる。このあおりで、中小企業等は取引削減やアジア価格を引き合いにした厳しい値引き要求を被っている。
また、海外生産シフト・調達の強化はドル・バランス収支を改善させ、為替変動への抵抗力強化にもなる。特にパソコン部品等の海外調達を強化した通信2社(NEC、富士通)では95年度からドルの受取超過額が縮小し、96年度には1円円高に振れても約5億円しか差損が発生しないほどに進捗する見込みである。
5、構造調整圧力で業界再編の可能性も
一方、大企業の行動変化のあおりを被りやすい中小企業などは、今後も景気回復の恩恵を十分受けられないことが懸念される(通産省によると、95年度には海外移転による輸出代替効果と逆輸入効果の合計が資本財・中間財等の輸出誘発効果を上回った)。大企業の取引見直し、輸入圧力など市場構造に対する圧力は今後も続くため、業界再編や多角化などの生き残り策の選択に迫られる業種も出てこよう。
1、製造業で目立つ連結の回復
連結決算では、単独以上に製造業と非製造業との格差が強まろう。第2図は、単独と連結の税引後利益(90年度=100)と連単倍率を示したものである。これによると、単独の利益では、97年度製造業85.7に対し、非製造業も不良資産の処理一巡で73.8と両者の格差は11.9ポイントと縮小しよう。しかし連結では、製造業は97年度には90年度を10%以上も上回ることが期待されるが、非製造業では回復が鈍く、両者の差は97年度18.6ポイントと単独を大きく上回ろう。
2、素材産業にも拡がる好連結企業
従来よりグルーブ経営や海外進出が進んでいた電機・精密はもとより、素材産業でも連結で単独以上の収益拡大を示す企業が目立ってきた。化学では、半導体材料等の多角化や合成樹脂工場の海外進出を進めてきた信越化学等が、95年度には世界的な半導体ブームや合成樹脂の需要拡大で単独以上に連結の収益を拡大した。また上述通り、化学業界は再編による赤字・不採算部門の集約も進み始め、化学業界の95年度連単倍率は1.24倍(信越化3.4倍、三菱化2.6倍、住友化2.1倍)と、製造業平均の1.2倍を上回った。
衰退イメージのある非鉄でも、大手中心に多角化・海外投融資の効果が現れ、95年度連単倍率は1.46倍となった。住友金属鉱山は連結税引後利益106億円中、50億円は持分法の投資収益(94年度は22億円)、うち40億円が海外鉱山への投融資の成果と思われる。三井金属では銅箔事業の成長で、連結営業利益236億円中、電子部品等の中間素材が124億円を占め、うち約55億円を内外子会社が計上。三菱マテリアルも、子会社主体の電子材料が連結営業利益の約30%を獲得している。
3、海外事業の取り組みが企業間格差を加速
以下新聞参照
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