ディスクロージャー研究学会



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文書No.
961023

わが国金融システムの活性化のために

    経済審議会行動計画委員会

    96/10/2   

わが国の金融は国際面からも国内面からも、大きな変革を迫られている。
 国際面からは、世界経済を覆いつつある「大競争」の波が金融にも及んでいる。むしろ金融分野こそが最も激しい世界的大競争の中にあるとさえ言える。この「大競争」の意味するところは単なる企業間競争にとどまらない。各国の金融関連制度・慣行からなる「金融システム」の間の競争も激しさを増している。金融機関が自らの生き残りを賭(か)けて熾烈(しれつ)な企業間競争を繰り広げているのと同じように、各国の金融システムの間では、「制度間競争」あるいは「市場間競争」が繰り広げられている。

 国内面からは、日本経済の成熟化や人口構成の高齢化といったわが国全体の構造変化の波が金融面にも及び、金融システムに変革を迫っている。また、情報通信の面で爆発的に進行しつつある技術革新の波が金融分野にも大きな影響を及ぼしつつあり、金融の分野において、従来存在していた国境の壁、従来非金融として区分されていた周辺サービスと金融との間の壁、金融部門内の業務分野間の壁、金融サービス・商品間の壁など、あらゆる人為的な「壁」の意義を急速に薄れさせつつある。

 こうしてわが国金融システムを取り巻く経済的・技術的な環境が大きく変化しているにもかかわらず、こうした変化に対応するための制度・慣行の見直しは、いまだ十分に進展しているとは言えない。わが国においても1980年代後半以降、金融制度改革が進められてきた。しかし、同時期における諸外国の改革スピードはわが国以上に急速であったため、わが国の金融システムは、国際的にみて相当時代遅れのものとなってきている。その中で、わが国金融産業も国際競争力を大きく後退させている。こうしたわが国の金融システム、金融産業の現状は、それに対する国民経済的な期待に十分にこたえているとは言えない。

 金融システムとその担い手である金融産業は、他の産業の活動や国民生活に不可欠なインフラ的サービスを提供するという重要な役割を果たしている。その金融システム、金融産業が国際的にみて立ち遅れた状態にあることは、ひいてはわが国産業全体の活力の低下、国民の経済的厚生の低下をももたらすものである。わが国の金融システムを活性化することは、金融面のみならず、わが国経済全体にとっての大きな課題である。

 個別産業として金融産業をとりあげてみても、わが国において比較優位をもってしかるべき産業であると考えられる。すなわち、国民経済の規模や地理的位置などからみて、わが国は金融産業が発達し易い条件を有しているといえる。しかるに、いわゆる「金融の空洞化」といった現象が生じていることは、これまでの金融システムに関する制度的な枠組みや政策的対応に欠陥があることを示している。そして、わが国が高度情報化社会に向かう中で、情報産業的な性格を強くもつ金融産業の競争力をもしこのまま後退させてしまうならば、その損失はとりわけ著しいものとなろう。

1、日本経済の構造転換
 現在の日本経済は戦後初めてとも言える大きな構造変化の渦中にある。その中で、金融面における構造改革を促す大きな力となっているのは、次のような変化である。

 第1は、資金不足構造から資金余剰構造への転換である。戦後復興期以降、1960年代前半ころまでのわが国経済の資金不足時代には、重点部門への「低利で安定した資金供給」が大きな課題であり、そのことを目的に金融システムが構築された。しかし、わが国経済が成熟段階に達し、資金余剰構造が定着した現在では、非金融企業部門における金融システム・金融機関に対するニーズに変化が表れている。

 第2は、高齢化・ストック化の進行である。わが国社会の高齢化が世界に類を見ないスピードで進展している中、国民は高齢期における生活への備えとして、貯蓄の累積残高(金融資産)を増大させている。ストックの水準の低い社会では、流動的な貯蓄手段に対するニーズが強いのに対して、ストック化の進んだ社会では資産管理的なサービス・商品へのニーズが高まり、「高利回りでリスクの少ない資産運用」が求められている。

 金融システム・金融機関は、自らの構造変革を進めることにより、こうしたニーズにこたえていく必要がある。しかし、これまでの金融サイドからの対応は、決して十分だったとは言えない。これは、一つには、これまでの対応が、すでに構築されてきた金融システムを基本として、その微調整で処理しようとするものであったためであり、もう一つには、いわゆる「護送船団方式」と呼ばれる金融行政や金融機関各社の横並び体質により、競争制限的な対応をとってきたためである。

 金融面に迫っている変化の波は、もはやこうした従来型の対応では到底済まされないような大きなものだといえる。

2、情報技術の革新
 戦後経済の歩みを見ると、製造業は常に技術革新の荒波のなかで自己変革を繰り返してきたが、金融業は近年に至るまで比較的そうした動きとは無縁であった。

しかし、近年では、情報技術の面でのイノベーションが金融を大きく変えつつある。
 例えば、いわゆるダウンサイジング、分散処理型の技術が主流になってくると、業務のやり方そのものに見直し(リエンジニアリング)が不可避となってきた。企業組織は、集中型のピラミッド構造から、分散型のフラットな構造へと変化しつつあり、決済処理方式も集中処理から分散処理へと変化を見せている。金融サービスの「アンバンドリング」(従来一つの金融機関が一体的に提供していた金融サービスが分解され、市場での取引を通じて金融機関や機関投資家などにより分担されるようになること。)も情報技術の革新が背景にある。近年の多様な金融派生商品(デリバティブ)の登場も、こうした流れのなかに位置づけられよう。

 こうしたイノベーションの動きは、1980年代後半以降高まりをみせてきたが、この時期、わが国経済はいわゆるバブル経済の興隆下にあったため、わが国金融産業は、一律に量的拡大を志向し、上記のようなイノベーションへの戦略的な対応に後れをとってしまった。わが国金融産業の不幸は、バブルに酔いしれ、宴の後始末に追われて、最近10年間の劇的な変化の時代を結果的に無為に過ごしたことである。

3、相対的に劣化する日本の金融システム
 こうして変革を促す強い力が作用しつつあるなかで、欧米諸国さらにはアジア諸国では、金融システムの改革が加速的に進められており、金融産業も競争力の強化に努めてきている。しかし、わが国の金融システム改革の動きは依然として鈍く、金融システムの市場間・制度間競争への立ち遅れが目立っている。その具体的な表れが、それまで日本で行われていた金融業務が海外にシフトしていくといういわゆる「金融・資本市場の空洞化」である。わが国の金融システム、金融産業は諸外国に比べて相対的に劣化しつつあるといえる。

 例えば、金融産業の国際競争力は、コスト競争力、金融技術力(新サービス・商品の開発など)、環境の変化に対する対応力、自己資本充実度などによって決まるが、これらの点で、わが国金融産業は主要国に追い抜かれ、あるいは一層差をつけられつつある。金融システムの競争力についても、金融・資本市場の効率性・革新性、べンチャー企業への資金供給力等の面で立ち遅れが目立っている。

 こうした相対的劣化の状況を脱し、利用者がより効率的で良質な金融サービスを享受できるようにしていくためには、次の二つの考え方からまず脱却しなければならない。

一つは、いわゆる「生産者(この場合は金融機関)重視」の視点からの脱却である。
 現在の金融システムは、「信用秩序の維持」と「預金者・契約者・投資家保護」の名の下に、その本来の姿から乖離(かいり)した金融機関保護のシステムとなっている。しかし、経済が成熟し、金融資産の蓄積が進んだ現代にあっては、従来以上に「利用者重視」の視点により、金融面の改革を進める必要がある。

 もう一つは、各社横並びで、極力脱落者を防ぐという、いわゆる「護送船団方式」からの脱却である。こうした方式は、安定的な資金供給、金融システムの安定等の面で一定の役割を果たしてきたという見方があるが、半面では、こうした方式が金融面でのイノベーションの進展、企業家精神の発揮を抑制し、その弊害が現在になって金融システム・金融産業の自己革新の遅れとなって顕在化してきたものと考えられる。

 早急に取り組むべきことは、市場メカニズムと自己責任原則に基づく「利用者重視」のシステム構築に向けて、抜本的な構造改革の全体像を明らかにし、関係法令等の速やかな改正を経て、諸施策を確実に実施することである。今後の金融システムは、もちろん「健全で安定した」ものでなければならないが、それだけでは不十分であり、同時に「効率的で革新的な」ものでなければならない。これら両者の条件を満たすものでなければ、金融システムはそれに対する国民的期待にこたえることはできない。

 なお、金融システムをめぐっては、多くの規制が相互に複雑に入り組んでいることを考えると、改革は「漸進的、段階的」ではなく、ある程度一気に行われなければならない。しかも、諸外国との大競争を考えれば、それは早い程良い。このため、「ビッグ・バン」方式により、遅くとも1999年度末までに改革を全面的かつ一挙に実現すべきである。

 以上の認識の下、当ワーキンググループは、「健全で安定した金融システム」であると同時に「効率的で革新的な金融システム」の構築を目指して、以下の諸施策を実施すべきであると考える。

 なお、本報告書では、民間金融とそれにかかわる当局の規制・監督行政の改革のあり方を論ずるにとどめ、公的金融の改革のあり方については触れていないが、わが国の金融システムにおいては、公的金融機関が大きなウエートを占めており、金融システムの改革に際しては、民間金融機関だけではなく、公的金融機関についても早急な改革が必要である。すなわち、民間金融と公的金融の改革は、日本の金融システムの活性化を達成するためのいわば両輪であり、同時並行的に進められていくことが望ましい。ただし、一方の改革が遅れていることを口実に、もう一方の改革の進行が妨げられることがあってはならない。それぞれ独立でも、各々の改革は全面的かつ一挙に進められていく必要がある。

 同様に、大蔵省や日本銀行等の金融行政組織のあり方についても本報告書では取り上げていないが、ここで指摘した金融システムの活性化の方向と整合性を持った形で、今後各方面において議論がなされ、金融行政組織の改革が実現されることを期待する。

(注1)本報告書においては、「金融機関」あるいは「金融業」とは、従来その範ちゅうとされてきた銀行、信託、証券、保険等に加えて、各種決済関連サービスや商品ファンド、債券・不動産等の資産流動化関係の業務を営む機関をも含む、広義の金融サービス業を意味するものとする。

(注2)以下の各章において、見出しの後にある記号の意味は次のとおり。
〔A〕……遅くとも1997年度中に実施すべきもの
〔B〕…… 〃 1998年度中に 〃
〔C〕…… 〃 1999年度中に 〃
 1980年代後半以降これまでの金融制度改革は、「間接金融優位」の下での専門金融機関制度と業務分野規制を基本的に維持し、銀行、証券、保険等それぞれの業務分野ごとに検討されてきたものであり、縦割り行政の弊害もあって、業務分野の「壁」の撤廃のためには必ずしも有効ではなかった。なすべき改革は各業態ごとの利害調整に堕することがあってはならない。

 基本的考え方としては、従来の業態ごとに「仕切られた競争」ではなく、各金融機関の活動の場を抜本的に拡大し、多様な参加者間の競争を促進する。加えて、金融部門内の各業態間のみならず、非金融部門から金融部門への新規参入も容易にする。このため、参入規制、業務内容・方法等への制限・禁止・許認可等は原則撤廃、例外規制とする。「例外規制」を拡大解釈することのないよう、規制を設ける場合には、法令に規制事項を限定列挙し、それ以外は完全自由とするとともに、規制の根拠・許認可等の要件を明示することにより、通達行政、行政指導といった行政の裁量の余地をできるだけ排除する。なお、これらにあわせて、不公正取引や情報開示に係る規制は強化するとともに、金融機関及び預金者・契約者・投資家の双方の自己責任原則を徹底する。(本パラグラフについては、第3章において同じ。)

1、業務分野規制の撤廃
 主な内容は以下のとおりであり、法律改正が不要なものは即時に、法律改正を要するものは遅くとも1997年度末までに改革を実施する。

(1)銀行・証券・信託の業態別子会社の業務分野規制の撤廃〔A〕
 1993年4月施行の金融制度改革関連法により、銀行、証券会社、信託銀行はそれぞれの業務に特化した子会社の設立を通じて、それぞれの業務に相互に参入することが認められている。

 しかしながら、新たに設立する子会社の業務範囲については、「激変緩和」を理由にいくつかの制限が課されている。例えば、証券子会社の当初の業務範囲については、(1)株式の発行及び流通業務、(2)転換社債券、新株引受権付社債券、新株引受権証券の流通業務、(3)株価指数先物取引、株価指数オプション取引は除外されている。

 また、信託銀行子会社の当初の業務範囲については、貸付信託、年金信託、合同金銭信託、特定金銭信託などが除外されている。なお、業態別子会社の業務範囲などについては、「金融制度改革実施後の状況、市場の状況、証券会社及び金融機関の経営に与える影響などを勘案しつつ、法施行後2年ないし3年を目途(めど)に見直しを行う。」とされている。

 既存業者の既得権益を排除し、多様な参加者間の競争を促進する観点から、これらの業態別子会社の業務分野別規制については、完全に撤廃する。

(2)生・損保及び保険業とその他金融業との相互参入〔A〕
 1996年4月施行の新保険業法では、生命保険業と損害保険業の本体での兼営については従来どおり禁止されている(ただし、第三分野(疾病・傷害・介護保険)については、生・損保本体での相互参入は法律上可能。)が、子会社方式による生・損保相互参入が初めて認められた。

 しかしながら、第三分野への依存度の高い中小保険会社、外国保険会社の事業の健全性に配慮し、当分の間、相互参入に際しては「必要な条件を付することができる。」とされている。

 また、保険業務と銀行・証券等のその他金融業との相互参入については、1994年6月の保険審議会報告において「まず、子会社方式による生・損保の相互乗入れを含む保険制度の自由化を進めるとともに、(中略)その定着を見極めた後に子会社方式による他業態への進出も含めた制度改革が完了するよう、段階的に行うことが適当である。

」とされている。
 これらについても、既存業者の既得権益を排除し、多様な参加者間の競争を促進する観点から、改革を行う。まず、生・損保子会社の取扱保険商品については、第三分野も含めた生・損保それぞれに認められるすべて(フルライン)を認め、後述の保険商品販売の規制緩和、保険会社の資産運用及び保険商品の設計規制の緩和とあわせて実施する。また、保険会社と銀行・証券などの他業態金融機関との子会社方式による相互参入についても、それぞれの業態に業務範囲規制を設けることなく認める。

(3)普通銀行等による金融債発行の自由化の環境整備〔B〕
 現状では、金融債は、その設立根拠法により債券の発行が認められている金融機関(長期信用銀行、外国為替専門銀行、商工組合中央金庫、農林中央金庫、全国信用金庫連合会)にのみ発行が認められている。

(注3)唯一の外国為替専門銀行であった東京銀行は、三菱銀行と合併し、消滅したが、合併後の東京三菱銀行にも金融債発行が認められている。

 これらは既得権化しており、他業態であることのみを理由に金融債発行を禁止する合理的根拠は存在しないことから、制度的に普通銀行、信託銀行など他の預金取扱金融機関に対しても金融債発行を認めるための環境整備を行う。

(4)金融商品の販売に関する規制緩和〔A〕
ア、有価証券の販売等に関する規制緩和
 現在、有価証券の取扱業者については、証券取引法などの規定に基づき、原則として証券会社に限定されている。銀行は、公共債に関する業務は行えるものの、一般に株式、社債等に関しては取り扱えない。また、証券投資信託の受益証券の販売チャネルについては、証券会社のほか、証券投資信託委託会社に限られている。

 後述の有価証券売買委託手数料の自由化によって、特に小口取引の手数料の低下を促すためには、新規参入による競争を促すことが重要であり、また、証券業務のうち、「ディスカウント・ブローカレッジ」(アドバイス等は行わず、顧客の注文に従って売買の取り次ぎのみを行う業務。)については、取扱業者にとってリスクを伴うものではないことから、有価証券の「ディスカウント・ブローカレッジ」を銀行など証券会社以外にも開放する。

 また、証券投資信託についても、銀行などによる窓口販売などを認めるとともに、現在想定されていない私募投信について、機関投資家などの投資家の多様なニーズに対応できるよう解禁する。

イ、保険商品の販売に関する規制緩和
 生命保険商品については、生命保険募集人又は保険ブローカーによって販売されることとなっており、銀行による窓口販売などのより多様な販売チャネルの利用が制限されている状況にある。

 保険商品の販売に関しては、保険会社によって設計された商品のいわば小売りに相当するものであり、保険の引き受けと異なって、業者がリスクを負うものではない。販売チャネルの一層の拡大・多様化により、チャネル間の競争を促進し、利用者の利便性の向上を図るため、保険商品の銀行などでの窓販や通信販売などに関する規制の緩和・撤廃を行う。

ウ、規制緩和に当たっての留意点
 金融自由化が進み、複雑で多様な金融商品が出現する中で、金融機関は金融商品に関する情報をそのリスクも含めて消費者に適切に説明する必要性が高まっている。特に、銀行はこれまで元本保証のある預金を主として取り扱ってきたことから、上記の販売チャネルに係る規制緩和に当たっては、顧客に誤解を与えることのないよう、有価証券は信用リスク、価格変動リスクなどのリスクを伴うものであることの認識を徹底するほか、預金保険の対象となる金融商品を明示するなど、取扱商品についての正確な情報を顧客に提供する必要がある。このことは、消費者の自己責任原則を確立するためにも重要である。

 このため、金融機関自らが率先して消費者保護に関する行動規範を確立し、このような金融機関が市場で適切に評価されるようになることが期待される。

(5)リース・クレジット会社による資金調達に係る制限の撤廃
 リース・クレジット業界においては、社債・CPの発行や債権流動化による資金調達を行う際に、以下のような制限が課されており、その資金の多くを銀行などからの借り入れにより賄わざるをえない状況にある。

 こうした制限は、リース・クレジット会社と銀行の間の競争を妨げるものであるので撤廃し、有利で効率的な資金調達を可能とする。

ア、社債・CP発行に係る制限の撤廃〔A〕
 現状では、リース・クレジット会社で貸金業法上の登録を行っている貸金業者については、社債・CP(コマーシャルペーパー)の発行により調達した資金について、預金者・投資家保護のための出資法における預り金規制に係る規定を根拠に、貸付金に充当されないことを担保するためとして、使途制限、運用制限などが課せられている。

 こうした制限を課すことは、40年も前に悪質業者を対象に定められた法律を機械的に適用しようとするものであり、結果として、銀行などの既得権保護につながるものである。また、社債・CPは、(1)預金とは全く性格が異なり、証券取引法上の有価証券として発行企業にはディスクロージャー義務が課せられていること、(2)同一の貸金業の登録を行っているリース・クレジット会社であっても、社債・CP発行による資金を貸付金以外の使途に使用することができることから、こうした制限は預金者・投資家保護にとって意味をなさないものであり、かつ、(3)そもそもこの制限は、出資法の拡大解釈の可能性があること、(4)このような制限は、多大な事務コストを発生させていることに鑑み、本制限は速やかに撤廃する。

イ、債権流動化に係る制限の撤廃〔A〕
 特定債権法では、リース・クレジット会社が保有しているリース・クレジット債権の流動化に関し、所定の手続を経たうえで公告することによって、民法の指名債権譲渡の対抗要件を具備するものとみなすという簡便な制度が規定されている。

 しかし、リース・クレジット会社がこの制度を利用する場合、(1)債権譲渡の総額がリース・クレジット事業の実施に必要な限度を超えないこと、(2)債権譲渡の総額が財産の状況に照らして過大でないことなどにつき所管省の確認を受ける必要がある。

この規制についても、効率的な資金調達促進の観点から速やかに撤廃する。
(6)預金取扱金融機関外への一部決済サービス提供機能の開放〔A〕
 現状では、銀行などの預金取扱金融機関が要求払預金(預金通貨)の取り扱いを通じて各経済主体に決済サービスを提供し、経済取引の円滑化を支えている。この預金通貨を通じた決済サービスの提供機能を有するということが、預金取扱金融機関を他の金融機関と区別する特徴である。そして預金者保護と決済システムの安定性確保こそが、「健全で安定した金融システム」の核心部分である。

 このため、当面想定される将来においても、決済サービスに係る預金(決済勘定資産)業務は、預金取扱金融機関の中核機能として免許制を維持していく。

 一方、現状でも例えば証券会社の取り扱う中期国債ファンドと普通預金との間の振替サービスなどが行われているところであり、コンビニエンスストアによる公共料金の収納代行業務も広い意味での決済サービスととらえることもできよう。これらは、銀行などの預金口座を介したサービスの提供であるが、預金取扱金融機関以外の者が決済サービスの一部を提供していると解される.すなわち、決済サービスは「支払手段の受け入れ・運用」と「決済情報の仲介」という2つの機能に分解してとらえることができるのであり、前者は預金取扱金融機関がもっぱら担い続けることが妥当であるとしても、後者については様々な分野の企業が参入し、多様なサービス提供が実現されることが望ましい。

 将来とも維持すべき免許制は、この「支払手段の受け入れ・運用」機能に限定し、「決済情報の仲介」機能は広く預金取扱金融機関外への開放により自由競争の導入と利用者の利便性の向上を図る。証券取引に伴う顧客との自動振替に係る制限、中期国債ファンドやMMFの解約金をもって行うカード利用代金の一括振込の規制などは、こうした観点から撤廃する。

 近年の情報技術の革新を受けて、「電子マネー」などの電子決済サービスの試みも世界各地でなされている。その具体的姿は明らかになりつつあり、近い将来には広く実用化されることが見込まれる。この場合にも上記方針を堅持し、行政当局がいたずらに介入して民間の創意工夫を妨げることがあってはならない。

(7)金融機関の業務運営等に係るその他の規制等の撤廃〔A〕
 上記以外に、金融機関の業務の運営方法など、本来各企業が自らの判断において決定すべき事項についても、金融当局が細部にわたり規制や行政指導を行い、金融機関経営の自己責任原則確立の支障となっている。例えば、銀行、証券会社においては、支店その他の営業所の設置・変更などに当たっては、それぞれ銀行法、証券取引法の規定により、大蔵大臣の認可を受けなければならないとされている。

 店舗行政に象徴されるこれらの規制については、中小金融機関の経営に配慮するためなどとされており、結果として金融システム全体の非効率を温存することにつながるものである。また、これらの規制の存在自体が、上記の各種業務分野規制を維持する原因にもなっている。このため、弊害の大きいこれらの規制を速やかに撤廃する。スーパーマーケットの中に簡易店舗を出店するなどの行動を自由にし、こうした面での競争も促進して、利用者の利便性の向上を図る。

2、金融持株会社の解禁〔A〕
 1、で指摘した業務分野規制の撤廃による競争の促進と相互参入によって生ずるおそれのある弊害の防止の実効を高めるために、現在、独禁法で禁止されている(が、一般事業会社の持株会社も含めて最近、解禁の議論がなされている)金融持株会社を解禁する。このため、速やかに所要の法律改正を行う。この場合、金融持株会社を通じた事業支配力の過度の集中による弊害を防ぐために、独占禁止政策の厳格な運用が必要であるのは当然である。

(1)あらゆる形態の金融持株会社の解禁
 金融業において業態間の相互参入を進める際には、不公正・不当な取引防止のための規制と業態間でのリスク遮断を行う必要がある(後述3、(3)参照。)が、この場合、1、(1)および(2)で指摘した子会社方式よりも持株会社方式による方が合理性の面から優れている。また、一般に持株会社については、戦略的マネジメントや企業グループの再編成の柔軟化・多角化の促進などの面でも有用性が大きい。

 このため、1995年12月の公正取引委員会の研究会報告書で提言されている3つの形態((1)相互参入の場合、(2)破綻(はたん)救済の場合、(3)純粋分社化の場合)に限定することなく、(4)(2)以外の意図での戦略的買収や対等合併の変形の場合も含めて、あらゆる形態の金融持株会社を解禁する。

(2)株式保有の制限の維持等
 金融持株会社を解禁した場合でも、独禁法における金融会社の株式保有制限の規定の趣旨は維持する。この場合、金融持株会社傘下の企業グループの保有株式を合算し、それが発行済み株式総数の一定比率を超えないこととするか、あるいは、一定比率を超える部分については、当該株式の議決権を制限する。

 また、一般に、現在のわが国における企業間の株式持ち合いについては、様々な問題が指摘されているところであり、このような株式持ち合いに伴う弊害を除去し、さらに、事業支配力の過度の集中による弊害を防ぐために、事前事後の届出などを通じた公正取引委員会による監視を厳正に行う。

3、証券取引法の改正と資産管理・運用サービス業の導入
 1980年代後半からわが国で検討が開始され、「漸進的、段階的に」実施されてきた金融制度改革は、上記までに指摘したような業務分野規制の撤廃と金融持株会社の解禁により加速しても、それのみでは完了しない。現行の証券取引法(及び関連する投資顧問業法など)を改正し、以下で述べるように(1)市場参加者のあり方を律する市場法である「資産取引法」と、(2)市場での取引を業とする者を律する業法である「資産管理・運用サービス(assets management services)業法」とに分割し、これにより、わが国経済の構造転換と情報技術の革新に対応可能で、「生活者・消費者重視」の要請にもこたえうる「健全で安定した金融システム」、「効率的で革新的な金融システム」が実現する「土俵」と「力士」が出そろうことになる。

必要な法律改正を経て、遅くとも1999年度末までに改革を完了する。
(1)証券取引法の抜本的改正〔C〕
 現在の証券取引法は、市場を対象とする部分と業を対象とする部分とが混在し、そのそれぞれが時代の要請から乖離しつつある。このため、証券取引法を抜本的に改正し、(1)市場取引の公正性と投資家の保護等を対象とする「資産取引法」と、(2)業法としての「資産管理・運用サービス業法」とに分割する。

 いずれも、現行証券取引法に限定列挙されている「有価証券」のみならず、債権・不動産の資産流動化商品、商品ファンド、商品先物など、資産運用としての性格を有する「金融類似商品」も包括的に対象とする。これらはいずれも資産運用やリスクヘッジの手段という点で共通の性格を有しており、歴史的経緯や縦割り行政を理由に垣根を設けることは意味をなさないばかりか、効率的な資産運用にとって弊害が大きい。

 「資産取引法」については、後述第3章で指摘する有価証券に係る委託手数料の完全自由化、取引所外での取引の一層の自由化、デリバティブや資産流動化などの新たな金融技法の導入促進などを含み、不公正取引規制と情報開示規制の強化など、その他関連する事項をその主な内容とする。

(2)資産管理・運用サービス業の導入〔C〕
 「資産管理・運用サービス業法」については、「金融類似商品」を含む金融商品の取扱(自己売買、委託売買、引き受け、売りさばきを含む)を行う業者に係る業法である。現行ではそれぞれの業法により、例えば証券業者、投信委託会社は免許制、小口債権販売業者、商品投資販売業者は許可制、投資顧問業者は登録制(ただし投資一任業務を営む場合は認可制)となっているが、これらの業務を行う業者をすべて包括的に「資産管理・運用サービス業者」と位置づけ、業務別の登録制により新規参入を促進する。現行の証券、信託、商品ファンド、商品先物など、「資産管理・運用サービス業」に含まれる各業務に関しては、それぞれの業務の登録要件を法令に明示し、行政の裁量の余地を排除する。

 ただし、金融業のうち、先に述べた「支払手段の受け入れ・運用」業務を行う者は、決済システムの安定性確保と預金者保護の観点から、また、保険引受業(保険販売業者は別。)については保険契約者保護の観点から、それぞれ免許制(要件を法令に明示)を維持し、その他の金融業は登録制(情報仲介などその一部については完全自由参入)とする。

 これらも含めて、あらゆる金融業務の形態について、免許・登録要件を満たす業者には、子会社、金融持株会社を通じた関連会社形態での相互参入をいずれも認める。特に、資産管理・運用サービス業内部では、一切の兼業規制を課さない。業者は、それぞれの企業判断に基づき、参入の形態と業務の種類を選択でき、複数の登録業務を同時に営むことができる。しかし、a、預金取扱業務、b、保険引受業務、c、資産管理・運用サービス業の間での本体での相互参入については、例えば、「支払手段の受け入れ・運用」と「保険引受」の業務の本体での兼業を認めるためには、一方における破綻が他方に波及するのを防ぐための厳格な経理区分と各経理ごとの破産手続きを可能とするための法制的手当てなどの環境整備などが不可欠であり、そうした整備の進行を待って、全面的に認める。それまでの間は、現状で認められている範囲および本報告書の提言の範囲内での本体での相互乗り入れにとどめる。金融業の各業務への相互参入のイメージを別紙に示す。

(3)弊害防止措置の必要性〔A〕
 相互参入に関しては、適切な弊害防止措置を設ける。弊害防止措置には、(1)各業態間での利益相反などから生じる不公正・不当な取引防止のための規制(2)業態間でのリスク遮断あるいは業態間の内部補助の禁止――がある。

 このうち(1)については、「銀行が、経営が悪化した取引先企業に影響力を行使して証券を発行させ、証券子会社を引受業者として投資家に販売し、それを財源として当該企業に対する自らの貸付金を返済させる。こうした行為は、投資家(証券購入者)の利益を犠牲にして、銀行(の株主)や預金者の利益を優先させるものであり、問題である。」といった利益相反の議論がなされることが多い。しかしながら、競争的市場においてディスクロージャーが十分になされる場合には、そうした行為が行われる可能性は極めて低い。

 したがって、こうした不公正・不当な取引の防止に関しては、本報告書で指摘する幅広い競争の実現と情報開示の徹底によって対応するのが基本である。そうした対応の実効化とあわせて、現行の親子会社間に設けられているファイアウオール規制のうち、利益相反に関するもの(例えば、親銀行がその影響力を及ぼすことができる企業が発行する証券をその証券子会社が引き受けることの制限(「証券会社の健全性の準則等に関する省令」第2条の2第9号、第10号)等)については、撤廃する。

 他方、(2)に関しては、一方の業務における損失が他方の業務の顧客の利益に悪影響を及ぼすのを避ける、逆にみれば、一方の業務の利益が他方の業務に内部補助され、当該他方の業務における不公正な競争を招くといったことのないよう、アームズレングス・ルール(関連会社間の取引についても、市場実勢に基づく条件で行われねばならないという規制。)の厳正な運用や厳格な経理区分等を行う必要がある。

 家計の金融資産残高が1000兆円を超え、国民の金融商品・サービスに対するニーズが多様化・高度化する中で、資産収益率の趨勢(すうせい)的な低下に歯止めをかけ、国民の保有する資産の運用を効率化することが求められている。特に、高齢化・ストック化の進行に伴い、「低利で安定した資金供給」以上に、「高利回りでリスクの少ない資産運用」を実現することが、国民経済的に重要である。このため、資本市場の機能向上と資産運用・金融商品設計規制の緩和・撤廃を進める。また、わが国金融・資本取引の効率化とグローバル化に対応し、自由な対外取引環境を整備するため、外国為替管理制度の抜本的な改正を行う。

1、資本市場の機能向上
 主な内容は以下のとおりであり、法律改正が不要なものは即時に、法律改正を要するものは遅くとも1997年度末又は1998年度末までに改革を実施する。

(1)取引コストの削減
 わが国資本市場の国際競争力を強化するためには、取引コストの削減が急務であり、以下の諸施策を早急に実施する。

ア、有価証券に係る売買委託手数料の完全自由化〔A〕
 証券取引法の規定により、証券取引所の会員業者は有価証券市場における売買取引の受託について、委託者から証券取引所の定める委託手数料を徴しなければならないとされており、証券取引所の「受託契約準則」において、約定代金に応じた手数料率が定められている。現在、約定代金10億円超の部分に係る株式売買委託手数料が自由化されているが、10億円以下の株式売買や上場されている債券、転換社債等については、全く自由化がなされていない。

 また、店頭市場における有価証券の売買手数料については、日本証券業協会規則において「証券取引所の定める委託手数料に準じた額以内」とされている。

 これらについては、一種の価格カルテルであり、競争制限的であることから、速やかに完全自由化する。この場合、特に小口取引に係る売買委託手数料の引き下げを促すため、前述第2章1、(4)にあるように、販売チャネルの多様化も進める。

 イ、有価証券取引税の廃止等証券税制の抜本的見直し〔A〕 資本市場における取引コスト削減及び国際的整合性の観点から、株式等にかかる有価証券取引税の廃止等、証券税制の抜本的見直しを進める。

(2)取引所外での取引の一層の自由化等
 情報技術の革新が進展する中で、規制が少なく新たな取引手法の導入も盛んな海外市場へ取引が流出することによるわが国金融・資本市場の空洞化を防止するためには、取引所外での取引も含めた制度改革により、わが国市場が全体として機能を向上していくことが重要である。このため、ディスクロージャーの徹底や不公正取引防止のための規制の明確化を図りつつ、以下の改革を進めることが急務となっている。

ア、取引所外での取引の一層の自由化〔B〕
 証券取引法では、証券取引所は証券会社でなければ設立することができず(証券取引法第81条)、証券取引所でないものが有価証券市場を開設してはならず(同法第2条第12項)、何人も有価証券市場に類似する施設を開設し類似施設により有価証券の売買取引等を行ってはならない(同法第87条の2)とされている。また、有価証券市場における有価証券の売買取引等は当該有価証券市場を開設する証券取引所の会員に限り行うことができ(同法第107条)、証券取引所の会員は証券会社、外国証券会社に限る(同法第90条)とされている。(商品取引法に基づく商品先物取引等についても類似の規定がある。)

(注4)「店頭市場」とは、個々の証券会社の店頭において個別に顧客との間で行われる取引を意味する。

 上記の規制は、公正な売買価格の形成、取引の円滑化などを狙いとして、取引所に有価証券市場の機能について独占的な供給権を与えるものであるが、最近では情報技術の目覚ましい成果を活用し、機関投資家等のニーズに対応するための多様な形態の取引を行う妨げとなってきている。その結果として、投資家の利益よりも、既存の証券取引所や会員証券会社の既得権を保護するものになるという側面が強まっている。

 このため、上場株式についての取引所集中の原則(東京証券取引所の場合、定款第23条)の撤廃も含め、上記の規制(商品取引法に基づく商品先物取引等についての類似の規定も含む。)を撤廃または緩和し、取引所外での取引を一層自由化する。

イ、店頭登録市場の改革〔A〕
 店頭登録市場においては、日本証券業協会規則に基づき、株式の新規公開時における公開価格につき、配分の公平性、価格決定の公正性を確保するためとして、公開株の一部を入札に付し、その落札加重平均価格を参考にして、引受証券会社が残株の価格を決定する方式(一部入札方式)しか現在は認められていない。このため、公開価格が割高となり、公開後株価が急落する場合が多く、公開後の株式の流通性が低下する原因となっているといわれている。また、過当投機の可能性を排除するためとして、証券会社が借株によって調達した店頭登録株式を売ることが禁止されているが、このため、証券会社によるマーケットメーク(証券会社が売値、買値を表示し、その価格で顧客等との売買に応じることにより、継続的な流通市場を形成すること。)が困難であるといわれている。

 店頭登録市場については、取引所の補完的なものとして位置づけるのではなく、競争的な市場として育成することが重要である。このため、公開価格決定方式については、国際的に認知されたブックビルディング方式(証券会社が投資家の需要動向を積み上げていき、その需要予測に基づいて公開価格を設定する方式。)を導入するとともに、借株制度を解禁する等店頭登録市場の一層の改革を行う。

ウ、未登録・未上場株式への投資に係る規制緩和〔A〕
 現在、未登録・未上場株式に関しては、日本証券業協会規則などにより、証券会社による投資勧誘が禁止されており、年金信託、証券投資信託の運用対象としても制限されている状況にある。

 わが国資本市場がその本来の機能を発揮するためには、べンチャー企業等のエクィティファイナンスに的確に対応できるよう制度改革を進めることが重要である。このため、新規事業育成の阻害要因ともなっている上記の規制を撤廃し、あわせて未登録・未上場株式に関する情報流通を促進する。

(3)新たな金融技法の導入促進
 近年、金融・資本市場の国際的な規模での自由化の流れに加え、金融技術が急速に進歩する中で、デリバティブや資産流動化手法の多様化など、新たな金融技法の導入が進んでいる。しかしながら、わが国は欧米諸国に比してこの分野で相対的に立ち遅れており、これらの金融技術革新への一層の対応が急務である。一方で、これらに伴って、新たなリスクも生じており、適切なリスク管理と投資家保護の枠組みが必要であるものの、行政の過剰・硬直的な規制によって、民間の創意工夫を妨げることがあってはならない。

ア、デリバティブ市場の育成とリスク管理体制の整備の促進〔B〕
 デリバティブ取引は、近年急速に拡大している。デリバティブ取引は、(1)市場価格の変動度が拡大している中で、市場参加者に低いコストでリスク・ヘッジ手段を提供するなど、市場の効率性を向上させる一方、(2)様々な手法を組み合わせることを通じて多様な商品の開発が可能であり、その結果として、ハイ・リスク、ハイ・リターンのポジジョンをとることも容易になることから、しばしば投機目的に使われ、一度失敗すれば大きな損失につながる可能性をはらんでいる。

 わが国金融システムが国際競争力を維持・強化するためには、(2)のようなリスクを極力抑制しつつ、(1)のようなメリットを享受できるような対応を積極的に進め、健全なデリバティブ市場を拡大させていくことが不可欠である。

 このためには本報告書で指摘するような施策の推進が重要であり、国際的整合性を確保しつつ、規制の緩和・撤廃、時価評価に基づく会計処理の導入などを進めるとともに、情報開示の徹底やリスクの定量的把握のための手法の開発などリスク管理体制の整備を促進する。

特に、デリバティブに関する規制としては、
(1)現状では、金融機関が取り扱いうるデリバティブ取引の範囲は、取引所に上場された商品については、基本的にその業態が取扱可能な原資産の範囲を考慮して定められていること

(2)エクイティスワップ取引については、証券取引法の規定により、有価証券市場によらないで有価証券市場における相場により差金の授受を目的とする行為は禁止されているなど、取引所外取引には制約があるために、禁止されていること(3)株式店頭オプション取引についても、わが国では禁止されていることなどがあり、関連する原資産取引に関する規制と同様、これら規制の緩和・撤廃を行う。

イ、資産流動化手法の多様化〔B〕
 米国では資産の流動化が資金調達手段として重要な役割を担っているのに対し、わが国では資産の流動化は、投資家の範囲の制限を含め、様々な規制が加えられているほか、流通市場も未整備なため、資金の調達手段としては、限界的な位置づけにとどまっている。

 しかし、資本市場の役割が高まるにつれて、わが国においても資産流動化は、金融機関にとっては、新たなリスク管理手法と効率的な金融仲介の仕組みとして、一般事業法人にとっては、多様で効率的な資金調達手段として、投資家にとっては魅力ある投資対象として、今後、大いに発展する可能性がある。

 このため、(1)第三者対抗要件具備方法、(2)倒産リスクの分断等に関する法制度の見直しも含め、資産担保証券(ABS)等資産流動化手法の多様化の環境整備を進める。

(4)社債発行・流通市場の改革〔A〕
 わが国の社債発行市場は、1996年1月の適債基準および財務制限条項の設定義務付けの撤廃により自由化が進められたが、発行登録制度の利用に際しては、依然、種々の制約がある。

 例えば、発行登録制度の利用要件を満たしている者がそれを利用する場合、事前に発行登録追補書類を提出しなければ、社債を募集または売り出しにより取得させることができないが、社債発行の機動性を高める観点から、これを事後の提出に改める。

 一方、社債流通市場に関しては、現在、国債を除く債券取引の約9割か、「社債等登録制度」に基づき、流通が行われている。

 現行の制度では、取引当事者は取引の度に、銘柄ごとに異なる登録機関(全国に150カ所程度存在)に出向いて名義移転手続きを行う必要があり、コスト、時間的に極めて非効率である。また、10日決済が慣行となっていることに加えて、手続き完了までに、通常2週間〜1カ月の時間を要するため、取引当事者は取引相手の債務不履行リスクにさらされるほか、システム全体としても未決済残高が累積するなど、大きな決済リスクを抱えることになる。

 わが国の社債流通市場を国際的に魅力あるものとするためには、売買に伴う債券の受け渡し、資金の決済が安全正確かつ効率的に行われることは必要であり、そのためのインフラである社債受け渡し・決済制度の改善が急務である。このため、現在準備が進められている、取引当事者等と登録機関をオンライン・ネットワークで結ぶ中継機関を設立し、資金と証券の同時決済(DVP)を可能とするシステムの早期構築をはじめとして、一層の改善の取り組みが必要である。

(5)ストックオプション制度の一般的導入〔B〕
 資本市場に関連して、ストックオプションについては、1995年11月の新規事業法の改正により、同法の認定事業者であって未公開の株式会社について、新株の有利発行の方式による制度が導入された。

 ストックオプション制度については、企業の人材確保や役員・従業員へのインセンティブ付与にとって重要な手段であり、現状のように特定の事業者に限るのではなく、事業者一般にとっても利用できるものとして導入する。

2、資産運用及び金融商品設計規制の緩和・撤廃
 主な内容は以下のとおりであり、法律改正が不要なものは即時に、法律改正を要するものは遅くとも1997年度末までに改革を実施する。

(1)保険会社の資産運用及び保険商品に係る商品設計規制の緩和・撤廃 保険会社については、1996年4月施行の新保険業法により、若干の規制緩和がなされたものの、以下のようにいまだ多くの課題が残されており、早急に対応を進める。

ア、保険会社の資産運用に係る規制の撤廃〔A〕
 保険会社が保険料として収受した金銭その他の資産は、保険金支払いの原資であり、安全かつ有利に運用する必要があることを理由に、保険業法及び同施行規則では、保険会社の資産の運用については、(1)運用方法の制限、(2)運用額の制限が課せられている。例えば、国内株式には30%以下、不動産には20%以下、外貨建資産には30%以下などと制限されている。

 本来、資産の運用は、保険会社が投資対象である各金融資産の安全性、収益性、流動性のバランスを考えて、最も適したポートフォリオを構築するよう投資すべきものである。法令で一律に運用方法等を制限することは、投資配分をゆがめ、結果的にトータルでみた資産運用のリスクを増加させる可能性がある。このため、保険会社の自己責任を重視し、保険会社の資産運用に係る規制を撤廃する。

イ、保険商品に係る商品設計規制の緩和〔A〕
 1992年6月の保険審議会答申において、「保険商品に係る規制としては、認可制の枠組みについてはこれを維持しつつも、契約者保護等の面で問題が少ないと判断される商品分野については、届出制へ移行していくことが適当である」旨の指摘がなされており、1996年4月施行の新保険業法において、従来の保険商品・料率の一律認可制から、一部に届出制が導入された。現状では、届出制の対象となるのは、(1)大企業を対象とする大口の企業物件に係る保険、(2)国際的な取引に係る保険、(3)専門的知識を有する者を保険契約者とする保険等に限定されている。

 保険契約者の多様なニーズに的確に対応できるようにするためには、保険会社各社が自由な商品開発を行い、多様な保険サービスを提供できるような条件整備を進める必要がある。そのため、保険商品に係る認可制はすべて廃止し、届出制とする。

ウ、損害保険料率算出団体制度の見直し〔A〕
 現状では、損害保険料率算出団体に関する法律に基づき、損害保険料率算定会(火災、地震、傷害保険)および自動車保険料率算定会(自動車及び自賠責保険)が設立され、会員保険会社は算定会算出の保険料率を原則として使用する義務がある。会員になるか否かは保険会社の任意であるが、会員保険会社は算定会算出保険料率を使用する義務がある。(ただし、火災、傷害、自動車保険については上下10%以内の範囲料率、火災保険料率のうち保険金額300億円以上のものについては保険料率のうち純保険料率部分のみに使用義務を課し、付加保険料率部分はアドバイザリーレートとなっている。

 )また、算定会およびその行為については、独禁法の適用除外に関する法律の規定により、独禁法適用除外となっている。

 これらについても、保険会社の自由競争促進等の観点から見直しを行い、すべての保険料率についてアドバイザリーレートとし、あわせて独禁法の適用対象とすることにより価格カルテルを禁止する。

(2)企業年金に係る規制の撤廃等
 企業年金は、資産残高が1995年3月末で55兆円を超える巨大な投資家であり、高齢化・ストック化が進行する中で、資産運用を効率化するためには、厚生年金基金制度及び適格退職年金制度において以下の規制の緩和・撤廃を行うことが不可欠である。

ア、「5・3・3・2規制」等資産運用規制の撤廃〔A〕
 現在、企業年金の運用に関し、信託銀行と契約した年金信託については、厚生年金基金においては基金資産全体に対して(一部適用除外あり)、適格退職年金においては信託銀行ごとに、いわゆる「5・3・3・2規制(元本割れのない安全性の高い資産に50%以上、株式に30%以下、外貨建資産に30%以下、不動産に20%以下)」が課せられている。また、厚生年金基金については、投資顧問会社(投資一任契約)への運用委託や自家運用がそれぞれ一定の制約の下で可能であるのに対し、適格退職年金についてはいずれも認められていない。これらのうち、「5・3・3・2規制」における元本割れのない安全性の高い資産として列挙されている資産の範囲が必ずしも実情に合っていないことのほか、これらの規制自体が、投資家たる企業年金にとって、自己責任原則にのっとり、最適なポートフォリオを行うことを困難たらしめている。

 このため、現行規制を英米並みの「プルーデントマン・ルール(同じ能力を持ち、そのような問題に精通している慎重な人間が、同じ特質と同じ目的をもつ資産の管理において、直面するであろう注意、技術、慎重さ及び勤勉さをもって、義務を果たすことを受託者に課すというルール)」に変更すること等により「5・3・3・2規制」や適格退職年金に係る投資一任契約、自家運用の制限等、資産運用規制をすべて撤廃する。また、厚生年金基金における投資顧問会社(投資一任契約)への運用委託に係る制約(厚生大臣の認定を受けた基金について積立金総額の2分の1相当額まで)および自家運用に係る制約(積立金総額500億円以上で厚生大臣の認定を受けた基金についてのみ可能)についても撤廃する。

 こうした規制の撤廃は、平均的には運用改善につながるものと期待できる。しかし、運用の失敗の可能性がなくなるわけではなく、従業員の年金受給権保護の仕組みが同時に強化される必要がある。すなわち、企業年金受託者の責任をより明確化し、かつ個々の従業員がそれを追求することを容易にする、また情報開示を強化するなどの措置が導入されねばならない。

イ、年金給付設計の弾力化等〔A〕
 現在、企業年金は確定給付型であり、5.5%の予定利率に基づき算定された予定給付額を下回る給付設計を行うことができない。このため、低金利下では企業負担が増大するほか、受給者と現役世代とのバランスを失することにもつながりかねない。また、労働力の流動性が高まる中で、確定給付型では年金のボータビリティーを確保することが困難であるとの指摘もある。

 このため、厚生年金基金、適格退職年金とも、5.5%の予定利率などの基礎率の弾力化、確定拠出型年金の導入等、企業年金の給付設計を弾力化する。また、年金資産の運用実態を的確に把握するため、資産評価に時価基準を取り入れる。

(3)証券投資信託の資産運用に係る規制の緩和・撤廃など
 第2章3、で述べたように、証券投資信託、商品ファンド等の業務を行う者を含め、1999年度末までに包括的に「資産管理・運用サービス業」と位置づける必要があるが、当面早急に、免許制を登録制に改めるとともに、以下の規制緩和を進める。

ア、集中投資の制限の撤廃〔A〕
 証券投資信託法では、委託会社が同一法人の発行する種類を同じくする有価証券を一定の割合を超えて取得することとなる指図をしてはならないと規定している。

 具体的には、株式について発行済み株式総数の10%を超えてはならないとしている。

 この規制については、個人投資家等による分散投資の観点からみても意味をなさないものであり、仮に競争政策上の観点から投信委託会社による会社支配を排除することを目的とするなら、独禁法に規定すべきものである。したがって、証券投資信託法におけるこの規定は速やかに撤廃する。

イ.私募有価証券などに対する運用規制の撤廃〔A〕
 証券投資信託の運用対象としては、前述1、(2)のウ、にあるように、未登録・未上場株式が禁止されているほか、証券投資信託法等に基づき、私募有価証券などの組入比率を信託財産の純資産総額の10%以内に制限されている。

 この規制についても、個人資金の資本市場への効率的な流入を促進する観点から撤廃する。

ウ、証券投資信託約款の個別承認制度から届出制への移行〔A〕
 証券投資信託法では、投信委託会社が信託契約を締結するには、あらかじめ大蔵大臣の承認を受けた証券投資信託約款に基づかなければならないと規定している。

(ただし、1993年10月に承認基準の明確化、承認手続きの簡素化が行われた結果、既に承認を受けた投資信託と同一の内容については個別審査なしに承認が行われることとなっている。) 個別商品ごとの約款を承認制とすべき理由はなく、逆に、承認制の下では市場の動きに柔軟に対応した商品設計を行うことは困難であることから、個別承認制を改め、届出制に移行する。

エ、会社型証券投資信託の導入に向けての環境整備〔C〕
 現在、わが国における証券投資信託のすべてが契約型(委託者(証券投資信託委託会社)が受託者(信託銀行又は信託業務を営む銀行)と信託契約を締結し、信託財産は委託者の指図どおりに運用され、その受益証券を投資家に販売する)であり、会社型(証券投資を目的とする株式会社がその株式を投資家に販売し、投資による利益を株主たる投資家に配当する)のものは存在しない。一方、米、英、仏においては、契約型に加えて会社型の証券投資信託も行われている。

 わが国においても諸外国と同様に会社型証券投資信託を導入することは、資産運用手段の多様化と資本市場への新規資金の導入促進の観点等から重要であり、会社法の改正等も含め、その導入のための環境整備を行う。

(4)商品ファンドの運用等に係る規制の緩和・撤廃
 商品ファンドとは、投資家から集めた資金を主として商品投資に運用し、その運用から生ずる利益の分配及び当該出資価額(損失によって減少した場合にはその残額)を返還するものであり、証券投資信託の商品版という性格を有する「金融類似商品」である。現在、投資家の保護等を理由に、「商品投資に係る事業の規制に関する法律」に基づき、業者に対する許可制をはじめとした様々な規制が設けられている。

 商品ファンドについても、上記(3)と同様、1999年度末までに「資産管理・運用サ一ビス業」と位置づける必要があるが、当面早急に許可制を登録制とするとともに、(1)国民の金融資産の効率的な運用のために投資商品の選択肢を拡大する必要があること、(2)証券投資信託等の類似商品と比較して差別的な規制を行う理由がないこと等の観点から、以下の規制を撤廃する。

 商品ファンドにおける商品以外への投資対象については、(1)主として商品投資により運用されるファンドであるという趣旨から、商品の現物・先物・オプションへの投資がファンド財産の50%以上でなくてはならないとの規定に加えて、(2)商品以外の投資対象の組み入れに関しては、対象商品及びその組み入れ率に詳細な制限が課せられている。特に、貸付債権や国内の有価証券市場及び金融先物市場における取引などを対象とすることが禁止されている。

 商品ファンドについて、このような規制を事細かに設けることは、結果的にトータルでみた資産運用リスクを増加させる可能性がある。このため、当面、商品ファンドの資産運用構成に関する規制を緩和し、業者の自主的判断の余地を拡大する。

 なお、将来的(1999年度末まで)には、商品投資や有価証券などの金融商品への投資以外に、不動産投資も対象とするなど、「資産管理・運用サービス業」の導入にあわせて、あらゆる投資対象の組み入れを自由に認める投資ファンドを導入する。

イ、最低販売単位規制の撤廃〔A〕
 従来、1億円(実績ある者は5000万円)となっていた商品ファンドの最低販売単位は、1996年4月に5000万円(実績ある者は2000万円)にまで引き下げられたところであるが、証券投資信託などの類似商品においては、同様の規制がなされていないことなどを考慮し、このような最低販売単位の規制そのものを撤廃する。

3、外国為替管理制度の抜本的な改正〔A〕
1996年6月の外国為替等審議会報告では、
(1)原則として、平時の資本取引・対外決済の許可・届出制度の廃止と事後報告制度への移行

(2)有事における為替管理(有事規制)を効果的に実施するメカニズムの確立
(3)外国為替業務の担い手の拡大
(外為公認銀行以外にも営業として行う外為業務への参入を認める)
(4)オフショア市場の一層の環境整備
などを主な柱とした外国為替管理制度の抜本的見直しの必要性が提言されている。
 許可・届出制の廃止と事後報告制度への移行、外為業務の担い手の拡大の方針については評価できるものであり、今後の外為法改正に期待するが、以下の点で行政の過剰介入を招くことのないよう、留意する必要がある。

 すなわち、(1)に関しては、同報告書では、「平時の許可・届出制度を原則として廃止した場合においても、行政当局としては、(中略)資本取引等について事後報告を求める必要がある。(中略)その施行に必要な限度において報告は法律上の義務とし、違反には罰則を適用しうるようにすることが適当である。」としている。報告制度は、国際収支統計の作成や有事の際の規制発動の判断材料としてその必要性は認めるものの、これまでも報告作成負担の過大さが指摘されているところであり、必要かつ最小限のものにとどめるべきである。

 また、(3)に関しては、「一定の外国為替業務の分野については、(中略)新たな担い手の創出を図るべきと考えられる。(中略)かかる新たな担い手(中略)に関して、監督等を要する営業の範囲、これに対する参入の要件及び監督の内容などにつき、業務の実態に即した具体的な検討を引き続き進める必要がある。」としている。ここで、「一定の外国為替業務の分野」および「参入の要件及び監督の内容」については必ずしも明らかでないが、これまでも外為公認銀行に対する持高規制や外為公認銀行以外の金融機関に対する業務の制限など種々の制約が課せられてきたところであり、今後、原則自由、例外規制の考え方の下、法令に規制事項を限定列挙し、行政の裁量の余地をなくすことが必要である。

 特に、外為公認銀行に対し直先総合外国為替持高に限度額を設定している持高規制については、為替安定化に対する効果が疑問であり、これを速やかに廃止する。また、居住者ユーロ円債についての国内の投資家による発行後40日間の購入の制限(国内還流制限)については、平成10年4月に撤廃されることになっているが、この時期を前倒しにし、即時撤廃を行う。

 第3章までに提言した諸施策の完全な実施に加えて、わが国の金融システムが国際的な「制度間競争」に生き残るために、規制・監督体制の見直しを行う。わが国の金融当局は、従来の護送船団行政を改め、「健全で安定した金融システム」、「効率的で革新的な金融システム」と両立的な規制・監督体制を確立することが不可欠である。

 まず、破綻処理の積み残し分の解消を急がねばならず、問題解決までの過渡的な措置として、もう一段の法的、組織的手当てなどを行う。

 ちなみに、大蔵省によれば、わが国の預金取扱金融機関が抱える不良債権の総額(破綻先債権、延滞債権および金利減免等債権の合計額)は、1996年3月末現在で、約35兆円(金融機関からの報告ベース)とされ、このうち、今後の要処理見込額は約8兆円と推計されている。このように、不良債権問題はいまだ解決途上にある。

1、破綻処理の制度的基盤整備
 金融当局による、金融機関の経営基盤の安定を重視する金融機関過保護行政が金融機関の経営における自己責任意識の不徹底の一因となっており、経営に失敗した金融機関の破綻処理を先送りしようとする当局の姿勢や制度面の不備と相まって、不良債権問題が深刻化した。

 本報告書は、銀行などの預金取扱金融機関や保険会社などにおいて、現在、破綻が差し迫った状況にあると主張するものでは決してなく、いたずらに信用不安を助長する意図もない。しかしながら、万が一への備えとして、以下の対応を提言する。

(1)預金取扱金融機関の破綻処理の制度的基盤整備
 1996年6月に「金融機関等の経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律(健全性確保法)」、「金融機関の更生手続の特例等に関する法律(更生特例法)」、「預金保険法の一部を改正する法律(改正預金保険法)」などが成立し、これらによって、預金取扱金融機関において不良債権問題の再発・深刻化を防ぐための制度、および破綻処理を円滑に行うための制度の整備について、一定の前進がなされた。

 しかしながら、制度的にはこれですべて整ったとは言いがたく、以下の課題が残されている。

ア、信用組合以外の預金取扱金融機関の破綻処理への対応〔A〕
 現在の制度は、「信用秩序全体や地域経済に与える影響を考慮して、信用組合以外の預金取扱金融機関の破綻について、その事業を直ちに整理してしまうことは適当でなく、既存の金融機関に事業を引き継ぐ処理をまず想定しておく」ことを前提としており、信用組合の破綻処理の仕組みに比べて、それ以外への対応は制度的・資金的に不十分な状況にある。万が一大規模な破綻が生じて預金保険制度を中心とする現行スキームで対応できず、あるいは、資金量に不足を来すことにより、結果として破綻処理が先送りされ、コストが膨らむことのないよう、もう一段の制度的・資金的手当てが必要である。

 このため、既存の金融機関の中に受け皿となる金融機関が現れない場合のための「受け皿機関」の整備や預金保険機構の財政基盤の一層の充実を行う。

 ただし、不良債権の処理がほぼ終了し、かつ、後述2、で述べるように、わが国金融行政がルール型行政に転換し、「支払能力・リスク管理能力の監視」と「早期是正措置」が的確になされるようになれば、預金保険制度の役割はかなり低下するものと見込まれる。このため、改正預金保険法における今後5年間程度を想定した時限的措置と中長期的観点からの措置と同様に、過渡的対策と構造的対策を明確に区別し、前者については当初想定した期間終了後は廃止する。

 イ、破綻処理の透明化〔B、ただし破綻処理の経緯と処理コストの内訳の情報公開についてはA〕

 米国では、連邦預金保険公社(FDIC)による破綻処理方法は、(1)破綻金融機関の閉鎖・清算を前提とした処理、(2)金融機関の存続を前提とした処理に分けられ、(1)については、a、ぺイ・オフ(保険金の支払い)、b、健全な金融機関に対する付保対象預金の移転、c、健全な金融機関に対する資産・負債の承継(P&A)、d、ブリッジ・バンク(FDICの管理下にブリッジ・バンクを設立し、つなぎ的にそれに資産・負債を承継させる)があり、(2)については、e、自立再建に対する資金援助、f、合併、子会社化に対する資金援助――が存在する。このうち、b、およびc、の方式は、それぞれ移転先、承継先の金融機関は入札によって選ばれている。

 わが国で過去に実施された破綻処理では、事実上これらに近い方式とみられるものも存在するが、最大の違いは、救済機関あるいは移転先・承継先機関が入札によって選ばれているかどうかという点である。このため、わが国においても、救済機関を入札によって選定する方法を導入し、破綻処理の透明化を行う。このことを通じて、破綻処理に要するコストがより明らかとなり、ぺイオフによるコストとの比較を通じて、より少ないコストで破綻処理を行う方式の選択も可能となる。

 なお、破綻処理の経緯と処理コストの内訳については、事後的には情報公開し、最もコストの少ない方式での処理が行われたかどうかを第三者がチェックできるようにする。こうした情報は、破綻処理が進行している過程で開示すると混乱を引き起こしかねないとしても、処理終了後にも公開できない理由はない。しかし、これまでの破綻処理では、こうした点に関する情報開示が極めて不十分である。

ウ、可変保険料率の導入〔B〕
 改正預金保険法および同施行令では、預金保険制度の下で金融機関の支払う保険料率が従前の7倍(一般保険料率4倍、特別保険料率3倍)に引き上げられたものの、保険料率は金融機関の経営状況にかかわらず、均一である。

 しかし、各金融機関の経営状態にかなりの差があることを考えると、このような均一保険料率を維持することは、健全な金融機関とその預金者の負担において、不健全な金融機関およびその預金者を保護するものであり、金融機関、預金者双方にモラルハザードを生じさせる原因となる。

 このようなモラルハザードを回避するため、各金融機関を支払い能力・リスク管理能力に応じて何段階かに分類(格付け)したうえで、それに対応して預金保険料率を決定するという「可変保険料率」を導入し、あわせて預金保険制度の財政基盤の充実を行う。

(2)保険会社の破綻処理の制度的基盤整備〔B〕
 保険会社の破綻処理に関しては、1996年4月施行の新保険業法により、保険契約者保護基金制度の創設などの一定の整備がなされている。

 しかし、同基金制度は、破綻保険会社の保険契約者に対する保険契約上の義務の支払いを継続して保証する機能を持たず、救済会社に対する資金援助機能のみを有すること、基金への参加が任意であることといった面で、資金援助のみならず預金のぺイオフを行う機能を有し、強制加入制である預金保険制度と大きく異なっている。このため、新保険業法での破綻処理制度は、破綻会社の保険契約の包括移転や破綻会社との合併を引き受ける救済会社が任意に現れることを前提とし、救済会社が現れない場合の保険契約者保護に欠ける面があると言わざるをえない。このため、万が一、保険会社が破綻した場合の破綻処理が先送りされ、結果としてコストが膨らむ可能性も否定できない。また、その他の面でも、現行の会社更生法は相互会社には適用されないほか、現在の倒産手続法(破産法、会社更生法等)や新保険業法では、保険会社の破綻処理を進めるに当たって、保険契約者に先取特権が認められていないなど、保険契約者保護の観点から問題を抱えている。

 このため、保険会社の破綻処理について、上記の問題点を解消し、破綻処理の透明化や可変保険料率の導入も含め、上記(1)で指摘した預金取扱金融機関の破綻処理手続と同程度の構造的対策を整備するための保険業法の再改正を行う。

2、ルール型行政への転換
 新しい金融システムに向けての改革に当たって、金融当局の規制・監督のあり方も、従来の金融機関過保護の裁量型行政から、市場機能重視のルール型行政へと転換する。

 この場合、あわせてインサイダー取引規制等不公正取引規制は厳格に実施する。特に、第2章、第3章で指摘したように、金融機関の活動の自由度を拡大し、競争を一層促進するとともに、取引の方法や「場」も拡大する中で、不公正取引規制の運用を一層強化する必要がある。

 最近では、金融当局においても、ルール型行政への転換に向けて、「健全性確保法」などに基づき、

(1)金融機関のリスク管理体制・内部管理体制の充実と当局による監視・検査の拡充

(2)自己資本の充実度等客観的な指標の監視・検査とそれに基づく早期是正措置の導入

(3)不良債権やデリバティブも含めた情報開示の充実
(4)一部の取引への時価会計の導入
 などの検査・監督などの改善策を実施、または実施の準備を進めているところであるが、特に以下の点が重要である。

(1)支払い能力・リスク管理能力の監視と早期是正措置〔A〕
 上記のうち、(1)と(2)、すなわち「支払い能力・リスク管理能力の監視」と「早期是正措置」については、金融当局によって部分的にその方向性、内容が示されているが、その全容はいまだ明らかではない。このため、早急に以下の方向で対応を進める必要がある。

すなわち、すべての金融機関に対し、
a、支払い能力・リスク管理能力に応じ、各金融機関の格付けを行い、
 b、格付けに応じて、早期是正措置、業務の制限、預金保険料率、検査等に差を設ける。具体的には、格付けの高い金融機関に対しては、是正措置なし、業務範囲に制限なし、低保険料率、簡易な検査、長い検査間隔とし、逆に格付けの低い金融機関に対しては、経営改善計画提出の指導や業務改善命令の発出、業務の全部又は一部の停止、高保険料率、総合検査・重点検査、密な検査間隔などとする。

 c、これらによっても経営の改善がなされない金融機関については、問題を先送りせず、破綻処理の対象とする。

 この場合、自己資本比率(保険会社の場合はいわゆるソルベンシー・マージン。以下同じ。)など、客観的な指標や格付けの基準などについては、法令に明示し、行政の透明性を高めるとともに当局による裁量の余地をなくす。あわせて、各金融機関の自己資本比率の水準や格付け結果などについては、その意味について正確な理解が得られるよう配意しつつ、これを公表する。

(2)情報開示〔A〕
 また、(3)に関しては、不良債権の情報開示とデリバティブ取引の情報開示の重要性につき、近年注目されている。

 情報開示の重要性については言を待たず、不良債権問題を解決し、「健全で安定した金融システム」を構築するためには、各金融機関の抱える不良債権の総額を正確に把握し、預金者・投資家に開示する必要がある。このため、すべての業態の預金取扱金融機関と保険会社において、最低限のものとして、破綻先債権、延滞債権、金利減免等債権の総額を開示する。

 また、デリバティブ取引については、金融当局は、(1)想定元本額、(2)信用リスク、(3)マーケットリスク、(4)公正価値(時価)といった定量的情報に加えて、(5)定量的な情報に関する補足説明、(6)実際に取り扱っているデリバティブ関連商品の説明、(7)デリバティブ取引に対する取り組み姿勢などの説明といった定性的情報を最低限のものとして開示すべきとしており、これに沿った情報開示がなされることが望まれる。

 金融機関の情報開示については、たとえ自らにとって不利と思われるものであってもこれを開示し、そのことが市場で評価されるようになること、逆に言えば、十分な情報開示を行わない金融機関が市場で淘汰(とうた)されることが望ましく、その意味からすると、情報開示の範囲についても本来は政府規制によるのではなく、市場が決定すべきものである。しかしながら、これまでのわが国の市場慣行などに鑑み、当面は規制を強化する必要がある。

(3)時価会計の導入〔B〕
 わが国の会計基準は、取得原価主義・実現主義を基礎としているが、1996年6月成立の健全性確保法により、銀行、証券会社などにおいて、トレーディング取引(価格の短期的な変動、市場間の格差などを利用して利益を得るなどの目的で行う取引)につき、時価評価の制度が導入されている(ただし、保険会社については、上場株式などを除いて時価評価制度の導入が見送られたままである。)。BISのマーケットリスク規制においても、金融機関のトレーディング勘定について時価評価を前提としている。また、企業会計審議会においては、金融商品に関する時価評価の導入などにつき審議が開始されている。さらに、国際会計基準委員会(IASC)においても時価会計の導入につき検討が行われている。

 時価会計については、金融機関が適切なリスク管理を行うとともに、預金者・契約者・投資家が金融機関の健全性を判断する際の重要な情報を与えるものであり、特に、近年そのウエートが高まっているデリバティブ取引について、その重要性が高まっている。このため、国際基準の動向を踏まえ、これと整合した時価会計をわが国においても導入する。

3、金融業における競争政策の強化〔A〕
 金融分野は、これまで、各業法によってかなり詳細な規制が行われてきた結果、金融機関の競争は制限され、他の業界に比べても強い横並び体質が形成されてきた。しかし、本報告書の提言が実施されれば、金融機関の活動は大幅に自由化されることとなる。

 このため、改革実施後において、公正な競争の確保を図る観点から、独禁法を一層厳格に適用していく必要がある。例えば、銀行などにおける諸手数料、証券投資信託に係る信託報酬その他の手数料、保険会社の保険料率・運用予定利率などには、これまでも各社にほとんど差がないとの批判もなされているが、競争政策の強化を通じて、今後は価格・料金競争がより活発になることが期待される。

 競争政策上は、金融業を特別扱いする必要は全くなく、金融部門についても、競争政策については引き続き公正取引委員会が担う。また、独禁法の適用除外等に関する法律に基づく損害保険料率算出団体に対する独禁法の適用除外については廃止し、同法に基づく証券取引所等の独禁法適用除外及び業法に基づく独禁法の適用除外については、本報告書の指摘に沿って見直しを行う。さらに、金融当局は、各金融機関に競争制限的な効果をもたらすような行政指導を行ってはならず、仮にそのようなことがあれば、競争政策当局は厳正に対処すべきである。


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