ディスクロージャー研究学会



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文書No.
961028

株式所有とコーポレイト・ガバナンス

    ─企業集団所属都市銀行における相互持ち合いの意義─

    白坂 亨(大東文化大学) 日本経営財務研究学会第20回全国大会(配布資料) 1996年10月26日(土) 上智大学9号館349教室   

目次
T 支配論からガバナンスの議論への移行
U 状態依存的ガバナンスの検討
V 相互持ち合いとガバナンスの議論の行方

T 支配論からガバナンスの議論への移行

 管見の限り、ここ1・2年前まで経営財務、もしくは証券経済の研究の場においては、株式会社支配論に関する議論がまだ活発になされていた。しかし、この1年をみると支配論の議論はほとんど影をひそめ、かわって俄然注目をあつめた議論がコーポレイト・ガバナンスである。

なぜコーポレイト・ガバナンスが急に注目されたのであろうか。
 第一には、これまでにも、例えば、谷村裕氏によって主張されたこともあるものの1、バブル破綻による株価崩落の結果、株式の持ち合いを堅持していくために、配当に対する評価を厳しくせざるえないこと、もしくは、持ち合いされている株式が、放出される場合の受け皿として第一に考えられる年金信託、投資信託等の、これまでは機関投資家とは必ずしも呼べなかった法人投資家たちが、投資にあたって配当を重視せざるえなくなった(表1)こと、

 第二に、やはりバブル経済破綻の後、外人投資家のシェアが高まる中(表2)、その中心となっている機関投資家によって、コーポレイト・ガバナンスが叫ばれたこと、

第三に、この議論がアメリカにおいて近年、特に活発になされたということ
等が考えられる。
 このような背景の中で、コーポレイト・ガバナンスの議論は日本においても活発になされ、研究も急速に蓄積されている。しかし、複数の理由によって注目を集めた議論であるがために、論者によって、ガバナンスなるものの位置づけが定まっておらず、経営史や金融論、産業社会学といった領域においてもさまざまなガバナンスが主張されているようにも思われる。

 そこでまず、本報告においては、議論が活発にされるようになった背景から鑑みて、少々長くなる規定ではあるものの、ガバナンスを、以下の如く規定する。つまり、コーポレイト・ガバナンスとは、アメリカの企業社会においては、会社支配権市場の存在によって、テイクオーバーの機能が無能な経営者を排除するといった前提が存在したものの、M&Aブームの中であみだされた乗っ取り防衛策2、さらに1987年のインディアナ州の反乗っ取り法に関する裁判結果を皮切りにノース・カロライナ州、ミネソタ州、ジョージア州等で制定された反乗っ取り法、またカルパース(CalPERS ─カリフォルニア州公務員退職年金基金)等のように、積極的に経営活動に介入する公的年金基金を除く年金基金は近年、機関投資家の中で大きなシェアを占めてきたのであるが(図1)、受動的な行動をとっていたこと等から、株式市場を通じた会社支配権市場自体の有効性が損なわれるようになったこと、もしくは積極的な行動をとってきた公的年金基金の拡大、民間年金基金の90年代に入ってからの積極的行動への移行とともに、このような株主による経営者のコントロールの困難さに対する議論、と規定する。

 したがって、多くの場合にいわれる3、株主、債権者、経営者、従業員、取引先等との利害調整を円滑かつ適正に行いつつ、企業経営をいかに行うか、といったことを論じるコーポレイト・ガバナンスとは立場を異にする。

 このような見地から、先ず、在外で日本のコーポレイト・ガバナンスについて業績をあげ、宮島英昭(1996)や岡崎哲二(1994)、さらには経済企画庁(1996)4等にもその研究手法を採用されている青木昌彦氏の所論について検討を加え、その主張される状態依存型ガバナンスの問題点を浮き彫りにする。しかる後、充分なる日本企業の支配構造を理解しないでは、コーポレイト・ガバナンスの議論は、ガバナンスの本来の意味を逸脱して、支配論と同じ範疇で看板を替えただけの議論にになってしまうことを指摘する。

 結果として、日本におけるコーポレイト・ガバナンスの問題は、国内企業間においては、バブル崩壊の結果、企業が株式持ち合いを維持していくために、もしくは持ち合い解消の結果、株式の受け皿となりうる投資信託、年金信託といった法人投資家が本来の意味での機関投資家となるためには、これまでの投資スタンスを変え、投資先の産業会社の低位安定配当政策をそのまま受け入れてばかりいるわけにはいかなくなったこと、また外国人投資家とっては、大株主かつ筆頭融資元である企業集団所属都市銀行に対する、欧米の機関投資家による所有に基づいた利害の衝突を巡る戦術となった、と位置づける。

 翻って、ガバナンス本来の意味から日本企業を論じるならば、株式会社の範疇の中では、 企業集団の中核に存在し、株主はそのガバナンスを半ば放棄、もしくは剥奪され、不完全な形で大蔵省に委託してきたとも言える企業集団所属都市銀行におけるガバナンスを論じなければならないということを提示したい。


表1

表1 配当金・株式利回り(東証第一部)
全銘柄加重平均利回り(%)
1959 4.68
1960 4.27
1961 4.47
1962 5.82
1963 5.08
1964 6.01
1965 6.01
1966 4.76
1967 4.96
1968 5.00
1969 4.19
1970 4.30
1971 4.01
1972 2.42
1973 2.02
1974 2.55
1975 2.54
1976 2.27
1977 2.16
1978 2.00
1979 1.87
1980 1.79
1981 1.65
1982 1.80
1983 1.55
1984 1.24
1985 1.05
1986 0.83
1987 0.56
1988 0.52
1989 0.46
1990 0.61
1991 0.73
1992 0.99
1993 0.86
1994 0.77
1995 0.86
出所)東京証券取引所(1996),p.117
   

表2

表2 株式分布(全国上場会社)
年度 政府・ 金融機関(除く 投資信託 年金基金 事業法人 外国人
地方公共団体 投信,年金) (法人+個人)
1960 0.2 23.1 7.5 17.8 1.4
1961 0.2 21.4 8.6 18.7 1.7
1962 0.2 21.5 9.2 17.7 1.8
1963 0.2 21.4 9.5 17.9 2.1
1964 0.2 21.6 7.9 18.4 1.9
1965 0.2 23.4 5.6 18.4 1.8
1966 0.2 26.1 3.7 18.6 1.9
1967 0.3 28.2 2.4 20.5 1.9
1968 0.3 30.3 1.7 21.4 2.3
1969 0.3 30.7 1.2 22.0 3.3
1970 0.3 30.9 1.4 23.1 3.2
1971 0.2 32.6 1.3 23.6 3.6
1972 0.2 33.8 1.3 26.6 3.5
1973 0.2 33.9 1.2 27.5 3.0
1974 0.2 33.9 1.6 27.1 2.5
1975 0.2 34.5 1.6 26.3 2.6
1976 0.2 35.1 1.4 26.5 2.6
1977 0.2 35.9 2.0 26.2 2.3
1978 0.2 36.6 2.2 26.3 2.1
1979 0.2 36.5 1.9 0.5 26.1 2.5
1980 0.2 36.9 1.5 0.4 26.0 4.0
1981 0.2 36.9 1.3 0.4 26.3 4.6
1982 0.2 37.3 1.2 0.4 26.0 5.1
1983 0.2 37.5 1.0 0.4 25.9 6.3
1984 0.2 38 1.1 0.5 25.9 6.1
1985 0.8 40.2 1.3 0.7 24.1 5.7
1986 0.9 40.8 1.8 0.9 24.5 4.7
1987 0.8 41.3 2.4 1.0 24.9 3.6
1988 0.7 41.5 3.1 1.0 24.9 4.0
1989 0.7 41.4 3.7 0.9 24.8 3.9
1990 0.6 40.7 3.6 0.9 25.2 4.2
1991 0.6 40.5 3.2 1.0 24.5 5.4
1992 0.6 40.2 3.2 1.1 24.4 5.5
1993 0.6 39.4 3.0 1.4 23.9 6.7
1994 0.7 39.3 2.6 1.6 23.8 7.4
出所)東京証券取引所(1996)P.124
 

 

    U 状態依存的ガバナンスの検討

 本章においては、先ず、青木氏の状態依存的ガバナンスについて、主にメインバンク・システムを中心に概略を示したうえで、その評価と問題点を指摘する。


1. 状態依存的ガバナンスの概略

 青木氏は比較制度分析を提唱し、日本のコーポレイト・ガバナンスを二元的な「状態依存型ガバナンス(contingent governance)」として捉える。これは会社の財務状態が健全である限り、会社のコントロール権は従業員の内部ヒエラルキーをへて昇進・選抜された経営者(内部者)に完全に委ねられているが、会社の財務状態が悪化した場合のみ、内部者から「特定」の外部者、つまりメインバンクへ、コントロール権が自動的に移行するというもので、欧米のコーポレイト・ガバナンスに比べ「誰が」会社財務の悪化した状態でコントロール権を掌握するかについて、前もって当事者間で了解されているとする。そして、このコーポレイト・ガバナンス構造はメインバンク制度(ママ)と長期雇用制度(ママ)5によって補完(制度補完性)されているとする。つまり、メインバンクは財務状態の深刻度やその将来の回復の見通しに依存して二者択一の選択、つまり救済もしくは清算の選択を行う。その際、再建の可能性があると判断された場合には、その救済と従業員の雇用保障に必要な費用の支出はメインバンクの責任であり、また他銀行の債権回収をメインバンクが保証しなければならない。また、従業員の再雇用の価値が低いほど、会社失敗のペナルティーを課せられるもののメインバンクが面倒みることが多く、状態依存的ガバナンスのインセンティブ効果は高まるためであるとする。

 この状態依存的ガバナンスを支えるとされるメインバンク・システムについて、先ず 企業集団所属都市銀行がこのようなメインバンクの役割を担うインセンティブ・レントを形成してきたのは、預金利率を低く抑えながらもインフレ抑制によって実質率は正に保ってきたこと等6の規制の枠組みが存在したためであるとする。

 そしてメインバンクの役割について、青木氏はモニタリングをあげる。そしてそのモニタリングをa 事前的モニタリング、 b 中間モニタリング、 c 事後的モニタリングの三つに分類し、aは投資計画の評価と選別、bは資金提供後の経営者・企業活動全般、特に資金の使途に対するチェック、cは投資行動の結果を判断し、長期存続性を検討し、匡正的ないしは懲罰的行動をとるとし、欧米ではaの機能は投資銀行やベンチャー・キャピタル、商業銀行が、bの機能は債券格付け機関7、取締役会、アナリスト、ファンド・マネージャー、cの機能は会計監査事務所、テーク・オーバー・ビッダー、再建専門機関、破産裁判所によってなされるものの、日本においてはこれら3つの役割が全てメインバンクに専属的に委任されているとする。

 結果として、 統合的モニタリングによって外的規律の制度的枠組みを与えること等8の社会的便益が発生するとする。

 さらに、事後的モニタリングによって清算が頻発することもあり得るとしながらも、そのことによって、メインバンクは預金の安全性に不信感をもたれる等9の不利益を蒙る可能性もあって、 清算に伴うコストは、不良債権総額にとどまらなくなり、メインバンクは容易に清算に踏み切らないとするのである〔青木昌彦(1992、1995a、 1995b 1996)〕。

2.状態依存的ガバナンスの問題点

 上述のように、財務状況に依存する状態依存的ガバナンスは、メインバンク・システムによって下支えされ、そのメインバンクはモニタリングを機能させる。そして、そのメインバンク・システムは幾つかの制度的枠組みに基づくとされる。

 青木氏のこの状態依存的ガバナンスについて、評価すべき点として挙げられるものに、支持する研究者の数からいえば圧倒的に経営者支配論の多い中で、日本の企業社会におけるガバナンスの主体として、メインバンク=企業集団所属都市銀行をとりあげている点がある。

しかし、大きな問題点として3つあげることができる。
 第一に、青木氏自身が本来の欧米におけるガバナンスの意味において状態依存的ガバナンスを述べているのかが不明瞭な点である。つまり、自身で「日本などにおいて、英米系コーポレート・ガバナンスの法理論を機械的に適用することの妥当性をもうたがわせる」〔青木昌彦(1995a)p.101〕とし、「コーポレート・ガバナンスの問題を、単に株主と経営者の間の法的関係としてのみ見るのではなく、会社の内部構造や、それを取り巻く金融制度や労働市場の制度との相対的な関連においてみることが必要である」〔青木昌彦(1995a)p.102〕としている。比較制度分析を唱える青木氏の立場からいえばそれはそれで妥当なことであるかもしれないが、使う用語は同じにもかかわらず、国ごとに分析の尺度なり基準を替えていては比較の対象にはなりえず、分析結果に対する信憑性も揺らいでしまう。まして、株主と経営者の間の法的関係としてのみ見るのではなく、会社の内部構造や、それを取り巻く金融制度や労働市場の制度との相対的な関連においてみるということは、従来支配論においてもなされてきたアプローチである。むしろガバナンスという用語をコントロールと読み替えて支配論の議論としたほうが、分析の比較も可能となる。

 第二に、メインバンクの位置づけである。状態依存的ガバナンスを支える制度として青木氏はメインバンク・システムをとりあげているが、このメインバンクというものの位置づけは政府規制によってたつところが多く、モニタリングの機能を果たすべくレントの存在に関しても妥当であると考えられるものの、はたしてそれだけのものなのかという点に疑問が残る。

 つまり、歴史的経緯を振り返ってみれば、戦前の財閥支配から、準戦時、戦時経済体制を通じて軍部の圧力により、数々の法律・命令が制定・発動された(表3)。その過程では生産力拡大の大目標の下で、前渡し、前金もしくは概算払いといった便宜をはらう一方、会社から財閥への資金の流出を締め上げるために、配当を抑え、その結果、株式市場が低迷し、増資による資金調達が困難になると、日本興業銀行の債券発行限度を急速に拡大させて(表4)、かつ民間の銀行を興銀中心の協調融資体制に引き込み、産業会社を借入依存体質に変え(図2)、財閥の支配を後退させ、財閥側も次第にその所有におけるシェアを分散、低下させていった(表5)。このような経過からメインバンクの起源を戦時経済体制に求める説も存在するものの10、この時期の金融機関は政府の債務保証と引き替えに資金のパイプ化を受け入れた形となったもので、発表者はメインバンクは戦後、企業集団所属都市銀行によってなされた支配志向の強い経営戦略の下で形成されたものであると考える。

 つまり、戦後、間もなく財閥解体の過程で、証券処理調整協議会(SCLC)による証券民主化政策によってなされた株式放出は、当初、持株会社整理委員会にて意図されていた購入者(従業員、発行会社所在地在住の個人)に十分な資力が存在しないまま1947年から実施された11のであるが、 1949年6月の独占禁止法第1次改正まで原則禁止とされていた事業会社の株式所有などの制約、ドッジ・ラインの下での金利上昇局面における株価下落(図3)の結果、個人株主、特に従業員株主の育成は破綻をきたし、「財閥解体の後始末として大量の株式処分が行われねばならなかったが、結局、大衆投資家の動員=株式払込み→増資払込みという形で零細な投資資金が集中され、会社の債務償還に利用されつつ、最後は株価暴落過程で、大衆投資者は安値で株式を手放し、市場から姿を消すというケースが少なくなかった」〔大蔵省財政史室(1979)p.423〕。また、一方で投機的な事件が相次いでおこり12、

 産業会社側は 「他系列銀行・第三者への保有依頼等の限りなく自己株保有に近い方法で安定株主工作を図り、制約の解除された講和後には同系列企業間の株式によって対処」〔宮島英昭(1991)p.144〕したとされる。実際、入手可能な資料のうち、出来るだけ古いものから2年毎〔山一証券(1950、1952、1955)〕に企業集団所属都市銀行と日本興業銀行の大株主とその大株主の株式を当該銀行がどの程度所有していたのかを調べると指摘のとおり系列を超えた企業が大株主として登場していることが明らかとなる(表6)。

 一方、産業会社はそれにとどまらず、証券会社名義による企業の自社株所有を誘発した。これは「増資の株価操作とか株式買占めに対抗する防戦買いなど、会社経営陣は商法の規定とは無関係に」〔東京証券業協会(1971)p.236〕所有されたもので、「自社株所有は、戦後、商習慣であるかのように1958年まで多数の大企業で行われていた」〔鈴木邦夫(1992)p.10〕とされている。 企業集団所属都市銀行と日本興業銀行の場合は、当初の所有形態は異なるものの、その変化は指摘より早く、つまり、産業会社に比べて早い段階で自社所有から相互持ち合いにシフトさせていったこと明らかとなる(表7)。そして多くのケースで銀行側の大株主の所有シェアよりも銀行の当該企業の所有シェアがごく初期から上回っていることが確認できる。

 つまり、このような過程─証券民主化政策→ドッジ・ライン→株価下落→新経営陣の経営権の不安→第三者への所有依頼、自社株所有・銀行優位の相互持ち合い─を通じて、また持ち合いに必要な同系列企業への系列融資を通じて、当該会社における他の株主の影響力を減少させ、経営陣の裁量権を認め、長期的視野に立った大規模な設備投資、低位安定配当政策による内部蓄積を可能とさせ、あわせて、会社は増資によって獲得した資金によって、株式を引き受けるための借入金を返済したり、担保として差し入れた株式を引き出し、運転資金に回したり、新たな設備資金の借り入れのための担保として再び差し入れたり、あるいは含み益を基礎として潜在的担保として所有した。

 このように、企業集団所属都市銀行は、産業会社が株式取得のための借り入れから、含み益を基礎として借り入れをするための株式へと、株式と借入金の関係をスパイラルに変化させることで資産拡大を図るといった構造をコーディネイトし、また、一方通行的な役員派遣を行い、メインバンクという名の下で、財閥家族・本社がその支配的位置から外れて以降、支配志向的戦略を遂行したと考えられる。

 第三に、状態依存的ガバナンスにおいてはメインバンク=企業集団所属都市銀行をガバナンスするのは誰なのかが明示されていない。産業会社の経営者をメインバンクがガバナンスするとはいいつつも、機関たるメインバンクのガバナンス構造が明らかにされておらず、その解明がなされていない所に大きな問題が存在するのではないかと、例えば住専問題他最近の金融機関の不祥事の処理過程を見ていると感じずにはおれない。

 以上のような考察をすすめると、 状態依存的ガバナンスは本来のガバナンスの意味からは逸脱しており、本人の意向とは別に、むしろ、支配論の議論において、日本における企業集団所属都市銀行の産業会社の経営に対する介入の度合いが無視できるものでないということを明らかにしている。

 このことは日本の企業社会が経営者支配で株主の意向が伝わりにくいということを問題として、ガバナンスを論じてみても、実際は企業集団所属都市銀行によって裁量権が与えられた経営者に対する議論となり、その有効性には疑問を持たせる。


表3

表3 戦時統制過程において制定された主な法律・命令
番号 名称
1 1937 9 工場事業管理令
2 9 臨時資金調整法
3 10 当分ノ内資金前渡,前金若ハ概算払ヲ為シ又ハ随意契約ニ依ルコトヲ得ル場合ニ関スル件
4 1938 3 軍ノ需要充足ノ為ノ会計法ノ特例ニ関スル法律
5 3 昭和十三年法律十六号ニ依リ前金払又ハ概算払ヲ為シ得ル場合等ニ関スル件
6 4 国家総動員法
7 1939 4 会社利益配当及資金融通令
8 1940 3 配当利子特別税法
9 10 会社経理統制令
10 10 銀行等資金運用令
11 8 株式価格統制令
12 1942 2 日本銀行法
13 4 金融統制団体令
14 1943 10 軍需会社法
15 1944 3 軍需金融等特別措置法

表4

表4 日本興業銀行債券の発行限度の拡張
発行限度枠
昭和12年法律第86号 5億円
昭和14年法律第86号 10億円
昭和16年法律第18号 20億円
昭和17年法律第84号 50億円
昭和20年法律第8号 100億円
出所)日本銀行(1984)p.288-289より作成.

表5

表5 戦時四大財閥銀行の所有構造推移
大株主 終戦時 1940年 1938年
所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率
住友銀行 住友本社 24.1 33.8 34.5
住友家族 11.3 19.0 19.8
住友倉庫 6.8 33.3
住友信託 5.5 40.2
井華鉱業 1.8 6.6
大阪住友海上火災 0.3 0.3
住友生命 1.4 0.7
三菱銀行 三菱本社 30.3 41.3 42.3
岩崎家族 2.0 1.9 1.9
東京海上火災 0.4 16.2 5.3 14.7 5.3 13.1
東山農事 0.4 0.6
三菱信託 0.2 0.1 5.1 6.7 1.7 6.7
明治生命 0.2 10.0 4.6
三菱倉庫 0.1
三菱商事 0.1
三菱鉱業 0.1 0.3
明治火災 2.0 1.5
三菱海上火災 1.3 0.7
百十銀行 1.0 1.0
第一生命 0.8
成蹊学園 0.6 0.6
三菱重工業 3.4
東洋文庫 0.5
帝国銀行 三井家 18.2
三井本社 3.7 27.6 47.6
三井報恩会 20.0 20.0
三井共友会 20.0
三井生命 1.0 0.8
第一生命 0.9 0.9
三井信託 0.4 3.3 0.4 3.3
帝国生命 0.3
安田銀行 安田保善社 31.0 27.6 24.5
安田家族 9.4 7.9 7.9
安田興業 8.9 27.5 13.1
福岡銀行 1.4
日本貯蓄銀行 0.3
安田火災海上 0.2 10.2 1.0 4.47
安田生命 0.2 4.2 3.8
安田貯蓄銀行 3.7 3.1
安田修徳会 3.1 3.1
満州興業銀行 4.9
出所)終戦時は持株会社整理委員会(1974),
   1940年及び1938年は東洋経済新報社(1938,1940)より作成.
注)銀行名,会社名は終戦時のもの.

表6

表6 企業集団所属都市銀行及び日本興業銀行の所有構造推移
銀行/大株主 1950年度 銀行/大株主 1951年度 銀行/大株主 1952年度 銀行/大株主 1953年度 銀行/大株主 1954年度
所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率
帝国銀行 帝国銀行 三井銀行 三井銀行 三井銀行
野村証券 3.48 野村証券 3.26 野村証券 2.16 野村証券 5.31 近江絹糸紡績 5.26 4.29
日本石油 1.37 0.67 日本石油 1.37 0.67 近江絹糸紡績 0.95 5.00 近江絹糸紡績 2.12 4.03 日本石油 2.89 0.67
玉塚証券 1.08 豊田自動織機 1.37 1.30 豊田自動織機 1.37 1.30 豊田自動織機 1.37 2.60 豊田自動織機 2.74 1.30
極東証券 0.79 近江絹糸紡績 1.32 5.00 日本石油 1.37 0.67 日本石油 1.37 0.67 東京芝浦電気 2.64 2.50
大阪屋証券 0.95 非現業共済組合連合会 1.05 東洋高圧工業 1.05 1.78 三菱信託銀行 1.24 東洋高圧工業 2.63 1.78
大和証券 0.74 倉敷紡績 1.05 1.73 日本鉱業 1.05 東洋高圧工業 1.05 1.78 日本鉱業 2.63 0.95
東洋高圧工業 1.05 1.78 非現業共済組合連合会 1.05 日本鉱業 1.05 0.95 日本製粉 2.63 3.06
揖斐川電気工業 0.89 4.69 倉敷紡績 1.05 1.75 三井鉱山 1.05 北海道炭礦汽船 2.63
玉塚証券 0.86 揖斐川電気工業 0.89 4.69 非現業共済組合連合会 1.05 大正海上火災 2.63 5.00
日本製粉 0.84 3.06 日本製粉 0.84 山一証券 0.70 三菱信託銀行 2.50
千代田銀行 千代田銀行 千代田銀行 三菱銀行 三菱銀行
日興証券 1.32 近江絹糸紡績 1.46 5.00 近江絹糸紡績 1.91 5.00 東京海上火災 0.76 東京海上火災 0.76 2.50
山一証券 0.67 富国生命 0.91 富国生命 1.16 近江絹糸紡績 0.46 4.04 日興証券 0.46
日興証券京都支店 0.60 日本郵船 0.86 0.71 明治生命 1.06 富国生命 0.42 近江絹糸紡績 0.42 4.00
野村証券大阪支店 0.47 日興証券 0.85 東洋紡績 0.91 0.67 三菱レイヨン 0.36 明治生命 0.36
揖斐川電気工業 0.45 3.13 山一証券 0.55 日本郵船 0.86 0.69 明治生命 0.35 富国生命 0.35
都商事 0.45 東洋紡績 0.55 住友化学工業 0.52 旭硝子 0.21 三菱レイヨン 0.21 4.17
近江絹糸紡績 0.45 5.00 新光レイヨン 0.50 日本陶器 0.50 東洋紡績 0.20 0.67 三菱商事 0.20
島津製作所 0.45 日本陶器 0.50 三菱レイヨン 0.50 東亜火災海上 0.20 東亜火災海上 0.20
都商事 0.47 住友金属工業 0.48 日本郵船 0.19 0.53 旭硝子 0.19 2.90
野村証券 0.47 不二商事 0.47 三菱化成工業 0.19 東洋紡績 0.19 0.67
大阪銀行 大阪銀行 住友銀行 住友銀行 住友銀行
旭化成工業 0.88 1.80 旭化成工業 1.75 2.86 旭化成工業 1.75 2.50 住友金属工業 4.40 4.20 旭化成工業 2.41 2.86
武田薬品工業 0.88 3.73 近江絹糸紡績 1.32 5.00 近江絹糸紡績 1.32 5.00 旭化成工業 4.39 2.04 住友金属工業 2.20 4.50
安宅産業 0.70 13.00 武田薬品工業 0.88 3.31 武田薬品工業 0.88 2.93 近江絹糸紡績 4.39 4.01 近江絹糸紡績 2.19 4.00
関西汽船 0.70 1.02 関西汽船 0.70 1.02 京阪神急行電鉄 0.88 11.25 富士製鉄 2.63 1.77 富士製鉄 1.32 1.77
日本糠油工業 0.70 安宅産業 0.70 5.00 安宅産業 0.88 5.00 八幡製鉄 2.63 1.94 八幡製鉄 1.32 1.94
帝国産業 0.66 5.00 日本糠油工業 0.66 大阪商船 0.79 0.55 住友石炭鉱業 2.63 1.67 住友石炭鉱業 1.32 3.33
京阪電気鉄道 0.66 2.36 関西汽船 0.70 1.02 住友化学工業 2.19 1.50 住友化学工業 1.32 1.88
帝国産業 0.66 5.00 日本興油工業 0.70 住友電気工業 2.19 1.88 松下電器産業 1.32 1.67
京阪電気鉄道 0.66 近藤紡績所 1.89 丸紅 1.21 20.83
帝国産業 0.66 5.00 安宅産業 1.75 5.00 伊藤忠商事 1.21 8.33
富士銀行 富士銀行 富士銀行 富士銀行 富士銀行
山一証券 1.70 呉羽紡績 1.19 2.14 近江絹糸紡績 1.55 5.00 近江絹糸紡績 2.25 4.00 日本鋼管 2.22 1.50
大和証券 1.40 大和証券 1.06 呉羽紡績 1.19 2.14 安田火災海上 1.41 3.99 近江絹糸紡績 2.07 4.00
日本精工 1.00 4.26 日本精工 1.00 2.96 日本精工 1.00 2.96 日本鋼管 1.37 0.69 日本セメント 1.85 2.94
東洋綿花 0.78 山一証券 0.95 日本セメント 0.89 2.94 昭和電工 1.30 2.00 日本精工 1.59 2.96
日興証券 0.76 近江絹糸紡績 0.93 5.00 日本油脂 0.85 1.50 呉羽紡績 1.19 2.14 八幡製鉄 1.56 1.56
高島屋飯田 0.69 日本セメント 0.89 2.96 日本理化工業 1.04 5.00 伊藤忠商事 1.30 8.33
日本油脂 0.85 1.50 日本精工 1.00 2.96 丸紅 1.30 20.83
東洋綿花 0.78 東邦レーヨン 0.98 2.50 富士製鉄 1.26 1.79
大成建設 0.74 住友金属工業 0.89 1.07 呉羽紡績 1.19 2.86
西松建設 0.70 日本セメント 0.89 2.94 久保田鉄工 1.11 4.46
三和銀行 三和銀行 三和銀行 三和銀行
礎証券 1.05 大阪商事 1.28 大日本紡績 1.65 0.72 三菱信託銀行 5.00 宇部興産 1.94 3.13
大阪商事 0.92 礎証券 1.05 帝国人造絹糸 1.45 0.98 大日本紡績 4.13 0.72 帝国人絹絹糸 1.80 0.98
日本繊維工業 0.75 4.17 東亜紡織 1.00 3.33 富士製鉄 1.05 1.80 宇部興産 4.00 2.50 大日本紡績 1.65 0.83
日立造船 0.60 日本繊維工業 0.87 4.17 東亜紡織 1.00 3.33 帝国人絹絹糸 3.63 0.98 日立製作所 1.40
日本レイヨン 0.50 1.21 山一証券 0.66 日本レイヨン 1.00 1.58 日本レイヨン 3.25 2.08 日本レイヨン 1.30 2.08
小運送協会 0.50 日立造船 0.60 0.56 宇部興産 1.00 2.50 日立造船 3.00 0.80 東亜紡織 1.20 3.33
櫻島埠頭 0.40 3.33 中央商事 0.56 日本繊維工業 0.87 4.00 東亜紡織 3.00 3.33 大和紡績 1.20 4.17
東洋ベアリング 0.39 6.39 大津ゴム工業 0.55 日立製作所 0.77 富士製鉄 2.63 1.71 日立造船 1.20 0.80
日亜製鋼 0.37 2.08 日本レイヨン 0.50 1.17 大阪瓦斯 0.64 2.14 日亜製鋼 2.50 富士製鉄 1.05 1.71
丸永 0.31 宇部興産 0.50 2.54 日立造船 0.60 丸善石油 2.50 日亜製鋼 1.00 3.13
銀行/大株主 1950年度 銀行/大株主 1951年度 銀行/大株主 1952年度 銀行/大株主 1953年度 銀行/大株主 1954年度
所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率 所有比率 被所有比率
第一銀行 第一銀行 第一銀行 第一銀行 第一銀行
東京海上火災 2.92 東京海上火災 3.19 日立製作所 2.52 東京製綱 2.52 2.68 東京製綱 2.60 2.68
中央商事 2.28 中央商事 2.52 日東化学工業 1.67 2.00 日立製作所 1.67 日立製作所 2.52
広瀬太次郎 1.17 大阪住友海上 1.39 1.00 近江絹糸紡績 1.37 5.00 近江絹糸紡績 1.37 4.00 近江絹糸紡績 2.45 4.00
石川島重工業 0.82 日東化学工業 1.27 2.00 広瀬太次郎 1.17 山一証券 1.17 川崎重工業 1.57 1.80
山一証券 0.79 広瀬太次郎 1.17 東洋紡績 0.98 0.67 川崎重工業 0.98 1.79 古河電工 1.47 1.67
神戸製鋼所 0.69 近江絹糸紡績 1.08 5.00 味の素 0.98 三菱信託銀行 0.98 東京海上火災 1.42 1.04
日本特殊鋼 0.63 1.67 東洋紡績 0.98 川崎重工業 0.98 2.86 広瀬太次郎 0.98 富士電機製造 1.35
有燐興業 0.61 日東紡績 0.88 日東紡績 0.88 東洋紡績 0.88 三菱信託銀行 1.27
共同印刷 0.54 石川島重工業 0.87 大日本製糖 0.88 神戸製鋼所 0.88 神戸製鋼所 1.23
荏原製作所 0.49 荏原製作所 0.64 荏原製作所 0.88 富士電機製造 0.88 東洋紡績 1.23 0.81
日本勧業銀行 日本勧業銀行 日本勧業銀行 日本勧業銀行 日本勧業銀行
日本勧業証券 3.17 4.67 大蔵大臣 47.38 大蔵大臣 78.02 大蔵大臣 65.00 大蔵大臣 25.00
山一証券 2.56 東京急行電鉄 0.74 3.75 日立製作所 1.05 近江絹糸紡績 2.25 4.00 近江絹糸紡績 3.25 4.00
中央商事 1.00 1.25 中央商事 0.55 住友化学 1.00 1.00 三菱信託銀行 1.21 三菱信託銀行 1.20
東京急行電鉄 0.72 5.00 日東紡績 0.51 1.08 近江絹糸紡績 0.97 5.00 住友化学 1.00 1.00 日本通運 1.05 1.39
近江絹糸紡績 0.55 山一証券 0.50 東京急行電鉄 0.93 2.61 三井造船 0.76 1.07 興国人絹パルプ 1.04 2.50
泰昌 0.51 2.92 近江絹糸紡績 0.42 5.00 三井造船 0.76 1.07 東京急行電鉄 0.73 2.33 住友化学 1.00 1.00
日本繊維工業 0.50 三井造船 0.40 1.07 同和鉱業 0.70 同和鉱業 0.70 2.40 日本鋼管 1.00
服部時計店 0.50 同和鉱業 0.37 3.00 三菱電機 0.65 三菱電機 0.65 本州製紙 1.00
三菱電機 0.34 0.44 日東紡績 0.63 1.92 日東紡績 0.63 1.93 電気化学 0.85
日本化成工業 0.32 2.00 三菱化成工業 0.60 2.00 三菱化成工業 0.60 1.85 富国生命 0.80
日本興業銀行 日本興業銀行 日本興業銀行 日本興業銀行 日本興業銀行
大蔵大臣 10.00 大蔵大臣 9.00 富士製鉄 1.54 2.88 八幡製鉄 1.66 3.00 大蔵大臣 1.66
大阪銀行 1.50 日興証券 2.12 八幡製鉄 1.25 0.30 富士製鉄 1.25 2.76 八幡製鉄 1.25 3.00
協和銀行 1.50 富士製鉄 2.00 3.00 同和鉱業 1.02 同和鉱業 1.05 富士製鉄 1.05 0.28
神戸銀行 1.50 八幡製鉄 2.00 3.00 鐘淵紡績 1.00 鐘淵紡績 1.00 同和鉱業 1.00
三和銀行 1.50 日本油脂 1.70 三井船舶 0.90 三井船舶 0.90 1.39 鐘淵紡績 0.90
第一銀行 1.50 日本化成工業 1.70 3.00 日本油脂 0.85 日本油脂 0.85 住友金属工業 0.85
千代田銀行 1.50 飯野海運 1.65 三菱化成工業 0.85 3.00 三菱化成工業 0.85 2.78 三菱化成工業 0.85 2.64
東海銀行 1.50 日本軽金属 1.60 飯野海運 0.83 飯野海運 0.83 日本油脂 0.83
富士銀行 1.50 東京海上火災 1.55 日本軽金属 0.80 日本軽金属 0.80 倉敷レイヨン 0.80
福岡銀行 1.30 宇部興産 1.51 日本鋼管 0.80 日本鋼管 0.80 飯野海運 0.80
出所)山一証券(1950,1952,1955)より作成.

表7

表7 企業集団所属都市銀行および日本興業銀行における証券会社所有比率推移
1950年 1951年 1952年 1953年 1954年
三井銀行 7.04% 4.12% 2.16% 6.01% 0.00%
三菱銀行 3.07% 1.87% 0.00% 0.00% 0.46%
住友銀行 0.00% 0.00% 0.00% 0.00% 0.00%
富士銀行 3.85% 2.01% 0.00% 0.00% 0.00%
第一銀行 0.79% 0.00% 0.00% 1.17% 0.00%
日本勧業銀行 5.73% 0.50% 0.00% 0.00% 0.00%
日本興業銀行 0.00% 0.00% 0.00% 0.00% 0.00%
三和銀行 1.05% 1.71% 0.00% 0.00% 0.00%
平均 2.69% 1.28% 0.27% 0.90% 0.06%
出所)山一証券(1950,1952,1955)より作成.
注)証券会社持ち株は大株主として記載されているものを合計
 

    V 相互持ち合いとガバナンスの議論の行方

 結果として、日本において、ガバナンスをめぐる議論が活発に議論されはじめたのがバブル崩壊に伴う株価下落・低迷と時期を同じくすることと考えあわせれば、株価低迷と低配当率は株式投資収益率を低下させ(表8)、産業会社自身のリストラの必要性はこれまでの、 相互持ち合いに対するインセンティブを失なわせつつあり、企業集団所属都市銀行中心の相互持合を主軸とした所有構造に転機をもたらすものとなる。そのために産業会社の低位安定配当政策を見直させるための議論にガバナンスが帰着する可能性を持つと考えられ、その点においては外国人投資家とも利害が一致するのである。

 翻って、本来の意味におけるコーポレイト・ガバナンスの議論を日本においてするならば、その対象は株式の相互持ち合いにおいて、相対的優位な所有構造を構築し、産業会社の経営を最終的に管理し、そのための情報を一方的に集中させながらも、自らの情報公開に関しては最も消極的で、なおかつ、そのガバナンスをある意味で大蔵省に委任し、株主のガバナンスは剥奪もしくは占有されている企業集団所属都市銀行となる。これら企業集団所属都市銀行の株主による経営者のコントロールを行使させる法的枠組みを論じること、もしくは遠くない将来実現されるであろう金融持株会社における法的枠組みを論じることが、日本におけるコーポレイト・ガバナンスの議論の中核となるべきと考えるものである。

1 詳しくは、谷村裕(1982)を参照。
2 例えば、
 ゴールデン・パラシュート(Golden Parashute) …現経営者が解任される際には巨額の退職金等が支払われる契約を会社と結んでおくこと。
 シャーク・レペラント(Shark Repellent) …定款変更によって合併承認決議基準の変更や取締役選任を部分的に行う規定を設けること。
 ショウ・ストッパー (Show Stopper) …同業他社を買収して乗っ取られると独占禁止法に抵触してしまうこと。
 スコーチド・アース・ディフェンス(Scortched-earth Defense)…主要資産や優良部門を乗っ取り会社以外に売却していまうこと。
 ポイズン・ピル(Poison Pill)…乗っ取り開始後、乗っ取り会社を除く株主に時価を無視した価格で株式割り当てをするなどして、買収コストを高めること。

3 例えば、経済同友会(1996)を参照。
4 明記されているわけではないが、第三章「転換期にある日本的経済システム」は青木氏の唱える比較制度分析の手法を採り入れている。

5 青木氏は暗黙の内に守られる慣習や道徳的規制、
あるいは法的強制力を持つ明示的な制度を全てにルールとし、
ルール化したものを制度とかなり広い意味で制度という用語を使用している。

6 他に、
 債券発行を特権会社に限定し、
債券の流通市場の発展を抑制する、
メインバンクとなりうる都市銀行の地位への参入を制限する、
銀行に対して、支店開設許可権や天下りによる最高経営者の派遣など、
裁量的な報酬・ペナルティの制度運用
といったものがある。

7 その評価が起債能力に影響を与える点で事前的なモニタリングでもあるとされる
8 他に
 モニタリングの重複という社会的費用が回避される、
 メインバンクの救済活動によって、一時的な財務困難にあるものの、潜在的生産は持っている企業が清算されずにすむ
プロジェクト間のコーディネーションの失敗によって生じる低均衡を回避しうる
といったものがある
9 他に、
 他の金融機関が協調融資をためらう、企業がメインバンクを他の都市銀行にスイッチする、
規制当局が直接的ペナルティを課す、といったものがある。

10 詳しくは寺西重郎(1993a、1993b、1996)等を参照。
11 詳しくは日本証券研究所(1984)p.454を参照。
12 旭硝子や東邦レーヨン事件等が起きている。詳しくは東京証券業協会(1971)p.179-213を参照。

 

 参考文献

青木昌彦(1992)『日本の制度分析』筑摩書房.

青木昌彦(1995a)『経済システムの進化と多元性』東洋経済新報社.

青木昌彦(1995b)「システムとしての日本企業」,青木昌彦,ロナルド・ドーア編『国際・学際研究 システムとしての日本企業』

青木昌彦(1996)「メインバンク・システムのモニタリング機能としての特徴」,青木昌彦,ヒュー・パトリック編『日本のメインバンク・システム』東洋経済新報社.

岡崎哲二(1994)「日本におけるコーポレート・ガバナンスの発展:歴史的パースペクティブ」,日本銀行金融研究所『金融研究』第13巻第3号.

大蔵省財政史室(1979)『昭和財政史─終戦から講和まで─』第14巻,東洋経済新報社.

経済企画庁(1996)『平成8年版 経済白書』大蔵省印刷局.

経済同友会(1996)『第12回 企業白書』経済同友会.

鈴木邦夫(1992)「財閥から企業集団・企業系列へ」『土地制度史学』第135号. 

谷村裕(1982)『株主勘定復活論』日本経済新聞社.

寺西重郎(1993a)「メインバンク・システム」,岡崎哲二,奥野正寛編『現代日本経済システムの源流』日本経済新聞社.

寺西重郎(1993b)「終戦直後における金融制度改革」,香西泰,寺西重郎編『戦後日本の経済改革』東京大学出版会.

寺西重郎(1996)「戦時期日本のローン・シンジケーションとメインバンク・システムの源流」,青木昌彦,ヒュー・パトリック編『日本のメインバンク・システム』東洋経済新報社.

東京証券取引所(1996)『東証要覧』東京証券取引所.

日本銀行(1984)『日本銀行百年史』第四巻,日本銀行.

日本銀行調査局(1970)『日本金融史資料』昭和編,第二十七巻,大蔵省印刷局.

日本証券経済研究所(1995)『図説アメリカの証券市場1995年版』日本証券経済研究所.

日本証券経済研究所(1984)『日本証券史資料』戦後編,第四巻,日本証券経済研究所

持株会社整理委員会『日本財閥とその解体』別巻,原書房.

山一証券株式会社(1950)『株式会社年鑑 昭和二十六年版』山一証券株式会社

山一証券株式会社(1952)『株式会社年鑑 昭和二十八年版』山一証券株式会社

山一証券株式会社(1955)『株式会社年鑑 昭和三十年版』山一証券株式会社

宮島英昭(1991)「『財界追放』と新経営者の登場」,『WILL』,1991年7月号,中央公論社.

宮島英昭(1996)「財界追放と経営者の選抜」,橋本寿朗編『日本企業システムの戦後史』東京大学出版会.


お問い合わせ ik8m-ysmr@asahi-net.or.jp


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