規制制度改革 東京シンポジウムセッション
元独経済省経済政策総局長 ベルンハルト・モリトール
■.規制制度改革の目標
1.競争、成長、雇用を促進するために、あらゆる手段を活用することはグローバル経済にとって極めて重要である。今後、企業が競争力と雇用創出能力をどの程度強化できるかは、自助努力だけではなく、それぞれの国の社会経済体制が持つ長所や弱点に左右される。規制制度改革は企業活動に刺激を与え、国全体の実質所得の増加に寄与する。
2.適切な枠組みに基づいた規制は、現代社会に不可欠である。「規制制度改革」、あるいは時に、より積極的な意味合いをこめて使われる「規制緩和」とは、すべての規制を廃止するのではなく、企業活動を促進し、消費者および企業家の双方の信用を強化するために、規制の枠組みを新たに設定することを意味する。効率的な規制は、競争と併存するだけではなく、支援するものである。
3.企業や個人が新規市場を開拓、投資、探求しようとする場合、不適切な規制は、企業や個人が能力を発揮する妨げとなる。この背景には、複雑で硬直状態にある法規、行政による過度の介入、改革に対抗するため課される負荷や妨害があり、これらによって費用と不確実性が発生する。個々の規制が課する負荷の合計より、規制環境全体が及ぼす影響のほうが大きく、一つの大きな負担となっている場合が多い。ビジネスを取り巻く環境が厳しい規制下にあり、個々の意思決定に関し、政府が広範囲にわたり不必要な介入を行うと、企業や国民は保守的になり、リスクを避ける傾向が見られるようになる。これは、特に投資や雇用創出に対する慎重な姿勢となって現れる。
4.過度または不適切な規制は、雇用創出に重要な役割を果たしている中小企業において、特に甚大な障害をもたらす。ヨーロッパで行われた調査では、大企業より中小企業に対する影響が大きいことが明らかになっている。これは、行政が課している負荷の多くが業務の規模にかかわらずほぼ一定で、固定費的な性格を帯びているためである。したがって、特に中小企業の経営者にとって大きな負担となっており、新規市場の開拓、新製品の開発や改良、消費者ニーズに合う生産方法の開発などの、基本的な責務の遂行に支障を来しているのが現状である。
■.規制制度改革の内容
5.世界経済における規制制度改革は、以下の3つの基本分野において特に重要である。
・電気通信、陸空運送、エネルギー供給、銀行業務、保険、自由業などの分野における市 場アクセスおよび撤退など、厳しい規制が課されている市場の自由化
・不必要な負荷を削減するため、現行法規および行政慣習を簡易化すること(簡易化の手 段としての再規制)。これについては、関連問題へのより平易な取り組み方を新たに策 定すること、あるいは現行の法規や行政条款を変更することが必要となる場合が多い。
・平易かつ柔軟性があり、負荷の少ない規制により、国民および企業の利益拡大を促進さ せるため、立法手続きの見直しを行うこと。
7.ヨーロッパでは、これまで厳しい規制により保護されてきた市場における規制緩和の一環として、欧州連合主導により、域内市場実現へ向けた努力が強力に推進されている。その結果、電気通信、陸上輸送、航空権、金融市場、政府調達部門を含む多くの分野で、市場の自由化が大きく進展し、他の国々が競争に参入している。しかし、消費者や環境の保護を目指す上で、欧州共同体参加各国の国内法規との調和が必要とされる共同体独自の法規は、複雑で柔軟性を欠いており、同法規の国内法への移行もいまだ実現していない。今後、競争をさらに活発にし、企業および消費者に課せられる経済的負担を軽減するためにも、より一層の簡易化が行われなければならない。
8.民間セクターが公共セクターと同等、あるいはより高い水準で遂行できる公共事業は、民営化されるべきである。例えば、エネルギー・セクターにおける市場アクセスや、金融市場の安定性を確保するために、規制および監督機関が必要であるならば、これらの機関の自主独立的な権威の大半を剥奪し、一方で、市場アクセスを監視し、不正行為を防止する機能を、競合する関係当局に与えるなどの措置が可能である。
9.現行の法規および行政慣行の簡易化を実現するためには、徹底的な見直しが必要である。具体的には、高い保護基準を維持しながら、以下の項目が達成されなければならない。・政府による介入の削減
・客観的なニーズに基づいた規制
・比例および補助の原則の厳密な遵守
・さまざまな規制における一貫性
・あらゆる差別の回避
・より少数かつ負担の少ない規制
・公平な実践及び実施
・結論的には、規制の高品質化
10.法的措置の見直しを行う場合、改正された法規は、目標を上回る成果を確実に達成するものでなければならない。その点、「OECD規制チェックリスト」、「欧州連合における立法および行政簡易化に関する独立専門家グループ」が提案した「規制テスト」、「ドイツにおける立法及び行政簡易化のための独立委員会」による「勧告書」などの、いわゆるチェックシートと呼ばれるものは、各国の議会や政府が規制の公式な枠組みを新たに構築する際の一助となりうる。この場合、重要なことは、法規などの改正に係わる決定が行われる前の適切な時期に、新たな規制の影響を受ける当事者(企業、労働者、消費者など)の意見を、効果的かつ体系的な方法で開き、反映させることである。
11.新規に法規を制定する場合、その成果を評価するメカニズムを同時に発足させなければならない。このメカニズムは、適切な期間を経た後に、当初の目標が達成されたかどうかを考量し、評価結果を公表するものである。
12.規制制度改革は国家、地域、地方レベル、国家間の通商協定、国際機関など、法規および行政条款が設定されているあらゆるレベルに関して行わなければならない。
■.規制制度改革の方法
13.規制制度改革は、規制活動の費用および恩恵を明らかにしたり、さまざまな経験について情報を交換するなどの、国際協力および監視を行うことにより、さらに進展する。国際協力、および目的を共有する他の国々による圧力が特に重要な分野としては、財あるいはサービス貿易、反競争的行動、アンチダンピング慣行、直接投資に対する妨害などの、国際関係が重視される分野があげられる。
16.規制制度改革への取り組みには、さまざまな方法があり、これらを平行して行うことも可能である。その一つに、特定の分野における法規に関し、共同研究による分析を行う方法がある(ブリュッセル・グループが採用している方法)。この場合、厳しい規制下にあるセクターについて、関連法規の調査を行う必要がある。第二に、過度の法的規制や行政慣行が、どの程度の障害を引き起こしているかについて、国民や企業を対象に質問する方法があげられる。第三の方法としては、ビジネスにおけるニーズを定義し、個々の法規を改正するために、具体的な投資計画の企画および承認、基準となる法規や条款、金融あるいは輸出活動をはじめとする、企業活動のさまざまな機能の見直しを行うことがあげられる。
17.規制制度改革には、周到な準備が必要である。規制制度改革により特権を失うことを恐れる人々が、規制制度改革に反対するだけではなく、行政や立法府が過去に達成した成果が高水準であることを誇示したい場合も、大きな抵抗がある。したがって、規制制度改革は、受益団や階層からできる限り独立した状態で、徹底的な分析に基づいて行わなければならない。
18.規制制度改革において確実な成果を達成するためには、忍耐力が必要である。調和を重視した見直しや段階的な変化だけでは、十分とは言えない。われわれが目指すべきことは、新しい規制方針を創造することである。
以上
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