文書No.
970211
情報公開性を補完 歴史資料、廃棄前に選別
電子メディア開示の対象に 情報公開法要綱案がまとまり、法制定に向けた国会審議が97年度中には始まる。 いまの日本社会には、政治家の言葉と官僚の仕事に対する不信がうっ積している。生半可では信頼回復は達成できない。市民の開示請求権行使にこたえて、自分たちに都合の悪い情報も公開し、説明責任を果たす。政治と行政は固くそう決心しなければならない。 情報公開法要綱案は制度の対象となる行政文書を広く定義したうえで、文書の取り扱いに関して、いくつかの重要な規定を設けている。それが要綱案の大きな特徴で、時宜にかなっているといえよう。 対象文書の範囲は、実質要件によって画される。決裁・供覧を経ているか、その途中なのかといった手続き的要件は問わない。開示請求権は、職員が職務上作成・取得し、組織的に用いるものとして行政機関が保有しているすべての文書に及ぶ。情報公開法施行の日以前に作成・取得された文書も対象に入る。 行政機関には、原則として対象文書を開示すべきことを義務付ける。もちろん、何でも開示というわけではないが、不開示情報について開示請求を拒否するときも、文書の存否を明らかにするのが原則である。 存否を明らかにしなくともいい例外が認められているが、その場合も含めて、開示請求の拒否には、必要十分な理由が求められる。行政機関の提示した理由に納得できない請求者には、不服申立ての道が開かれている。不服審査会の委員は、当該行政文書を実際に見分し得る。 行政機関は請求者の利便に配慮し、窓口を用意し、文書の所在や事務の流れに関する資料も提供しなければならない。 紙の上に文字で書いたものだけが文書なのではない。その種類にかかわらず一定の媒体に情報が記録されている文書は、対象範囲となる。古来、文字は粘土板や甲骨、木簡、竹簡、羊皮にしるされてきた。図画記録は文字以前にさかのぼる。現代では、写真、音声、映像の形で数多くの記録が制作されている。フィルム、テープ、ディスクなどが媒体として用いられ、電子メディアの発達はめざましい。媒体は多様でも、いずれも文書なのである。 そうなると、開示に当たってメディア変換をしなければならない。例えば、フロッピーディスクの文書はどう閲覧するのか。写しとは何で、それをどう交付するのか。できるだけ請求者の要望にそえるよう技術的な問題をクリアする必要がある。
開示請求書面の媒体としても、ファクスや電子メールが利用可能となる。 それは当然で、歴史資料のためには、情報公開制度と補完しあえるような公文書館制度を別に整えるのが本筋である。
何もかも一気に実現はできないのだから、じっくりと制度設計した方がいい。 まず情報公開法を仕上げるのが先決である。とはいえ、その後あまり長く間を置かずに公文書館法を改正できれば理想的である。現行法は議員立法で制定されたので、改正も議員立法でという案もありうる。 ただし、情報公開制度の側できちんと決めておくべきことがある。保存期間が終わり、非現用文書となったものを、やたら廃棄されては困るのである。 情報公開法要綱案は文書のマネジメントをきわめて重視しており、わざわざ条項を起こし、法律上の根拠を明らかにしている。そのうえで、行政文書の系統的分類、作成の責務、保存期間、廃棄といった事項を政令にゆだねた。 この政令に工夫を加えて、廃棄の前に歴史資料を選別できるようにすることが肝要である。さもないと歴史資料の蓄積が中断してしまう。 未来が現在になったとき、現在は過去になる。現在の行政文書は、未来の歴史資料である。責任説明は同じ時代に対してだけでなく、後世に対しても、歴史に対して問われるのである。 複雑な社会にあっては、一つの事象に関する問題設定の仕方、一つの設定に関する問題解決の代替案も多彩である。あらゆる事象に、行政機関が正解を示せるはずがない。 精いっぱい構想し、実行したとしても、後の世代から失敗と批判されることもある。しかし、同じ過誤を繰り返さないで済むのに貢献できるなら、失敗には意義がある。関連文書を開示し、かつ歴史的な価値を持つ資料として残すことに、恥じるところがあろうか。歴史をごまかす愚を避けられるのである。 法律と政令に基づき、まず情報公開制度を創設し、続いて法改正により公文書館制度も整える。その過程で、文書のマネジメントに新機軸を導入し、実務を改革しなければならない。 公式の制度は、新たな実務に契機と根拠を与える。他方、制度がうまく働くかどうか、実務の刷新が成否のカギになる。ここでは、以下の特徴を備えたシステムの確立を目指し、開発努力に着手するよう提案しておきたい。
保存期間は一年、三年、五年、十年、三十年のどれかとする。永年保存という範疇(はんちゅう)は廃止し、三十年保存に変更する。どの行政文書に何年の期間を割り付けるかという保存の基準は政令で定める。保存期間内であれば、いずれも現用文書であり、開示基準は情報公開法に従う。 第二に、保存期間が満了、非現用文書となったものは原則として、漏れなく公文書館に引き渡すことを行政機関に義務付ける必要がある。公文書館は歴史的な価値を持つ非現用文書を選別して残し、他を廃棄する権限を有する。行政機関の引き渡し義務と公文書館の選別権は、改正した公文書館法に明記する。実務的に各行政機関で選別されるものがあってもいいが、その場合にも、公文書館の選別基準が適用される。 選別を経て残された非現用文書は歴史資料に生まれ変わり、公文書館が保管・公開に供する。開示基準は情報公開法と平仄(ひょうそく)をあわせ、公文書館が定める。保管期間は永久である。 第三に、十年保存と三十年保存の現用文書は五年たったところで、公文書館内の中間保管庫に移すことにする。移送後も保存期間が切れるまでの管理権は、行政機関に属する。 保存期間が終わったところで、直ちにそのまま公文書館に引き渡される。十年保存分の多くと三十年保存分のほぼ全部が、散逸を免れて歴史資料として選ばれる。 このシステムによって、保存基準と選別基準と開示基準を明確に区分しつつ、的確に組み合わせることが可能になる。行政文書と歴史資料の双方にまたがって、文書のライフサイクルに則してマネジメントが及んでいく。 「ありません」「なくしました」「すててしまいました」「見せられません」「写しはとれません」など言い分けが乱発されれば、せっかくの情報公開制度や公文書館制度に逆効果をもたらす。それを防ぐのにも有効な実務システムである。 煩雑な管理で縛ったり、こまごまとした節約や削減を言い立てても、実務は変わらない。市民に対して質の高い価値を提供できない仕事は廃止する。思い切って絞り込んだ本業本務は、市民に十分説明し、市民の知恵をもらいながら、明快に進める。文書のマネジメントをめぐっても、そうした骨法正しい公務改革を実現しなければならない。 筆者の提案は、公文書館関係者の間で展開されてきた議論に依拠している。この機会に、様々な見地から少し広く検討してもらえれば幸いである。
|