文書No.
970221
情報開示や株価の評価、ネット公募に課題。
二月上旬、ソフト関連のベンチャー企業がインターネットを通じた増資で四千万円強を調達した。発行価格が額面の一・五倍だったにもかかわらず、想定の倍以上の応募があり、抽選などで絞り込んだ六十人弱の投資家が最終的に資金を払い込んだ。“インタ ーネット公募”の先駆けで、小企業でも多数の投資家を呼び込めることを実証した。 ただ情報開示については課題を残した。同社は三期分の収益計画を示したものの、株価算定の基礎データである貸借対照表などは開示しなかった。「データの作成や監査に手間や費用がかかるようでは、新しい調達手段の魅力がなくなる」と説明するが、証券関係者からは「投資家保護のうえで問題がある」との声があがっている。 五億円未満の少額公募増資については、企業が財務局に有価証券発行通知書を提出する必要があるが、その内容は会社概要や募集方法などを記述するだけだ。 少額募集が普及している米国では「レギュレーションA」というルールが確立している。過去の募集実績、財務状況などを米証券取引委員会(SEC)に提出すると同時に、株式発行目論見書かこれに準ずる書類を投資家に事前に配布することになっている。 大蔵省は日本でもこれに類したルールが必要と判断している。証券業界からは「負担の少ない簡易な監査」(大崎貞和・野村総合研究所副主任研究員)との意見もあり、情報開示のあり方については発行会社側の実情も踏まえた論議が必要だ。 証券会社に対する未公開株の売買仲介や投資勧誘が解禁されれば、証券会社としても企業に財務情報の提出を求めることになりそうだ。 今後、未公開株を取り扱う証券会社が、売買注文の受け付けや投資勧誘にインターネットを活用することが予想される。証券会社を介しないインターネット公募と合わせ、電子媒体を通じ詐欺的な虚偽情報が流れることへの監視体制も必要になる。米国ではSECが二年ほど前から監視、摘発を本格化した。未公開株取引では、株の時価評価をどんな手法でするのかという問題もある。 山一ファイナンス(東京)は独自の手法で投資先企業の株式を評価し、投資事業組合の出資者に参考として提供してきた。類似公開会社の株価収益率などを基に一種の理論値を計算しており、こうした例を参考に、関係業界で新しい手法を考案しなければならない。 このほか、投資勧誘に活用する価格情報は「売買事例なのか気配値なのか。売買としたらその時期や情報の責任主体を明確化することが重要」(大蔵省証券局)との指摘もあり、未公開株取引のための環境整備には課題が山積している。(日経・中堅・ベンチャー企業部 片山哲哉)情報集まれば市場拡大 伊藤邦雄・一橋大学教授 現状では、未公開株に関する情報を証券会社自体が簡単に入手できず、顧客から情報を求められても対応が難しい。取引を手掛ける証券会社が徐々に増えれば情報が集まるようになり、更に市場の拡大を促すという好循環になるだろう。 年金資金などに投資解禁しても、環境整備が伴わなければ大きな資金の流れにはなりにくい。米国でも79年、年金の運用受託者の責任範囲を定めたことを契機に投資が活発化した。損失が発生した場合の発行会社と投資家の責任分担について判例も数多く、日本でもこうした経験を積み上げていくしかない。
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