ディスクロージャー研究学会



(青空に物事を晒すと虫干しされ綺麗になる)

文書No.
970310

情報公開と企業広報

    一橋大学法学部教授  堀部 政男

    経済広報 1997年3月  


まざまな意味に用いられる「情報公開」
 情報公開について聞かれる機会が増えています。ただ、厄介なのは、この言葉が、質問する人ごとに少しずつ違った意味に使われていることで、情報公開法における「情報公開」からもっと広い意味で広報に関わる活動全般をさしていることまでさまざまです。そこで、質問に答えるにはまずその概念を整理して話を始めることにしています。

私なりに、「情報公開」を整理すると、次のようになります。
 まず、「公的部門(パブリックセクター)の情報公開」と「民間部門(プライベートセクター)の情報公開」とに大別できます。前者は国や地方公共団体の機関の情報公開であり、後者は、民間企業などの情報公開です。

 この分類に関連しては、公的部門に準じた特殊法人などの情報公開をどう扱うかが問題となります。また、公的部門は民間部門から入手した情報を保持することがありますので、公的部門が情報公開することがきっかけとなって民間の情報が公開されることがあります。この点も公的部門の情報公開の問題として議論されていますが、民間企業には関心の高いところでしょう。

 次いで、情報公開は、■請求を受けなくても公開する場合、■請求に応じてする場合に分けられます。またそれぞれは、ア)任意に行う場合、イ)義務に従って行う場合、に分けられます。公的部門に関しては下表のようになります。

企業広報についてあてはめてみると、次のようなことが含まれます。
情報提供施策→広報誌の発行やニュースリリースの発表、広告宣伝活動
 公表義務制度→会社の公告は官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲げてこれを行わなくてはならないという義務づけ(商法166条)や有価証券報告書

任意的開示→取材対応など
 義務的開示→株主および会社の債権者が株主名簿、端株原簿、社債原簿の閲覧または謄写の請求権を有する(商法263条の2項)

 公共部門についての分類は、企業についてもあてはまり、広報を議論するときにはこの枠組みを念頭におくとより適切な議論ができると思います。


情報公開の全体像(公的部門)


(東京都情報公開懇談会等における検討結果等を参考にして作成)


国の情報公開制度に向けて
 さて、行政改革委員会行政情報公開部会が95年から約1年7カ月間にわたって議論してきたのは、この枠組みの中の、主として公的部門のしかも行政機関の義務的開示です。最終的に昨年11月1日、本委員会である行政改革委員会に報告書をだしました。それに行政改革委員会の意見をつけてだしたものが「情報公開法制の確立に関する意見」で、昨年12月16日に橋本首相に意見具申されました。

 これを受け政府は、総務庁の行政管理局に情報公開法制定準備室を設け、法案の作成にとりかかっています。今年度中に法案を国会に提出する運びになりました。世界的に見ますと、主要先進国12カ国で既に法律ができており、あと韓国が今年の1月1日に公布しています。

 この法律ができると、国の行政機関が持っている情報について開示請求権という新たな権利を創設することになります。請求された情報を行政機関が開示しないという決定をしますと、今度はその決定自体を法的に争うことができるようになります。

 綱案の段階ですので、第一条といわず第一と呼びますが、29の条文からなっています。第1目的 第2定義 第3開示請求権 第4開示請求の手続 第5行政機関の開示義務

 第6不開示情報 第7公益上の理由による裁量的開示 第8行政文書の存否に関する情報第9開示請求に対する措置 第10開示等決定の期限 第11著しく大量名行政文書の明示請求に係る開示等決定の期限の特例 第12事案の移送 第13第三者保護に関する手続 第14開示の方法 第15手数料 第16権限の委任 第17不服申立てに関する手続 第18不服審査会の設置 第19不服審査会の委員の任命等 第20不服審査会の調査権限 第21不服審査会における事件の取扱い 第22その他の不服審査会関係規定 第23行政文書の管理 第24利便の提供・運用状況の公表 第25情報公開の総合的な推進 第26地方公共団体の情報公開第27特殊法人の情報公開 第28関係法律との調整 第29施行に伴う措置


企業活動への影響
 企業との関わりでずいぶん議論したところは、第6の不開示情報の第2項についてです。条文は次のようなものです。

第6 不開示情報
 (2)法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、当該法人等又は当該個人の事業活動によって生ずる人の生命、身体著しくは健康への危害又は財産若しくは生活の侵害から保護するため、開示することがより必要であると認められたものを除く。

 イ 開示することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位、財産権その他正当な利益を害するおそれがあるもの

 ロ 行政機関からの要請を受けて、公にしないとの約束の下に、任意に提供されたもので、法人等又は個人における常例として公にしないこととされているものその他の当該約束の締結が状況に照らし合理的であると認められるもの。

 この法律ができますと、たとえば、電力会社が通産大臣に対して値上げの申請のために提出した文書などが、イやロに当てはまらないとすると公開請求の対象になります。イは通産省が持っている電力会社の資料にノウハウ的なものが含まれていて、それを開示することでその電力会社の競争上の地位が害される恐れがあるという場合には開示しなくてよいということです。

 ロのほうも実際にはかなり多いと思われますが法令に基づかないで行政機関からこういう資料を持って来てほしいと頼まれて持っていくような場合に、これからは「公にしないでほしい」と頼んでおかないと公開されるということです。

 しかし、頼んでおけばすべて非公開になるというのではなく、通常は公にされないものであるとか、公にしないと約束することに合理性がある場合は、頼んでおけば不開示にするということです。企業との関わりでここが一番大きなところです。


情報公開と広報活動
 情報公開法については地方自治体ではかなりのところですでに制定されていて、昨年の4月1日現在で、47都道府県のうち44都道府県で制定されています。市町村を含めると、315に上っています。これらの制度化の先駆的役割を果たしたのは神奈川県です。私も組織的な検討の委員を務めまして、今まで地方公共団体が行ってきた広報あるいは情報提供と情報公開法との関係をどのように整理するかということをかなり議論しました。

 企業のばあいも広報活動については情報提供施策に対応するものととらえられると思いますがその部分を情報公開条例のなかでどう位置づけるか、神奈川県と東京都の条例で見ていくことにします。

■神奈川公文書公開条例
 「情報公開と情報提供は車の両輪である」という理念から、「神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例」(昭和57年10月14日公布、昭和58年4月1日施行)についても義務的開示を中心に据えながら、情報提供をも重視する制度として定められています。 神奈川県公文書公開条例16条は、「実施機関は、県民の生活の向上と充実を図るため、必要な情報を県民に積極的に提供するよう努めなければならない。」と規定しています。この規定を基礎にそれ以前から充実に努めてきた「広報」をさらに拡充しようとしています。

 神奈川県の文書(平成6年度かながわの情報公開・個人情報保護運用状況報告書)では情報提供システムの内容について16条をふまえて、「県民の生活の向上と充実を図るため、県民が知りたいと願う多くの情報を積極的に提供する体制を整備する必要があります」とした後、「情報提供システムは県政への理解と参加の促進をその目的としており、情報の受け手である県民の立場に立って、『分かりやすく』『使いやすく』『参加しやすい』という3つの原則に基づいて、簡明で的確な情報を提供するよう努めています」と述べるとともに、「情報提供システムは、『窓口』『広報』『行政手続』の3つの方法に分類されます」と述べています。

■東京都の場合
 東京都の条例では、まず第1条で「この条例は、公文書の開示を請求する都民の権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって都民と都政との信頼関係を強化し、地方自活の本旨に即した都政を推進することを目的とする」と、情報公開の総合的な推進についても定めています。

東京都情報連絡室「情報公開事務の手引(再訂版)」で次のように説明しています。
 「公文書公開制度は、民主主義の発展に大きな影響を持つものであるが、制度上の限界もある。すなわち、都民が請求しない限り開示されないこと、また、開示の対象は、公文書そのものであり、分かりやすく加工された情報ではないことから、必ずしも都民にとって理解しやすいものではないこと、さらに、請求者にのみ提供されるということから、その広報的効果は期待できないことなどである。そこで、条例は、公文書開示制度を設定するとともに、各種の情報提供施策や情報公開制度の充実に対する実施機関の努力義務を定め、情報公開を総合的に展開することによって、都政に関する性格で分かりやすい情報を都民が迅速かつ容易に得られるようにしようとするものである。」このように東京都では神奈川県での議論を踏まえより広く捉えています。

 こういった地方自治体において行われてきました議論は、そのまま企業広報にもあてはまるものではないかと思います。

(本稿は97年1月9日経済広報センターの研究会で講演されたものの抄録です)


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