文書No.
970518
97/ 5/19 日経金融新聞
(1)我が国証券市場には、巨額な金融資産の運用と内外の資金需要への資金配分の双方を、効率的かつ公正に行う役割が求められている。したがって、我が国証券市場の改革は、証券市場がこのような役割を十分適切に果たせるようにするものでなければならない。 (2)資産運用・資金調達が「効率的」に行われるには、競争原理の導入が不可欠である。具体的には、市場に参加する運用者及び調達者の双方に対して多様な選択を行う自由が保証され、競争原理の下で市場仲介が行われる必要がある。市場仲介者には、魅力ある商品及びサービスを提供するために可能な限りの自由度が与えられるべきである。その一環として、市場仲介者には、市場参加者のニーズに最も適した取引の場を選択し、取引を効率的に執行することが許容されるべきである。これらを通して、市場参加者は効率的な市場の成果を享受することとなろう。 今後、国内の様々な証券市場では、市場参加者の多様なニーズにこたえ、いかに魅力ある取引サービスを効率的に提供しうるかについての競争が支配的とならなければならない。この場合、市場が提供しうる取引サービスとしては、高い流動性の提供による容易な価格発見と安定した価格形成、価格形成過程の透明性向上、取引コストの低減、決済リスクの削減、取引の公正性確保等が含まれる。このようなサービスの提供を巡って国内各市場間での競争が促進されれば、我が国市場全体としての競争力強化が図られ、国際的に見ても我が国市場は魅力あるものとなっていく。 市場間競争を促進するに当たっては、特に取引所市場や店頭登録市場といった制度化された市場の取引の枠組みを抜本的に見直し、それぞれの市場がそれぞれの機能をより発揮していけるようにする必要がある。これら制度化された市場の間では上場・登録企業を獲得するための競争も展開されることとなろう。他方、これらの市場以外での取引の役割も増大することが予想され、制度化された市場との間で取引執行の場を巡る競争が展開されることとなろう。 (3)資産運用・資金調達が「公正」に行われるには、信頼できる取引の枠組みの確立が不可欠である。この観点から、参加者が一定のルールに基づいて取引を行う取引所市場や店頭登録市場は、ますます大きな意義を持つこととなる。これらの市場が期待される機能を更に一層発揮していくには、取引決済システムの整備をはじめとする証券市場のインフラ整備が極めて重要である。殊に、通信・情報技術の高度化に対応し、グローバル・スタンダード(国際的に事実上成立している基準)と整合的な形での取引決済システムの整備は喫緊の課題である。 また、市場間競争の活発化に伴い、制度化された市場以外の市場、すなわち未上場・未登録株式を取り扱う市場や証券取引の電子化に対応した市場あるいは様々な証券化商品市場の整備が求められてくる。このため、これら新しい市場での公正な取引を担保するためのルール整備等が必要となる。更に、市場の公正性の確保のためには、市場ルールの整備だけでなく、ルール違反に対する、行政及び自主規制機関の厳正な対応が求められる。証券市場の自由化の中で、監視、検査の果たすべき役割はますます大きくなっており、その体制の整備も必要である。
証券市場改革に当たって、競争促進は不可欠な要素である。競争は、市場仲介者間のみならず市場間においても促進される必要がある。市場参加者及び仲介者が、それぞれの取引ニーズに合わせて、最もふさわしい取引の場を自由に選択できるようにすべきである。そのためには、会員証券会社に対して上場有価証券の取引を取引所において執行することを義務づけている取引所集中義務は、その撤廃を含め、抜本的に見直す必要がある。このことは、とりも直さず、取引所市場のあり方そのものを抜本的に見直すことを意味している。 取引所集中義務は、取引所市場に厚みを与えるとともに、公正な価格形成に資することを目的として設けられている。戦後の我が国証券市場、なかんずく株式市場においては、この取引所集中義務の下で取引所に需給を統合することにより公正な価格形成、取引の円滑化が図られてきた。市場の信頼を高めていく必要性は、今後ますます高まっていくものと考えられるため、取引所市場のあり方の見直しに当たっては、公正な価格形成機能を阻害するようなことがあってはならない。
第一に、前述の通り、市場間競争を促進する観点から、証券会社の取引の執行を行う場を制約している規制を、その撤廃をも含め、抜本的に見直していく必要がある、との指摘が強まっている。 第二に、市場における機関化現象の進展に伴い、株式注文の大口化やバスケット化が進む等投資家の取引ニーズが一層多様化してきている。また、取引コスト削減、即時一括執行、匿名性等を求める動きも高まっている。このため、現在の取引所の取引システムにおいては効率的な執行が難しい取引形態が増加してきている。例えば、機関投資家が取引所において大口の売買注文を発注した場合、注文約定に相当の時間を要する(時間リスク)ほか、約定価格もあらかじめ想定できない(価格リスク)という指摘がある。また、機関投資家が一度に複数銘柄をまとめて取引するバスケット取引を注文しようとした場合、取引所においては一括した取引執行が困難であるとともに、バスケット全体としての約定価格をあらかじめ想定できないという指摘もある。したがって、取引所は、このようなニーズにこたえていくため、取引所集中義務を弾力的に見直していく必要がある。 第三に、通信・情報技術の発達に伴い、従来の取引所の枠組みを超えた取引の出現に備える必要が生じている。各種の市場情報が容易に入手できるようになれば、市場へのアクセス度も高まり、市場参加者による取引手法の選択の範囲は急速に広がろう。また、取引所非会員の証券会社が取引所定款に拘束されずに自由に新たなニーズにこたえるための取引を行っていくことが予想され、会員証券会社との間でアンバランスが生じる懸念も指摘される。更に、今後、電子媒体を利用した私設市場が開設される可能性をも踏まえた市場インフラやルールを整備していく必要性が高まっている。 第四に、証券取引の国際化が進展するのに伴い、国内で執行しにくい取引は簡単に国外へ流出していく可能性が高まっている。平成10年4月からの実施が予定されている外為法改正による自由化は、そのような国際的な市場間競争を一層加速するものと思われる。したがって、取引所集中義務のように、国内の市場仲介者を通じた取引の手法に制約を課している制度は、速やかにそのあり方を見直し、我が国証券市場を国際的に見て、利用者にとって魅力あるものとしていくためには、取引所市場の効率化を進めていく必要がある。
第一は、現行の取引所内における取引システムの見直し及び所要の改善である。具体的には、例えば、大口・バスケット取引に対応した売買制度の導入、立会時間外の取引需要に対応するための終値売買制度の導入や立会時間の延長等が検討対象となろう。これら取引所内取引システムの改善については、取引所が主体性を持ち、投資家及び会員証券会社のニーズに対応して適切な改善措置を講じていかねばならない。 第二は、取引手法の一層の多様化を図るためには取引所内の取引システムの改善だけでは不十分であり、取引所外取引を認める方策である。この場合、個人投資家を含む幅広い投資家が安心して市場に参加できるようにする観点から、取引所集中義務の考え方は残し、取引所外取引は大口・バスケット取引等の新たなニーズに限定して認めてはどうかとの考え方もあろう。しかしながら、取引所集中による公正な価格決定の意義は認められるとしても、市場間競争を徹底させるためには、現在定款により課されている義務を撤廃することが必要である。これにより、個人投資家による取引を含め、全ての投資家による取引について取引所外取引を認めることが適当である。 第三は、新たに取引所外取引を認める場合、取引所外での取引において執行される価格と取引所における価格との関係についての整理である。取引所外取引において独自の需給関係による価格形成が行われる場合、それは公正かつ透明に行われる必要がある。そのためには、取引所外取引を行う証券会社に対して、常時、気配を提示し、各社・各取引所の気配をシステム的にリンクした上で、顧客の注文を最良の価格で執行する義務を負わせることが前提条件となる。しかしながら、このようなインフラを整備するためには多大なコスト及び相当の準備期間が必要となる。また、取引所外取引への需給の分散が主たる市場である取引所の流動性を低下させ、むしろ公正な価格形成が阻害される惧れもある。したがって、将来的には我が国証券市場のあり方としてそのようなシステムを構築した市場という選択肢もありうるものの、我が国の現状からすれば、当面、取引所の価格形成機能を最大限活用した枠組みの構築の方が効率的かつ望ましいと考えられる。 第四は、取引所外取引を認める場合、投資家保護の観点から取引の公正性確保の面での手当てである。従来は、取引所集中義務によって取引執行を取引所に集中させることで、競争原理を働かせた公正な価格決定が確保されると考えられていた。しかし、情報伝達手段が高度に発展した今日においては、むしろ重要なのは価格情報の報告・集中・公表であって、取引執行の取引所への集中ではない。したがって、取引所外取引を認めた場合には価格情報の報告・集中・公表が不可欠な要素となる。また、取引所外取引に対しても公正取引を担保するためのルールが課されることが必要である。
(1)取引所定款における取引所集中義務は削除されるべきである。但し、これは公正 な価格形成を行う上で取引が取引所に集中することの意義を否定するものではない。 (2)取引所外取引を行う際の取引価格は、立会時間中については、価格の公正性を確保するため、取引所における当該銘柄の価格の一定範囲内とする。具体的には、今後の検討課題であるが、例えば小口取引では最良気配の範囲内、大口取引では直近時価の上下数%以内という考え方がとられるのが適当である。この際、大口等の定義は平均的な取引量に照らして銘柄ごとに決められることが適当である。なお、立会時間外に取引所外で行われる取引の価格については、特段の制限を設けないこととするべきとの意見もあるが、今後、実務的に検討を深める必要がある。 (3)取引の公正性・透明性を確保する観点から、証券会社は投資家に対して、取引態様(取引所内か仕切売買か等)を説明し、投資家が仕切売買を明示的に希望した場合にのみ、仕切売買で執行するものとする。 (4)また、証券会社は、取引所外取引の内容(価格、約定数量、時間等)を直ちに自主規制機関に報告する義務を負う。自主規制機関は、取引内容を原則として直ちに公表することとする。なお、報告の方法及び内容並びに情報の公表方法等については、今後、実務的に検討を深める必要がある。(5)取引所外取引についても取引所取引と同様の公正取引ルールを整備するとともに、売買停止等の緊急措置の実効性を確保する等所要の法整備を図ることとする。
この場合、新たな取引システムが、取引所と同程度の高い価格形成機能を有したものとなれば、そのようなシステムは、当然、取引所としての規制を受ける必要があろう。しかしながら、当面、このようなシステムでは、基本的に取引所の価格形成機能を活用し、取引所と同程度の高い価格形成機能は有しないと考えられるので、取引所ではなく、証券業として整理することが適当となる。但し、不公正取引を防止する観点から、これらについても、証券会社としての規制に加え、取引が行われる場としての性質に応じた最低限のルールは課される必要がある。また、そのような手当てが講じられたものについては、証券取引法上において開設を禁止している「有価証券市場に類似する施設」には該当しないとの立場を法律上明確にすることが適当である。 なお、経済的に見れば有価証券市場の定義は広く考えられるべきであろうが、証券取引法上、有価証券市場とは取引所における取引であると限定して定義されている。今後、有価証券取引が行われる場が取引所以外にも広がることが予想されるため、このような規定振りを見直す必要性につき検討を深めることが適当である。
(1)株式店頭登録市場(以下、「店頭市場」という)は、取引所市場と並んで、我が国の制度化された証券市場の一つとして重要な役割を果たしてきている。今後、21世紀の高齢化社会において我が国経済が活力を保っていくためには、次代を担う成長産業への資金供給がこれまで以上に重要となってくることが予想され、店頭市場は、この面で一層大きな役割を果たすことが期待されている。 (2)店頭市場については、昭和58年の証券取引審議会報告において、取引所市場の補完的機能を果たしていくことが適当であるとされた。しかしながら、その後、転換社債の発行等各種ファイナンスの手段が店頭登録銘柄企業にも解禁されるとともに、株価操作やインサイダー取引規制等不公正取引規制も店頭市場に適用されるようになっている。また、株式店頭市場システム(JASDAQシステム)の導入等により、店頭市場の市場機能も相当程度強化されている。更に、流通市場の規模においても、店頭市場は今や東京証券取引所第2部市場と匹敵するものとなっている。 (3)このような店頭市場の現状を踏まえると、店頭市場が取引所市場の「補完」とされてきた位置づけを見直すことが適当である。これにより、両市場間の健全な競争を通じて、全体として公正かつ効率的な市場の実現が図られるべきである。その際、競争売買(オーダー・ドリブン)を基本とする取引所市場に対し、店頭市場においては、マーケットメイク機能(自己売買による流動性供給機能)を活用した特徴的な市場を目指すといった方向性が明らかにされることが望ましい。 (4)店頭市場の流通面の現状については、株式の公開後に流通量が乏しくなり、取引リスクが大きくなるケースが多いことが指摘されている。したがって、店頭市場が、期待された役割を十分に発揮していくためには、店頭市場における流通面の改善に向けて具体的な機能強化策が講じられる必要がある。この点に関しては、日本証券業協会において、 (1)信用取引制度、(2)発行日取引制度及び(3)借株制度の導入について検討が進められ、本年3月に、これらに関する要綱が決定されたことが歓迎される。今後、これらの措置ができるだけ早期に実施に移され、店頭市場の需給の厚みと流動性を増加させ、市場の効率化・活性化に資することが期待される。 (5)また、店頭市場がその特徴を活かしながら、取引所市場との間で健全な競争を行っていくためには、証券会社のマーケットメイク機能の拡充が必要である。店頭市場における借株制度の導入は、そのための環境整備として歓迎すべきものである。また、今後とも、日本証券業協会において、現行の登録銘柄ディーラー制度について、その運用の実態を踏まえ、所要の見直しを進めることが必要である。なお、証券業務の多角化の中で、ディーリング業務(売買)をブローカレッジ業務(取次)の補完としている位置づけが見直されれば、証券会社のディーリングに対する意識の変化が進み、マーケットメイクの一層の活発化が期待できる。 (6)更に、現在、取引所市場においては証券及び資金の決済がネットベースで行われているのに対し、店頭市場においては個別受渡決済で処理されている点も見直す必要があろう。店頭市場の売買高の増加傾向を踏まえ、日本証券業協会による積極的な取組みにより、受渡決済の簡素化・合理化が図られることが期待される。 なお、店頭市場については、もともと公正な価格形成を担保するための制度が整備されている。したがって、仮にネットベースでの受渡決済制度を導入しても、証券取引法が開設を禁止している「有価証券市場に類似する施設」として想定しているようなものには該当しないと考えられる。しかしながら、店頭市場における取引は今後一層高度化すると見込まれ、この際、日本証券業協会が運営する店頭登録市場を本規定の適用除外とするための法的手当をとることが適当である。一方、決済不能が生じた場合の処置として、日本証券業協会において、損失補償制度等について十分な手当てを検討しておく必要がある。 (1)現在、未上場・未登録企業の株式については、相対的にリスクが高いにもかかわらず十分なディスクロージャーが行われていないものが多い等の事情により、証券会社の投資勧誘や公募の取扱いが日本証券業協会規則によって禁止されている。このため、未上場・未登録株式の流通の現状としては、上場・登録廃止となった銘柄や株主優待がある地方の鉄道・バス会社等について、証券会社が積極的に勧誘は行わず、気配値段の公表と受け身の取次ぎを行う形での取引が行われているにとどまっている。 (2)しかしながら、今後、我が国証券市場が多様な資金調達・運用ニーズに対応していくためには、米国のような多重構造の市場を確立していくことが重要である。創業段階のべンチャー企業を含む未上場・未登録企業の株式は、上場株式、店頭登録株式に比して、相対的にリスクが高いと考えられる。他方、これら企業の資金調達ニーズに適切に対応して、円滑な資金供給を行うとともに、資金運用者に対して当該株式の流通の場を提供し、資金回収の機会を与えていくことは、今後の証券市場に期待される重要な機能の一つである。また、証券会社が、これら企業の資金調達に早い段階から関与していくことは、証券会社の業務を多様化・差別化していく観点からも意義があると考えられる。 (3)このような観点から、証券会社による未上場・未登録株式の取扱いについては、発行・流通両市場における所要の環境整備を図った上で、これを認めていくことが適当である。具体的には、適切なディスクロージャー、取引の公正性の確保及び適切な価格情報の提示についてのルール整備等が必要となろう。 (4)具体的なルールについては、今後、日本証券業協会を中心に実務的な検討が進められるべきであるが、おおむね以下の点を骨子とすることが適当である。 (1)ディスクロージャーについては、証券取引法上の継続開示会社については有価証券報告書によることとする。一方、有価証券届出書又は有価証券報告書の提出が義務付けられていない企業については、日本証券業協会規則において、証券会社に対し、当該企業の株式の投資勧誘を行う際には、公認会計士の監査がなされた財務諸表等の投資情報の提示を義務付けることとする。また、その際は、相対的にリスクが高いと考えられるため、証券会社が適合性原則の観点から当該株式の内容を十分理解でき、そのリスクに耐えうると認める投資家を対象にすることとする。 (2)不公正取引防止については、証券取引法等による現行規制で対応することとするが、協会規則について現行規定を必要に応じ整理することとする。 (3)価格情報の提示については、証券会社が投資勧誘に併せて気配情報(価格情報)の提示を行う際、協会規則において、証券会社が提示する価格情報に関し、当該情報の素性(だれが提供している情報か、いつの時点の情報か、気配か成立した価格か否か等)を明示することを新たに義務付けることとする。 (5)なお、未上場・未登録株式の5億円未満の募集等については、現行証券取引法上ディスクロージャー義務はかからないこととなっている。しかしながら、今後、インターネット等による不特定多数の者を対象とした投資勧誘が増加することが考えられ、これらについては、相対でなく公衆縦覧を前提としたディスクロージャー制度を行政において新たに検討することが適当である。この場合には、証券会社による5億円未満の未上場・未登録株式の投資勧誘についても、同様の取扱いを検討することが適当である。(6)更に、このような市場の整備は、将来的には様々な証券化商品の取引も視野に入れることができよう。 (1)証券市場が円滑に機能するためには、市場の透明性及び市場参加者の利便性の向上を図る観点から、市場情報は広く市場参加者に対し正確かつ迅速に伝達される必要がある。その意味で、取引・気配情報は、公共財的な性質を色濃く有しているといえる。 (2)我が国取引所市場では、相場報道システムを通じて、約定価格、約定数量のほか、四本値(始値、高値、安値、終値)、前日比、最良気配、売買高の情報が提供されている。一方、店頭市場においては、JASDAQシステムの情報伝達システムを通じて取引所市場と同等の情報が提供されている。現行の市場情報の提供範囲は、諸外国の状況に比べると複数の気配や注文数量が公表されていない等の面で狭くなっており、投資家の多様なニーズ、通信・情報技術の高度化等を勘案すれば、必ずしも十分なものとは言いがたい。 (3)したがって、投資家に対する取引・気配情報の提供範囲の拡大を図っていく必要がある。具体的には、諸外国の例を参考にし、最良気配を含めた複数の気配とそれぞれの注文数量の公表が行われることが適当である。 (4)また、いわゆる板情報等のより詳細な情報の伝達範囲は、現状では、会員証券会社のいわゆる場電店(取引所に近接した営業所1ケ所)に限られている。しかしながら、不公正取引等の増大や投資家間の情報格差の拡大の可能性に配慮しつつも、時代のニーズや投資家の利便性向上の観点から、詳細情報の伝達の範囲の拡大を検討すべきである。具体的には、投資家からの問い合わせ等に迅速に対応できるよう、少なくとも会員証券会社のあらゆる支店までは板情報等のより詳細な情報の伝達を認めることが適当である。 (5)取引・気配情報へのアクセスの改善は、取引所等が投資家ニーズを踏まえ、会員証券会社の合意に基づき自主的かつ積極的に取り組んでいくべきものである。しかし、取引所集中義務撤廃後のスキームにおける価格情報の報告・集中・公表の重要性等にかんがみれば、情報の公共財的重要性は一層高まるものと考えられる。したがって、今後、証券取引法においても、情報提供義務に関する規定を整備する方向で検討を進め、市場の透明性及び市場参加者の利便性向上を図ることが適当である。 証券市場の機能向上のためには、通信・情報技術の高度化に対応しつつ、グローバル・スタンダードと整合的な形で、取引・決済制度等証券市場のインフラ整備を図る必要がある。
(1)注文発注・執行の効率化 (2)証券決済制度の整備証券決済制度は、証券市場全体に関わる極めて重要なインフラである。殊に近年、決済リスクに対する認識の高まりを反映し、証券決済制度の効率性、安全性の高さが各国証券市場の競争力を左右する重要な要素となっている。我が国証券市場の競争力を高めるためには、証券決済制度の一層の整備が喫緊の課題である。 特に株券の決済について言えば、証券決済制度に関するグローバル・スタンダードであるG30勧告(昭和63年)において、決済リスクへの対応という観点から、(1)証券決済を現物を伴わない口座振替方式とすること、(2)毎営業日決済(ローリング決済)を行い、約定後できるだけ短期間で決済を完了すること、及び(3)資金と証券の同時決済(DVP)を行うことが重要な柱とされた。 我が国においては、株券等の受渡しは〓証券保管振替機構による口座振替が可能である。だが、現状では、同機構への株券の預託残高は発行済株式数の15%程度にとどまっている。また、株券の決済は、売買日から起算して4営業日目(T+3)のローリング決済となっており、G30勧告を達成してはいるものの、決済リスク低減の観点から、決済期間の一層の短縮が求められている。更に、資金の受渡しは小切手の授受によって行われており、即日資金化は実現していない。 このため、グローバル・スタンダードを念頭に置き、取引コストに配意した効率的かつリスクの少ない決済制度を計画的に整備していく必要がある。具体的には、決済リスク低減の観点から、決済期間(約定から決済までの期間)の短縮及びDVPを図っていくことが重要である。また、取引所における資金決済については、早急に即日資金化の実施を図る必要がある。更に、証券取引の電子化を進め、これらの実現を図る観点からすれば、決済のペーパーレス化の実現が不可欠である。このためには、保管振替制度の一層の利用促進が図れるよう、株券等の保管及び振替に関する法律の改正を含め、行政において所要の対応が図られるべきである。 また、社債受渡し・決済制度については、「社債受渡し・決済制度研究会」の報告を受けて、市場関係者によりオンライン・ネットワーク化のための準備作業が進められている。既に、ネットワークの核となる中継機関「(株)債券決済ネットワーク」が設立され、本年12月にはネットワークが稼働する予定である。今後、準備作業が着実に進められるとともに、将来の一層の発展に向けて、同制度について更に改善・検討が加えられることが期待される。 更に、欧米では、いわゆるフェイルのルール化(決済遅延が生じた場合の当事者間における事後処理方法のルール化)が債券取引及び決済の円滑化・効率化に寄与しているといわれている。我が国でも、即時グロス決済(RTGS)方式の導入、DVP化の一層の推進等、所要の条件整備を行った上で、フェイルのルール化が図られることが望ましい。この点については、今後、市場関係者間における具体的な検討が望まれる。 なお、今後、中長期的な観点から我が国の証券決済制度の整備を図っていくことも必要である。その際には、国際的な動きを見据えながら、株券か債券か、あるいは、取引所取引か店頭取引かにかかわらず、より包括的な清算・決済を行うための仕組みの構築を視野に入れ、全ての関係者が積極的に取り組むことが重要である。 (1)証券市場が多様なニーズに対応して市場機能を効率的に発揮していくためには、厚みのある貸株市場を整備し、株式の流動性を向上させる必要がある。 (2)これに対し、これまでの我が国における貸株は、証券金融会社による信用・貸借取引帝制度を中心として行われている。この制度は、個人投資家を主たる対象とした信用取引の円滑な運営を念頭に置いて構築されているものであり、市場に厚みを与え、株式の円滑な流通に寄与している。具体的には、証券金融会社による貸株の一元的管理及び食い合いを前提とすることにより、少ない貸株可能株数の下でも、通常は事前の規制を行うことなく、品賃料ゼロで顧客の借株注文に応じることができる形となっている。このような信用・貸借取引制度に対しては、個人投資家を中心として、引き続き強い取引ニーズがあると思われる。しかし、今や、この枠組みに納まらない貸株・借株ニーズが出現してきており、このようなニーズに対応していくことが証券市場の一つの課題となっている。 (3)例えば、証券会社のマーケットメイク機能やディーリング業務の活発化等に伴い、証券会社による証券金融会社を通じない借株及び証券会社間の貸借ニーズが高まっている。また、機関投資家においては、保有株式の一部を貸株として運用するニーズが増大している。更に、投資家サイドからすれば、事後的に品貸料が発生しうる現行の信用・貸借取引とは異なり、事前的にコストを確定しうる借株へのニーズも高まっている。 (4)現行の信用・貸借取引の枠組みに納まらない貸株・借株ニーズを満たすには、まず、証券会社による機関投資家等からの借株や証券会社問の貸借の自由化が必、要である。その上で、証券会社による対顧客向けの貸株についても、事前的にコストを確定しうる借株ニーズにこたえるため、これを導入することが適当である。 (5)信用・貸借取引の枠外の取引については、市場の公正性・透明性確保の観点から、担保の徴求・値洗いの励行、取引状況等に関する適切な情報提供等が図られることが望ましい。今後、貸株市場の具体的整備に向けて、この点を含め関係者間で実務的な検討が進められることが期待される。また、その際、証券取引法において保証金率の下限を画一的に定めている現在の規定について、見直すことが適当である。 (6)なお、貸株が増加した場合、信用・貸借取引に流れる株券が減少し、証券金融会社による貸林制限措置の頻発、品貸料の上昇等が生じ、信用・貸借取引制度の機能が低下しかねないとの指摘がある。これらについては、信用・貸借取引制度の側で対応していくことが適当である。具体的には、証券金融会社において、株券調達ルートの拡大や貸株停止等の措置の弾力的な発動等について実務的な検討が十分行われるべきである。 (7)また、貸株市場の整備によって、信用・貸借取引の枠外における貸株が増加した場合、従来から信用・貸借取引制度を運営してきた証券金融会社の業務について見直しを行う必要も出てこよう。これには、証券取引法の関連規定を見直すことにより、証券金融会社の経営の自由度を高めていくことが適当である。 証券市場が企業の資金調達に当たって期待されている役割を適切かつ効率的に果たしていくためには、株式等の発行市場における諸規則・諸慣行について不断の見直しを行っていく必要がある。具体的には、以下の2点につき見直しが求められている。
現行方式に対しては、公開価格が一般投資家による入札結果等に基づき決定されるものの、入札が公開株の一部についてのみ行われること等もあり、発行済株式数全体の需給を反映したものとはならず、そのため、公開価格が高く設定されがちであり、公開後の円滑な流通に支障をきたすことがあるとの問題点が指摘されている。また、公開の迅速性の点でも問題があるといった指摘がなされている。 一方、公開価格決定方式としてブックビルディング方式(引受証券会社が投資家の需要を積み上げ公開価格を決定する方式)には、以下のようなメリットがあると考えられる。 (1)発行市場だけでなく公開後の流通市場まで勘案した需要の積上げによる公開価格決定が可能となり、株価に対する投資家の信頼感を高めることができる。また、長期投資を目的とする機関投資家による市場参加を促すことにより、市場の効率化・活性化も期待できる。 (2)引受証券会社が自ら主体的に公開価格の決定に関与する結果、公開後も流通市場においてマーケットメイク機能をより積極的に発揮することが可能となる。これにより、公開後の売買高の低下を回避し、流通市場の活性化を図ることが期待できる。 (3)引受証券会社がアンダーライター機能(引受機能)をより一層発揮し、それを通じて、流通市場におけるマーケットメイク機能をより積極的に発揮することができる。この結果、引受証券会社による多面的で自由な競争が促進され、市場の効率化に資すると期待できる。 (4)現行方式に比べ手続が簡素となり、公開日程の短縮が可能となるとともに、需要動向に応じた弾力的な発行も可能となる。 (5)欧米でも一般に行われている公開方法であり、グローバル・スタンダードに合致している。 また、ブックビルディング方式を導入する際、以下のような措置を講ずることにより、価格決定の公正性・透明性及び配分の公平性についても十分配意することができる。このため、従来から実施されている配分ルールは、ブックビルディング方式の下では適用しなくても良いのではないかと考えられる。 (1)価格決定の公正性・透明性の観点から、価格決定の過程を有価証券届出書においで開示させるとともに、公開後の流通市場の状況を取引所や日本証券業協会が公表する。これにより、その良否を投資家や発行体が容易に判断できるようにする。 (2)配分の公平性の観点から、引受証券会社の販売方針を有価証券届出書において開示させるとともに、販売先リスト等の証拠書類の保存を十分な期間義務付ける。これにより、行政及び自主規制機関による事後的チェックを可能とする。 以上の諸点にかんがみ、公開価格の決定方法として新たにブックビルディング方式の導入を図ることが適当である。これにより、証券市場の一層の効率化・活性化が図られるものと期待される。 なお、ブックビルディング方式を導入した場合においても、現行方式と併存させ、いずれの方式を採るかについては、発行体と引受証券会社がそれぞれのニーズに応じて判断できるようにすることが望ましい。その結果、関係者の選択の自由が認められることを通じて競争が促進され、この面からも証券市場の効率化に資することが期待される。
現在、取引所は、有価証券、有価証券指数又はオプションを上場しようとするときは、証券取引法上、大蔵大臣の承認を受けなければならないとされている。しかしながら、このような大蔵大臣による承認手続は、取引所による審査に加えて行われているため上場手続の効率化を図る上で問題となりかねない。また、このような制度が存在すること自体、行政の予防的な関与に対して過度に依存する傾向をもたらし、投資家の自己責任原則を醸成していく上で障害となる倶れもある。更に、株式の店頭登録が大蔵大臣への事後届出制とされていることとのバランス上も問題があるとの指摘もなされている。 したがって、取引所において有価証券の上場規程があらかじめ明確に定められている場合には、大蔵大臣に対する事後届出制として、個別の審査については取引所にゆだねることが適当である。 一方、有価証券指数やオプションの上場に当たっては、これらは取引所自らが組成するものであり、また、あらかじめ一定の上場規程を定めることが困難であると考えられる。したがって、これらについては、取引所における市場管理が適切に行われるよう、引き続き大蔵大臣によるチェックを上場承認という形で行う必要があるのではないかと考えられる。なお、その際は上場承認基準の明確化を図るとともに、上場承認手続の迅速化にも配意すべきである。 その他、有価証券の上場に当たっての上場申請書類については、その徴求基準の明確化・簡素化が図られているところであるが、今後とも発行会社の負担軽減に配慮し、取引所において様々な努力が続けられるべきである。
具体的には、証券会社の業務範囲の拡大、インターネットをはじめとする電子取引の利用の拡大、あるいは有価証券関連店頭デリバティブ取引の発展等に見られる取引形態の多様化等に対応して、利益相反行為の防止、相場操縦禁止やインサイダー取引規制等について、関連規定を整備・強化していく必要がある。 また、証券取引法の行為規制違反に対する罰則について、国内他法規とのバランスや米国等先進諸国の状況を踏まえ、投資家に信頼される市場を整備する観点から、より充実する必要がある。特に、罰則が軽過ぎるとの指摘が多いインサイダー取引規制について、罰則の強化を図ることが必要である。なお、行為規制の見直しに際しては、徒に市場を委縮させることのないように配慮することが必要である。
今後、自由化の進展の中で、証券会社の業務め多角化、有価証券関連店頭デリバティブ取引に関する制度整備、未上場・未登録株の取扱いの解禁等によって、証券市場における取引形態は多様化する。また、取引所外取引の出現や証券取引における電子媒体の利用の活発化も予想される。このような多様な取引形態の広まりに対応して、市場の公正性を確保するための監視機能の果たすべき役割はますます大きくなる。 このような市場監視機能の強化の要請にこたえるために、検査・監視当局の人員増強、ノウハウの蓄積等、その体制の整備を図ることが必要である。体制の整備は量的な側面だけでなく質的側面においても求められる。これまでにない新しい取引分野における市場監視のためには、証券市場の自由化に適応した検査・監視手法を確立していくことが求められる。また、証券会社の取り扱う商品の多様化・高度化に対応して、検査、監視手法の高度化が求められるとともに、リスク管理体制のチェックを含む財務検査の重要性も高まるものと考えられる。 また、日本証券業協会及び証券取引所の自主規制機関としての協会員等に対する監視機能は、平成四年に自主規制機関の機能強化の一環としてその充実が図られた。米国や英国では自主規制機関の監視が公正な競争の維持・促進に大きな役割を果たしており、 我が国においても、自主規制機関の監視機能の一層の充実が望まれるところである。 なお、当局と自主規制機関は、それぞれの目的に応じた検査、監視等を行うこととなるが、対象となる者に過大な事務負担を強いることのないよう検査内容の調整等について配慮することが必要である。
我が国では、現在、証券会社と顧客との紛争処理について、証券取引法上、行政による仲介及び日本証券業協会の苦情処理の規定が置かれている。これに加え、日本証券業協会は、定款であっせん・調停制度を定めている。今後は、米国や英国の例を参考に、証券取引に関連する紛争処理の制度について、自主規制機関のあっせん等を法制化し、当事者間の和解のための処理スキームをより一層充実させていくことが必要である。更に、紛争処理制度の確立の観点から制度を一本化し、実績を上げることが求められるため、自主規制機関の紛争処理制度の充実に併せて行政による仲介を廃止することが適当である。その際、紛争処理制度の損失補填との関係に留意し、自主規制機関によるあっせん等の結果については、損失補填には該当しないものとし、事故確認を不要とするための規定整備が必要である。 (1)今後、投資家保護のあり方は、リスクから投資家を遠ざけるのではなく、リスクを周知することに力点が置かれるべきである。そのためには、個人投資家が自らリスクを理解する能力が重要であり、投資家の証券投資に関する知識等の充実に向けた投資家啓蒙活動がより大きな意味を持ってくる。 (2)こうした観点からは、自己の金融資産については自己の判断に基づいて運用する、との意識を若年層のうちから培っていくことが重要である。しかしながら、我が国においては、こうした投資家教育、更には広い意味での消費者教育により大きな努力を注ぐ余地がある。 米国においては、初等教育段階から、資本市場の役割、政治・経済情勢と株価の関係、証券投資のリスク等について学習させているなど、証券教育が充実している、といわれている。我が国においても例えば、経済に関する教科書の記述において、企業の資金調達の場としての市場の役割に加え、個人の資産運用の場としての観点も触れることなどを通じ、若年層に対する証券教育を拡充していくことが有益ではないか、との指摘がある。 (3)証券界においては、PR資料の作成・配付をはじめとする投資家向け啓蒙活動及び副教材の作成・配付や教師向けセミナーの開催をはじめとする証券教育の推進の努力が払われている。こうした地道な取組みを今後とも引き続き行っていくことは重要であるが、これに加え教育関係者の理解も得て、証券教育を含む広範な投資家・消費者教育の充実が図られていくことを期待したい。 (4)また、少人数が集まり、株式等に関する知識を学習し、その結果の実践として投資を行うことを目的とする投資クラブについては、小口資金での分散投資が容易となることに加え、自己の判断に基づく投資を理解することに資するものであると考えられる。こうした投資クラブについては、我が国においてはまだ初期的な段階であるが、今後ともその一層の定着に向けて、様々な取組みが行われることが望ましい。 (1)現行税制上、公社債の利子については、金融機関、証券会社、公共法人などの主体については源泉徴収が免除されているのに対して、個人、事業法人、非居住者などの主体は源泉徴収を受けている。 このため、公社債流通市場においては、利子の源泉徴収を受ける公社債(課税玉と呼ばれている)と、源泉徴収を受けない公社債(非課税玉と呼ばれている)が併存し、いわゆる課税玉については、源泉徴収を受けない主体から忌避され、流通性が劣るものとなっている。すなわち、(1)同一銘柄の公社債でありながら、課税玉と非課税玉とに市場が分断されている、(2)源泉徴収を受ける主体が公社債流通市場に参加しにくい状態となっている、といった問題が生じている。 (2)また、諸外国では、公社債利子については、海外からの資金流入を促す等の観点から、非居住者に対して原則は課税であっても、一定の条件の下で源泉徴収が免除されている国が多い。これに対して、我が国においては、一部の例外(民間国外債)を除き非居住者に対しても源泉徴収による課税が行われている。これが、我が国公社債が海外の投資家に保有されにくくなっている要因の一つとなっている。 (3)事業法人や非居住者など公社債流通市場の参加者層を広げ、公社債の流通を一層円滑化させ、ひいては公社債の発行コストの軽減を図るためには、税制がマーケットに対してできる限り中立であることが望ましい。こうした市場の活性化、効率化の観点からは、公社債利子課税のあり方を見直すべきであると考える。 (4)公社債利子に対する源泉徴収制度は、適正、公平な課税を確保する観点から設けられている制度である。公社債利子課税のあり方を見直す場合、公社債利子の課税漏れが生じるといった事態は避ける必要がある。そのための見直しの方策については、(1)公社債流通の円滑化の観点からは、利子に係る源泉徴収を廃止することが望ましいが、公社債利子に対する適正、公平な課税も重要な課題であり、米国のような納税者番号制度に基づく総合課税化を図るべきであるとの意見が出された。(2)他方、適正な課税の観点から個人に対する利子の源泉徴収制度の役割は大きく、源泉徴収制度自体は維持する必要がある。その上で、事業法人、非居住者の公社債流通市場への参加を円滑化する観点から、これらの主体に対する利子課税のあり方について検討を行うべきであるとの意見があった。 (5)非居住者に対する源泉徴収については、それを免除すれば、公社債利子に係る居住者と非居住者の課税のバランス、公社債利子とその他の所得に対する課税のバランスを失し、課税の公平、中立の観点から問題があるとの指摘がある。他方、公社債市場は内外の投資家、企業等にとって重要な資産運用・資金調達の場であり、その流通を円滑化し市場を活性化することは、グローバルな市場間競争への対応という観点からも、また経済全体に大きなメリットを与えるという観点からも重要な課題である。それゆえ、両者の関係をどのように考えるかが重要な論点となるが、公社債市場の活性化の観点からは、非居住者に対する課税のあり方について検討が行われることが望ましいと考える。 (6)公社債市場の更なる整備については、現在、流通市場の重要なインフラである社債の受渡し・決済制度の改善について精力的な取組みが行われている。こうした取組みとあわせ、公社債利子課税のあり方についても、適正、公平、中立な課税の観点をも踏まえつつ、公社債流通の円滑化のための適切な方策について行政において検討が行われることを要請する。
証券取引の電子化は、省力化による取引コストの低下、物理的・地理的制約の縮小による利便性の向上など、市場参加者に様々な利益をもたらすものであり、電子化が遅れることは、我が国証券市場の相対的魅力が低下することを意味する。また、グローバルに広がりつつある証券取引のネットワークから取り残されかねない。したがって、国際的な市場間競争の中で我が国証券市場が競争力を維持していくためには、積極的に電子化を進める必要がある。 この場合、情報伝達の確実性の確保、コンピュータへの不正侵入の防止等により、電子化がもたらすリスクに適切に対応する必要がある。
(2)クロスボーダー取引への対応、
(3)ディスクロージャー等の電子化への対応 投資家による企業情報へのアクセスを容易かつ迅速なものとし、発行会社による書類提出のための事務負担の軽減を図る観点から、証券市場のインフラ整備として、行政において、開示書類の提出から縦覧までを電子的に行うシステムの早期導入が図られるべきである。また、有価証券報告書等の他、目論見書や取引報告書等についてもペーパーレス化を推進する必要があり、行政においてはこれらの情報が電子媒体により提供される場合の要件や留意点を明確化していく必要がある。 なお、証券取引の電子化については、(財)資本市場研究会が設置した「証券取引の電子化に関する研究会(座長・神田秀樹教授)」において検討が進められ、平成9年4月10日にこれまでの検討成果を中間報告としてとりまとめたところである。今後、これを踏まえた一層の検討が必要となろう。
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