文書No.
970616
産経新聞 朝刊97年 5月29日 オピニオン
日本版ビッグバン(金融システム改革)に関連して、民間金融機関に二つほど注文をつけたい。日本版ビッグバンは規制緩和を手段に民間金融機関の競争力を高めるものであり、主役は言うまでもなく民間金融機関である。主役にはそれなりのプランや意気込みがあるものだが、今のところ、そうした動きはほとんど表に現れてはいない。 八〇年代に金融制度改革に直面した欧米金融機関がまず明らかにしなければならなかったのは、「どういう銀行を目指すのか」ということだった。日本の金融機関がそうした戦略的方針を掲げられないのは、不良債権処理問題というバブル時代の負の遺産に原因があるのだろう。 言うまでもなく、不良債権問題は自らの経営判断で行った貸し出しが回収不能になり、発生したものである。不良債権の多寡だけで一部週刊誌などが「経営上問題がある」と報じることも問題だが、庶民の立場からすれば「問題がある」と報じられた金融機関から、預金を引き出そうとすることは当然だ。 資金流出を防ぐには「どういう金融機関を目指すのか」を広くアピールするとともに、不良債権を処理して、一連の結果をディスクローズするしかない。一部には、そうした自ら努力すべきことを棚に上げて、「郵貯があるから資金シフトが起こる」などと主張する向きもあるが、これは全くナンセンスだ。 いまひとつは統計処理の問題だ。国内金利の低迷を背景に外為法改正論議とあいまって、外貨預金や外債への個人投資の急増が報じられている。ところが、この動きを統計データで確認しようとすると、たちまち壁に突き当たってしまう。 例えば、日本銀行公表の「個人貯蓄速報」では、外債や外貨預金を積極的に売り出しているシティバンクなど在日外銀が統計に出ない。「資金循環統計」では、在日外銀の外貨預金は含まれるが、外債の方は個人保有分も法人所有とみなされ、個人金融資産にカウントされない。 現状は、個人が海外の金融資産に投資しても、統計には反映されず、外為法改正によって海外送金が自由になると、統計に反映されない分は、ますます大きくなる。金融グローバル化に応じて、統計も見直さなければならない。 さらに現行のように三カ月や六カ月遅れのデータ公表では、ディスクロージャーの意義も損なわれる。この点を改善するには、民間金融機関におけるタイムリーなデータ把握と開示が不可欠である。
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