ディスクロージャー研究学会



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文書No.
971002

「 社外監査役の機能強化のために」

    日本監査役協会

    アンケート調査――調査の概要  

1.調査目的
 アンケートは、第1部(原則常勤監査役記入)、第2部(非常勤社外監査役記入)、第3部(社長記入)の3部構成とし、三様の異なった角度からのご意見を頂戴することを目的とした。


2.調査対象
 当協会の各種研究会・監査実務部会・委員会に登録されている会社のうち、商法上の大会社1004社を対象とした。


3.調査方法
郵送配布・郵送回収によるアンケート調査

4.回答数
630社(常勤監査役からの回答数がベース、回答率62.7%)

5.調査期間
平成9年6月6日(金)〜7月9日(水)

 日本監査役協会(会長・大森茂新日本製鉄常勤監査役)が社外監査役の機能強化に向けた提案をまとめた。六日から開く監査役全国会議で公表する。(1)社外監査役の選任や任期途中での退任に当たって監査役会の同意を義務づける(2)社外監査役を二人以上にする(3)当該会社出身者は認めない(4)社外監査役の兼任や、グループ企業同士で監査役を出し合う“持ち合い”の制限――など、自民党などの商法改正案とは別に、監査役自身の立場から機能強化を求める。 

 今回の提案は、会員会社の社長、監査役を対象に実施したアンケート結果(回答数六百三十社)を踏まえてまとめた。

 現在、社外監査役は事実上、代表取締役が選んでいるが、その独立性を高めるため、候補者の選任・解任手続きの見直し機運が高まっている。協会のアンケートでは、選任に当たって監査役会の同意を求める声は常勤監査役で四八%に及んだほか、社長の四二%も賛成していることが明らかになった。商法改正に向けた経団連案でも監査役会の同意が盛り込まれており、この点では監査役協会も立場を同じくした。

 前回の商法改正で、取締役人事と連動させないように監査役の任期を三年とし、取締役の二年とずらしたが、任期途中の監査役退任が相次いでいる。任期途中の退任にも協会として「同意」を求めるのはこうした事情が背景にある。全監査役に占める社外の割合に関しては、自民党案と経団連案は「半数」とするか

 過半数」とするかで意見が分かれている。協会案は「二人以上」とするにとどめた。 「社外監査役」の定義は現在、その企業の出身者でも五年間離れていれば「社外」と認めている。協会提案は「社外」の定義を厳しくする考え方を支持している。

 今回の提案では元になったアンケートを六月に実施しており、その後の商法改正案骨子に盛り込まれた株主代表訴訟にからむ監査役の訴訟判断権などには触れていない。協会では十月中をメドに自民党の商法改正案に対する協会としての意見をまとめる方針だ


「解説」(日本経済新聞)
 日本監査役協会・監査制度委員会は昨年9月の報告書『コーポレート・ガバナンスと監査役』のなかで、10項目の問題提起を行ったが、そのうち社外監査役に関連する事項として「社外監査役の複数制の検討」と「社外監査役の兼任過多の是正」を既に提案している。今回は、その後1年間の情勢変化や『アンケート』における各企業の社長・非常勤監査役・常勤監査役からの生の声を踏まえて、改めて、以下の通り社外監査役の機能強化のための提案をするものである。


(1)社外監査役候補者は代表取締役が監査役会の同意を得て推薦する
 これは監査される側が監査する側を選ぶという、かねての根本問題の是正であり、社外監査役の機能強化のための、最も重要な提案である。「アンケート」では半数近くの社長が、社外監査役選任についての「監査役会の事前同意権」に賛意を表明した。経営陣と監査役が十分意思疎通を行い協力し合って初めて、「よりよき社外監査役」が選任でき、また、より確固たる信頼関係を構築できる。当委員会はまず第1に、「社外監査役は、代表取締役が監査役会の同意を得て推薦する」ことの立法化を提案したい。なお、監査役の独立性をより強固に確立するためには、人材マーケット、人材情報など人選環境の成熟を待って、「監査役特に社外監査役候補者は監査役会が推薦する」ことも視野に入れるべきだと考える。


(2)社外監査役の任期中の辞任についても監査役会の同意を必要とする
 監査役の身分を保証するため、平成5年の商法改正で、監査役の任期が2年から3年に延長された。しかし実際上は、経営サイドの意向で監査役が任期途中でも辞任するケースがある。これはどちらかといえば、社外監査役よりも社内常勤監査役の方に多く見受けられるようであるが、社外監査役についても、病気などの事情がない限り、任期を全うすべきであろう。したがって経営陣の一方的な意向をチェックするためにも「任期途中の辞任についても監査役会の同意を要する」旨の明文化を要望したい。


(3)大規模会社の社外監査役の員数を2名以上とする
 社外監査役の複数制については、既に昨年9月の当委員会報告書で提案したところである。同報告書では、「コーポレート・ガバナンスの国際動向に鑑み、監査役会機能のさらなる強化およびその中立性を確保するために、少なくとも大規模公開会社または大会社においては社外監査役の員数を2名以上とするような制度改正を検討すべきである」と提唱した。併せて(1)「社外監査役を増加する半面、常勤監査役が減少することがあってはならない」(2)複数の社外監査役の一部が、「一時的に欠けた場合に対処するための柔軟な措置」が望まれる、との付帯条件も述べたが、今回もこの2点を強調しておきたい。

 『アンケート』の自由記載回答の中にも、「社外監査役の複数制」を望む声が多かったし、最近のコーポレート・ガバナンスの議論を見ても、「社外監査役2名以上」の声が強まっている。ぜひ実現するよう希望したい。

 最近、社外監査役の員数を全体の過半数とする議論が高まっている。この社外監査役の員数は、監査役会の機関としての独立性などの観点からも、重要な課題である。しかしながら、現実的には員数の構成に奇異な形が生じたり、また全体的な社外監査役の急増に伴い、数合わせのために実質的に適任かどうか問題のある人材が入り込む危険もある。ただしこれらの点については、今回の『アンケート』によるデータもないことから論及するに至らなかった。(4)当該会社出身役員、従業員の社外監査役就任を可及的に制限する

 衆議院の法務委員会の付帯決議を持ち出すまでもなく、社外監査役の法制化の立法趣旨は、監査役の独立性・第三者性を確保することにあった。このためには、いわゆる「社内出身者」(出身後5年経過)は社外監査役の資格要件から外すのが、今後の社外監査役制度の方向であることは間違いないだろう。

 しかし『アンケート』では、意見が2つに分かれた。制度化後まだ3年しか経(た)っていない「社内出身者の社外監査役」の評価を定めるには時期尚早である、との見方が底流にあるのかもしれない。当委員会の討議でも意見が分かれたが、最終的には、監査の「独立性・第三者性」を優先すべしとの意見が多数を占めたので、「当該会社出身役員、従業員の社外監査役就任を可及的に制限する」ことを提案するものである。

 なお社内出身者の意識の底に、いつまでも旧来の会社経験の尻尾(しっぽ)を引きずり、これにこだわり続けることのないよう自戒することも大切であろう。

 後を絶たない企業不祥事対策として、各方面で社外監査役制度強化論が高まっており、日本型企業統治は大きな転換期を迎えようとしている。特に最近は、政界・経済界で急テンポな議論が展開されており、企業監視機構強化の法的整備には大きな進展が見られそうな情勢である。これらの法改正案の内容は、昨年の報告書で問題提起したものにほとんど含まれているが、今回の報告では、社外監査役制度に焦点を絞って、「アンケート」の分析と社外監査役機能強化のための諸提案を行った。したがって、あくまでも実態をベースに踏まえての報告であることを強調しておきたい。

 上述の通り企業監視機構強化のための法的整備は実現に向かっている。しかし、法の精神を生かすも殺すもその運用次第である。「仏に魂を入れる」のは、われわれ監査役の役割であり、使命である。われわれは日常の監査業務を遂行していくなかで、法の期待と現実とのギャップの1つひとつを埋めていかなくてはならない。「アンケート」の社長自由回答の中でも、社外監査役の役割として、「企業不祥事の未然防止」「企業倫理重視」「社会的目線での企業監視」「経営トップへの率直な進言」などの、大きな期待が寄せられている。経営トップの思いも同じである。経営側との円滑な意思の疎通により、緊張感のある相互信頼関係を築き、企業運営(意思決定プロセスの透明化、取締役会の活性化など)、企業チェックシステムに対する意識改革を進めていくべきである。


(1)監査の品質確保・向上のための常勤監査役の役割
 当委員会は、コーポレート・ガバナンスにおける社外監査役の役割の重要性を考慮して、社外監査役制度の法的整備を提唱したが、半面、社外監査役体制強化のみに傾斜するあまり監査機能が空洞化してしまうような事態を招いてはならない。監査実務の内容、詳細を知らずして監査の品質を確保することは不可能だからである。一方、わが国の社内業務に通暁した社内出身の常勤監査役が実施する直接的かつ行動的な監査は、欧米の制度と比較して、極めて優れていることも認められるので、常勤監査役はより一層の研鑚(さん)に努め、社外監査役との緊密な情報共有化を進めることによって、監査の品質確保・向上を一段と高めなければならない。

 監査の品質確保に関しては、昨年の報告書で、「監査役監査基準の法制化」および「監査役スタッフの充実」が必要であるとの問題提起をしたが、社外監査役の強化が進められていけば、なおさらに、社内監査役と社外監査役との連携についてのガイドラインも取り入れた新「監査役監査基準」の法制化と監査役スタッフの拡充が不可欠の要件となる。


(2)社外監査役資格の運用面での課題
 社外監査役の資格として、1(4)で法的整備の提案を行った。しかしながら、現実にはこのような厳しい要件を満たす社外監査役を手当てするのは難しい面があることも事実であろう。今や社外監査役の適正な人材育成および確保に、真剣に取り組むべき時である。

 なお、当委員会では、日本的コーポレート・ガバナンスにおけるよりよき経営チェック機構を実現するためには、以下の2点も視野に入れておくことが必要との意見が大勢を占めた。


A 社外監査役の兼任(子会社を除く)を制限すること
 「社外監査役の兼任問題」も、昨年の報告書では、社外監査役の「兼任が多すぎるために時間がとれず、監査役会・取締役会・株主総会などの会議への出席が果たせない状況が生じることは問題である」「監査の義務が履行できない恐れがある場合には、安易に監査役に就任すべきではない」と警鐘を鳴らしている。

 今回の『アンケート』で、非常勤社外監査役に直接「監査役の兼任社数」を伺ったところ、「当社のほかに4社以上兼任」が1割弱あったものの、最も多いのは、「当社のほかに1社、つまり兼任社数2社」の44.8%で、「兼任なし、つまり当社のみ」の22.0%を合わせると、兼任社数2社以内が7割近くになる。この『アンケート』を踏まえ、また、社外監査役の実効性の視点から、「社外監査役の兼任は2社以内に制限する」ことが相当ではないかと思われる。


B 社外監査役のグループ企業間持ち合いの制限を検討すること
 広い意味での企業グループの間で、社外監査役を持ち合っている(融通し合っている)ケースが見られる。これはグループ内の相互牽(けん)制、情報交流の円滑化などの面では意味があると思われるが、一方独立性・公正性・第三者性の見地からいえば、問題なしとしない。当委員会でも、社外監査役機能強化という観点から、制限の必要性、方法など今後検討してみたい。


(1)社外監査役と社内監査役との連携についてのガイドラインの作成
 『アンケート』の中で、「当協会に望む」という趣旨の設問(自由回答も含む)に対する回答を、常勤監査役、非常勤社外監査役両方にお願いしたところ、最も多かった意見がこの提案であった。社外監査役が機能を発揮するためには、社内監査役/常勤監査役との連携により、それぞれの持ち味を有効に生かすことが最も効果的であるとの認識に基づく、切実な要望だと理解できる。


(2)社外監査役に対する各種情報の提供
 社外監査役向けの講演会、セミナーなどの開催の必要性、社外監査役全国会議などによる意見表明や社外監査役同士のコミュニケーションの場の提供、「月刊監査役」の活用または社外監査役向けの機関紙の発行などへの要望が強い。内容的には、社外監査役の活動面での好事例(成功例、失敗例、不祥事への対応ケーススタディーなど)の紹介希望が多かった。


(3)社外監査役人材の積極的開拓・養成・斡旋
 社外監査役に期待される「資質」「要件」「役割」をより高く求めるほどに、社外監査役候補者の人材難の問題が顕在化してくる。これに関する要望も多く、日本監査役協会にとっても重要な新しい役割の1つであろう。人材情報システムの構築整備などと相俟(ま)って、社外監査役の適任人材の開拓、養成、斡(あっ)旋に乗り出すべきだと考える。


(4)経営者・経営者団体への働きかけ
 今回の『アンケート』で、一部直接経営トップに回答を求めるという画期的な手法を試みたが、予想を上回る良好な反応を得ることができた。今後は、経営トップに対し監査役制度全般の向上、改善のための率直かつ有益な情報活動を積極化すべきだと考える。監査役からの『アンケート』回答でも、協会が経営トップに、社外監査役の役割・存在意義を重視する意識改革を働きかけてほしいとの要望がいくつか寄せられている。また、「協会は監査制度の機能向上を目指し、経団連、経済同友会、日経連などの経営者団体、経済団体などとのハイレベルでの対話を積極的に展開すべきだ」等の要望も散見された。。




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