文書No.
971004a
日本経営分析学会第13回秋期大会報告資料
わが国企業(上場大手)の「長期資本の形成」(キャピタライゼイション)は近年急速に進み、厚みを増してきた。これは経済の成熟化で設備投資機会が減ったのに対し、減価償却費中心に内部資金が増加したことによる。こうした主体的条件の変化を背景にして資金調達は(1)エクイティー・ファイナンスなど直接化(2)ワラント債など多様化、(3)また海外調達増加など国際化―を進めた。 しかしこの企業金融の急激な変化に金融機関は正常に対応できず借入金の大量返済に泡を食って逆に株式・土地投機に走り、バブル経済を起こした。銀行の大量の時価発行増資に応じるため事業会社も増資せざるをえなかった。持ち合い株式の簿価はいやがうえにも上昇した。 このためバブル崩壊とともに銀行の不良債権は巨大になり、株式の暴落で含み益も大きく減少した。財政資金による不良債権の処理という「金融幕藩体制」(護送船団方式ともいう)最後の手段を用いた。それでも現在もその処理に苦しんでいる。メーンバンク制は崩れ、プライムレートも意味がなくなってきている。 本報告はまず我が国の企業金融がこれまでどのように行われ、これと関連してコーポレート・ガバナンス(企業統治)はどのように運用されてきたかを明らかにする。その後コポーレート・ガバナンスのあるべき姿を検討し、グローバル・スタンダードを達成したとみられるトヨタ自動車を例にとってファイナンス、コーポレート・ガバナンスのありかたを明らかにする。そのうえ金融ビッグバンをはじめ行政改革の道筋を探る。
一方、戦後改革も相次いで逆戻りするものが多かった。戦後の民主化の象徴である財閥解体(株式民主化)も資本自由化とともに株式の持ち合い・「ワンセット主義」のもと旧財閥は復活。また連合軍に強制された米国型の証券取引法も山一特融事件とともに証券業に免許制が敷かれ、その後人、物、金、情報など企業のあらゆる面に介入、企業統治の権力を官僚が握った。経営者は自主性、自尊心を喪失していった。金融機関だけではない。各産業も各省庁の許認可権を背景とした監督・指導のもとに置かれた。戦時体制と戦後民主化の「揺り戻し」体制が二重に重なって企業の「官僚統制」体制は固まりその典型である「金融幕藩体制」が完成していった。 したがってコーポレート・ガバナンスは官僚・銀行が握り、戦時と同じく利益の配分も株主総会でなく役所の指導(利益配分ルール)のもとにおかれた時期があった。。 この結果、政策目的通り経済の高度成長、産業の重化学工業化、国民所得の向上をもたらした。反面、企業財務面では負債倍率は急激に上昇、インタレスト・カバレッジは1に近づき、金利を払うと赤字になる企業が3社に1社(1975年度)に達した。借入金のテコ効果は逆テク効果をもたらすようになって、借金経済は限界に達した。特にオイルショック後のインフレ抑制の高金利政策が重なり、深刻だった。
(2)バブル経済の形成・崩壊とコーポレート。ガバナンス(1986―1995) バブル経済の発生は、まず円の急速な上昇による不況懸念から金利を大幅に引き下げたことから金融機関は資金の運用難に陥った。その上企業は直接調達に切り替え、その資金借入金返済に回しはじめたから、資金の過剰時代が到来した。かつての貸し手市場が借りて市場の転換した。 バブルの発生原因については金融政策の失敗がいわれるが、企業金融面からは第1に「担保主義」の悪用が指摘される。土地・株式の値上がりを見込んだ担保評価で必要以上の金(かね)を貸し付けたこと。さらには不動産の権利書だけで貸し付けるなど担保の形骸化を進め、自ら担保原則を破壊していった。 第2に直接調達が株式・土地投機資金に振り向けられ、スパイラル状に企業金融は狂気を帯びていった。市場では土地・株式の運用益が直接調達の資金コストを上回るといって「マイナス金利のファイナンス」と称した。 第3に銀行が審査という「情報の生産」を止めたためエージェンシー・コストを引き下げる役目から逆に引き上げたうえ土地・株式投資で自らのエージェンシー・コストも引き上げた。 第4に銀行・証券と発行会社の間でインサイダー取引が大々的に行われ、情報優位に立ち、「超過利益」を享受した。増資が株価上昇の好材料となった。「情報の生産」の意味を取り違えてた。本来はディスクロージャーの徹底すべき時期にもかかわらず逆の状態の陥り、インサイダー取引防止法も「大悪」が見逃され、「小悪」のみ取り締まられた。こうして「市場の失敗」がもたらされた。 第5に金利をはじめ大倉・日銀の各種規制は「規模の経済」に向いていたため、預金、貸し金とも量の拡大のみが金融機関経営の目的になってしまった。金利自由化時代は業務範囲を拡大して金融サービスを拡大する(範囲の経済)を追求するのがエージェンシーの務めに拘らず、逆の道を選択した。これでは経営は崩壊する。、 以上の通りバブルの形成と崩壊の時期は株主・債権者(ともに金融機関)のコーポレート・ガバナンスは喪失していた。「規制は事件とともに増え」てバブル崩壊後のピークは「株価形成」、「時価発行」などという単位で計算して行政指導は500近くに達した。「証券マンが店を一歩出るとこれに引っ掛かり、慌てて足をひくとまたルール違反になる」とさえいわれた。証券会社は赤字でも「死ぬ自由がない」とオーナーは嘆いていた。倒産会社には通産省から管財人が斡旋される。
金融・証券のビッグバンは金融・資本取引の公正化、自由化、グローバル化し先進国なみのサービス内容とコストを達成しようというもの。よって金融・資本市場の雇用と所得を増加させようとするものである。 このため各種の審議会から色々な答申や中間報告など発表されているが、とてもビッグバンに値しないものばかりの「コマギレ」改革である。
以下改善すべき点を指摘しておきたい。
(2)情報の公開・開示が前提である。
(3)融資・投資は信用リスク基準に
(4)情報の生産で付加価値をつける (5)グローバルな存在の意識革命と資本主義の本来のあり方を問い直す トヨタ自動車のファイナンスとコーポレート・ガバナンスがこれからの日本企業のたどる道である。トヨタ自動車の(債券)格付けは国内外でAAA、GMなどビッグスリーはAクラス。AAクラスはない。また昨年トヨタ株は米系年金基金が大量に購入し外人持ち株は10%近い。1950年の経営行き詰まり以来進めてきた「自己資本経営など本来の資本主義的経営努力が正当に国際的に認められた結果である。かんばん方式の生産体制は「自動車生産の最後の方式」といわれ、ファイナンスとともにグローバル・スタンダードに到達したといえる。資金コストはライバルに!%以上の差をつけられる。格差はますます拡大される。持ち合い株式の解消は投信や年金では吸収がむずかしい。外人がコーポレート・ガバナンスがしっかりしているところから買い上げていく。外人の株主によるエージェンシー・コスト引き下げがはじまる。これがグローバル・スタンダードである。
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