ディスクロージャー研究学会



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文書No.
971008

−国際会計基準委員会のホームページに見る動向―

    公認会計士 横山 明

     

はじめに

 最近、「国際会計基準」(International Accounting Standards;IAS)をめぐる動向が、注目を集めるようになってきている(JICPAジャーナル、1997年6月号、20ページ“IOSCOにおける「国際会計基準」等の検討状況について”より)。

 国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee;IASC)はインターネット上にホームページ(URL:http://www.iasc.org.uk)を開いており、委員会の説明、組織、国際会計基準、公開草案、検討中の会計基準、検討日程、実務指針、IOSCOとの合意事項など簡潔に説明している。インターネットは、誰でも、何時でも、無料で公開されており、透明性高く究極の情報公開である。以下に概要を示してみたい。


年次報告書を国際会計基準で作成している会社

 既に現在、自社の年次報告書(Annual Report)を国際会計基準で作成している企業名とその本国・地域をリストしている。なお、リストに追加または訂正を要する場合はEmailで連絡して欲しい旨コメントしている。

 企業は、証券会社、株主、取引先、関連会社のマネジメントなど関係者に年次報告書を提供し、自社の理解を深めて貰うことにも使われる。取引開始に当たり自社の会社紹介をかねたり何らかの目的で自主的に作成され関係者に配賦する。年次報告書は、必ずしも、証券取引法のもとで資金の調達・証券の流通の目的で作成されるばかりでない。

 IASCがリストしている日本企業は、富士通、第一勧業銀行、さくら銀行、三和銀行、キリンビール、佐世保、トーレ(Toray)の7社が任意で、国際会計基準の年次報告書を作成している会社としてリストしている。

 国別に見ると、スイスが70社と格段に多く、産油国のクエートが49社で二番目、カナダは34社、フランスが32社と続く、米国・英国は自国の会計基準と相違が少なく、適用会社は少ない。 北欧、旧共産圏の東欧の国々、中国などが適用しつつある。 東南アジアは、マレーシアを除いて適用会社はないが、近い将来でてこよう。米国では、マイクロソフト社や世界銀行が含まれている。地中海諸国、カリブ諸島の会社も比較的多い。北欧の会社スカンジナビア航空が含まれているが、本国はデンマーク/ノルエー/スエーデンの3国にまたがっており、下記のリストにはスエーデンに含めてある。


国別・地域別、企業数をまとめると次のようになっている。

1997年10月6日現在

会社の数
米国4
英国3
カナダ34
オーストラリア4
南アフリカ14
ドイツ10
フランス32
スイス70
イタリア11
ベルギー3
オーストリア2
ポルトガル1
オランダ2
ルクセンブルク5
デンマーク2
スエーデン22
フィンランド11
ノルエー3
ヨーロッパ1
キプロス9
マルタ3
ロシア4
ポーランド5
トルコ14
チェコ共和国9
スロバキア共和国3
ハンガリー6
ルーマニア1
スロベニア1
日本7
中国7
香港8
マレーシア4
アラブ首長国連邦9
クエート49
オマーン4
バーレーン3
ボツワナ4
アフリカ1
ジンバブエ9
ガーナ1
ブラジル2
メキシコ2
バハマ3
タルクス・カイコス諸島2
英バージン諸島2
バミューダ1
バハマ4
ケイマン諸島1
フィージー1
パプアニューギニア1
バルバドス3
合計 52ヶ国・地域417

    証券監督者国際機構
(International Organization of Securities Commissions;IOSCO)

 1993年、IOSCOは、国際会計基準が包括的な基準として承認するためには、国際的な公募および上場をする企業の会計基準(コア・スタンダード・・核となる基準)として必要な構成をもち完成したしたものであることで合意した。IOSCOは、40の個別会計基準(コア・スタンダード)をIASに示した。1995年7月、IOSCOは、IAS7(キャッシュフロー計算書)を承認し、14件の個別会計基準については追加的改善は求めなかった。


40のコア・スタンダードの作業状況は次の通りである

1993年設定のコア・スタンダード IASC作業状況
現行IAS (最終改正年)作業完了作業中
1.会計方針の開示IAS1(1997年)
2.会計方針の変更IAS8(1993年)
3.財務諸表に開示する情報IAS1(1997年)
損益計算書
4.収益の認識IAS18(1993年)
5.工事契約IAS 11(1993年)
6.生産および仕入原価IAS2(1993年)
7.減価償却IAS 4(1974年)IAS 16(1993年)
8.毀損(Impairment)IAS 16(1993年)E55
9.税金IAS12(1996年)
10.臨時項目IAS8(1993年)
11.政府の補助金IAS20(1982年)
12.退職給付IAS 19(1993年)E54
13.その他の従業員給付なしE54
14.研究開発費IAS 9(1993年)E60
15.利息IAS 23(1993年)
16.ヘッジングなし検討資料
貸借対照表
17.有形固定資産IAS 16(1993年)
18.リースIAS 17(1982年)E56
19.棚卸資産IAS 2(1993年)
20.繰延税金IAS 12(1996年)
21.外国通貨IAS 21(1993年)
22.投資IAS 25(1985年)検討資料
23.金融商品/簿外貸借対照表項目IAS 32(1995年)検討資料
24.ジョイントベンチャーIAS 31(1990年)
25.偶発事象IAS 10(1974年)E59
26.後発事象IAS 10(1974年)
27.流動資産および流動負債IAS 1(1997年)
28.企業結合(営業権を含む)IAS 22(1993年)E61
29.研究費・営業権以外の無形固定資産なしE60
キャッシュフロー計算書
30.キャッシュフロー計算書IAS7(1992年)
その他の基準
31.連結財務諸表IAS 27(1988年)
32.超インフレーション経済下の子会社IAS 21(1993年)/IAS 21(1989年)
33.関連会社と持分法IAS 28(1988年)
34.セグメント報告IAS 14(1997年)
35.中間財務諸表E57
36.一株当たり利益IAS 33(1997年)
37.関連当事者の開示IAS 24(1994年)
38.事業部門の廃止IAS8(1993年)E58
39.基本的誤謬IAS8(1993年)
40.見積もりの変更IAS8(1993年)

   
現在作業中の公開草案の最終期日は次のようになっている。
E56リース1997年 7月31日
E55資産の毀損1997年 8月15日
E57中間財務諸表1997年10月31日
E58事業部門の廃止1997年11月15日
E59引当、偶発債務と偶発資産1997年11月15日
E60無形固定資産の公開草案1997年11月15日
E61企業結合1997年11月15日

確定し新たに適用となるもの、および適用日:
IAS 12 (改定)所得税1998年1月1日より適用
IAS 33 一株あたり利益1998年1月1日より適用
IAS 1 財務諸表の開示1998年7月1日より適用
IAS 14 (改定)セグメント報告1998年7月1日より適用

 「E54退職給付、その他の従業員給付」は、公開草案が出ているが、最終結論までの日程は明らかにされていない。また、「IAS 25投資の会計」「IAS 32金融商品」、「ヘッジング」は検討中である。


現行の国際会計基準
以下のリストは、現在有効となっている国際会計基準である。
1997年10月6日現在

基準書 NO会計基準の表題当初発効日
IAS1財務諸表の表示1998年7月
IAS2棚卸資産1976年1月
IAS3連結財務諸表−IAS 27に改定
IAS4減価償却1977年7月
IAS5財務諸表に開示される情報−IAS 1に改定(98年7月)1977年1月
IAS6物価変動会計−IAS 15に改定
IAS7キャッシュフロー計算書1979年1月
IAS8会計方針の変更、期間損益および基本的な誤謬1979年1月
IAS9研究開発費1980年1月
IAS 10偶発事象および後発事象1980年1月
IAS 11工事契約1980年1月
IAS 12所得税1981年1月
IAS 13流動資産および流動負債−IAS1改定(98年7月)1981年1月
IAS 14セグメント報告1983年1月
IAS 15物価変動の影響に関する情報1983年1月
IAS 16有形固定資産1983年1月
IAS 17リース会計1984年1月
IAS 18収入1984年1月
IAS 19退職給付コスト1985年1月
IAS 20政府補助金と政府援助の会計1984年1月
IAS 21外国為替の変動の影響1985年1月
IAS 22企業結合1985年1月
IAS 23借入コスト1986年1月
IAS 24関連当事者の開示1986年1月
IAS 25投資の会計1987年1月
IAS 26退職給付の会計と報告1988年1月
IAS 27連結財務諸表および子会社に対する投資の会計1990年1月
IAS 28関連会社の会計1990年1月
IAS 29超インフレ経済下の財務報告1990年1月
IAS 30銀行および類似金融機関の開示1991年1月
IAS 31ジョイントベンチャーとの関係の財務報告1992年1月
IAS 32金融商品:開示内容と表示1996年1月
IAS 33一株あたり利益1996年1月


    米国証券取引委員会(SEC)の動向

 1996年4月11日のSECの声明と題して、“SECはIASCが1998年3月までにコア・スタンダードを完成すべく努力していることに対し歓迎する。国境を越えた公募に使用される財務諸表を作成するために使われる会計基準の完成というIASCの目的の達成に、SECは可能な限り素早く支援する。SECの見通しでは、SECがその結果を受け入れるためのキーとなる要素は次の3点である。

・ 基準が一般に認められる基準で、包括して完成したものである事。
・ 基準が高度な品質を維持している事−比較可能で、透明性があり、フル・デイスクロジャーされる事。
・ 基準が厳格に説明され、厳格に適用されること。

 SECは、IASCが国際会計基準の包括的基準を設定するのに、IOSCOを通じてIASCに協力する事をコミットする。米国で公募する外国の会社に、完成した基準を適用することを認めるのがSECの意図である”としている。

 SEC議長レビット氏は、“IASCが1998年3月を目標に国際会計基準を完成させようとしており、その進行状況について、1997年10月に、議会に対し報告するつもりである”、としている。

 SECは会計基準を設定いておらず、会計基準設定主体である財務会計基準委員会(FASB)と協力してIASCとの調整を行ってきている。米国の会計基準をIASCと調和(harmony)させるために米国側が歩み寄って部分もある。例えば、1998年1月1日より適用となる一株あたり利益について、普通株相当証券(転換社債、ワラントやオプション)の概念を捨てることで、米国会計基準を国際会計基準と一致させた。かように、汗を流して協力しており、承認の方向にある。


ヨーロッパ委員会の動向

 1995年ヨーロッパ委員会は、“現存する指令(Directives)を修正するよりも、IASCとIOSCOが国境を越えた国際的調和に向かって努力したものに連合する事で現状を改善することを提案する”としている。

 最近、ドイツおよびフランスの政府は、マルチナショナルな企業は、国内と国際双方の目的のためにグループ勘定で国際会計基準を適用すべきであることを示した。


おわりに

 かつて米国でも、年金会計、外貨建財務諸表の換算、有価証券の評価など、会計基準になるまで長期間を要した経緯がある。日本では、最近、俄かに時価会計を主張する風潮が出来上がっているが、ヨーロッパなどはどうであろうか、「IAS 32金融商品」の基準がまとまるまでに紆余曲折が予想される。


 我が国の会計の問題点は、基本的な問題が未整備のままになっている。住専、銀行、ゼネコン、ヤオハンジャパンなど、突如として巨額な貸倒引当金の計上、債務保証損失の引当計上により巨額の債務超過の状態に至る。近代会計の特徴とされる見積もり損失の計上ができなかったのだろうか。

 現金主義会計に近いとすると近代会計といえない。企業会計原則注解18では、会計学入門の学生には適当であろうが、実務では、貸倒引当金や債務保証損失引当金などの偶発損失の会計基準が整備されているとは言い難い。決算から半年も経たぬうち、突如として巨額な債務超過に陥り会社更正法の適用を申請している。株主とっては、唐突の感を受けるのは当然であろう。


 また、国際会計基準をすでに適用している会社があるように、任意で国際市場で活動する企業にとっては証券取引法の法の枠に関係なく作成している。 元来、会計基準を基礎として作成される財務報告は、証券取引法適用会社ばかりでなく適用されるものである。「会計基準」が独立して存在し、商法、税法、証券取引法、各規制当局の関連する法律が、財務報告に関連する場合、それぞれの法律には、「会計基準」に準拠する規定を置く事で重複を避けたり、相互に矛盾することのないようにすべきであろう。

 日本版ビックバンを控え自己責任が問われようとしている。自己責任を問う条件は、自己責任を負う者に対して十分な情報開示がされることを前提とする。 資本市場の重要なインフラの一つである財務報告は、会計基準の設定主体の問題、会計基準の内容の整備を根底から考え直す必要があるのではないだろうか。国際会計基準のコア・スタンダードの完成は、その参考となるよい機会ではないのだろうか。

 商法、税法の証券取引法の「三すくみ」状況が継続する限り無理であろうか。可能である、法律から独立した「会計基準」があって、それぞれの法律が「財務報告」部分に関しては、「会計基準」に準拠した財務報告ないし損益計算を要請すればよい。それぞれの法律の中に会計規定をもてば重複するのは当然であるし、相互に矛盾が生じ調整するのが困難になる事は明らかである。変化の激しい時代には、変化に機敏に適応できる会計基準設定の仕組みが必要である。

 国際会計基準が、コア・スタンダード(核となる基準)と称しているのは、将来の経済状況の変化に対応して、よりよい会計基準の設定が予期(将来改正もある)されている。会計基準は絶対不変ではない。 米英では、過去、有価証券の評価、外貨財務諸表の換算、税効果会計、年金会計、資金変動計算書(現、キャッシュフロー計算書)等、多くの会計基準が時代に適応させるため改正されてきた。

 機動的に時代に対応した適切な会計基準(財務報告)が求められる。「三すくみ」状況から早く脱するべきである。日本版ビックバンのもとで、以前より厳しく自己責任を負う投資家のために…


お問い合わせ ik8m-ysmr@asahi-net.or.jp


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