株式会社森山事務所
<要旨>
内外格付け機関の格付け格差はムーディーズと日本格付け投資情報センターを例にとると平均3ノッチにおよんでおり、しかも、ムーディーズの格付けが低い業種ほどギャップが拡大する傾向がある。内外格付け機関との見方の違いの背景には、日本企業の構造変革への対応力をどう評価するかという判断の違いがある。ただ、どちらの見方が妥当かは短期的には判断できない。その判断は市場の評価に委ねられる。
内外格付けには平均3ノッチのひらき
企業の信用リスクに対する懸念が強まるなかで格付けへの注目が集まっている。同時に格付けそのもの妥当性についての疑問の声も上がっており、最近では格付け機関の格付けに乗り出すところまで現れた。なかでも関心を集めているのが、同じ発行体企業に対する格付けが格付け機関によって大きく異なるケース、いわゆるスプリット・レーティングの問題である。とりわけ国内と海外格付け機関の間には格付けの水準に大きな違いがある。ここでは、日米の代表的な格付け機関であるムーディーズと日本格付投資情報センターの格付けを参考に、内外の格付け格差の問題を考えてみたい。
ムーディーズと日本格付投資情報センター(R&I)の両社から格付けを付与されている日本企業は3月末現在で244社ある。これら企業全社に対する平均的な格付けランクは、ムーディーズでBaa1(=BBB+)、R&IではシングルA+となり、ちょうど3ノッチのひらきがある。また、業種別の平均水準を比べると、ムーディーズの格付けランクが下がれば下がるほど、内外の格付けギャップが広がる傾向が強い(第1図参照)。
規模重視の傾向が強い国内格付け機関
こうした違いは何に由来するのであろうか。まず、日本の格付け機関は海外格付け機関に比べて規模を重視する傾向が強いことがあげられる。当事務所では、事業規模や収益力、資本構成、関係会社を含めたグループ全体の財務体質の強弱など数十の変数を用いたモデルで、内外格付け機関の格付け水準を推計している。そのモデルを利用して格付けがそれぞれどの変数によって説明されるかを調べてみると、ムーディーズの場合には規模の指標(売上高、純資産、キャッシュフローの額など)が38%、財務の安定性を示す指標が39%、その他が24%となる。一方、R&Iの格付けでは規模の指標の説明力が全体の70%を占め、財務の安定性指標の説明力は22%にとどまっている(第2図参照)。
いうまでもなく、格付けは業界における企業の序列を示すものではない。格付けの分析項目は、その企業が属する産業自体の特性、当該企業の競争力や事業リスクの評価、財務の柔軟性や資本構成など多岐にわたるが、格付け機関が重視する評価のポイントや格付け決定までのプロセスには、国内でも海外でもそれほど大きな違いはない。要は考え方の違い、定性的な部分をどう判断するかの違いである。
規模は企業の信用力を図るうえで重要な要素である。規模の大きさは経営資源の豊富さを示す。現在の日本のように不況期が長引けば長引くほど消耗戦に耐えうるだけの体力を持つところが有利である。その一方、日本経済の構造変革とグローバル化が進む中で、規模がこれまでと同様に重要な要素であり続けるわけではないだろう。いくら豊富な経営資源を保有しているといっても、変化のスピードについていけない企業はたとえ大企業であろうと容赦なく淘汰されるのがビッグバン後の世界である。そうした日本企業の構造変革への対応力をどう評価するかで格付けの判断は大きく違ってくる。
格付けの妥当性を判断するのはマーケット
では、どちらの格付けが妥当なのだろうか。格付けは、5年とか10年の長期の投資を行った場合に発行体企業がどの程度の確率で経営困難に陥るかを示すものである。したがって、格付けの符号だけを比較して、国内格付け機関が甘いとか海外は辛いとか議論をしてもあまり意味がない。株価と違って半年やそこいらで評価の妥当性が証明できるものではない。格付けが市場の評価に耐えうるものならば有効な投資情報として使われ続けるであろうし、そうでなければ淘汰される。格付けの妥当性を評価するのはマーケットである。
ちなみに、格付けランク別の社債の利回りを比較すると、AAA/Aaa格銘柄ではムーディーズとR&Iの間でほとんど利回りの差はないが、AA格以下のところではちょうど1カテゴリー(3ノッチ)分の利回り格差がある。R&IでAA格の銘柄の利回りはムーディーズでA格に相当し、R&IでA格の銘柄の利回りはムーディーズでBaa(=BBB)格に相当するという具合だ。この点からすると、社債市場は国内と海外の格付けを同じレベルとは判断せずに、国内格付けについては1カテゴリー分だけ信用リスクを割り引いて受け止めているようだ(第3図参照)。
自動格付けに要注意
最後に、内外格付け格差の問題に関連して発行体に対し注意を喚起しておきたい点がある。それは自動格付けへの対応である。格付け機関は発行体からの依頼のない場合でも独自に信用力分析を行い、格付け評価を公表している。発行体からすれば、頼みもしないのに勝手に自分の会社の格付けを行い、それを公表するとはけしからん。まさに、「勝手格付け」ということにもなるが、企業にとってそのまま放置しておくのは得策ではない。依頼に基づく格付けであろうと、なかろうと、格付け機関とミーティングを持ち、先方が懸念する点があればそれに対してきちんと説明してやることが望ましい。とくに、海外格付け機関の自動格付けには注意が必要である。海外格付けが自動格付けだからと、ほうっておくと国内の格付けに微妙な影響を与えかねないからだ。なかでも、ムーディーズの格付けが国内の評価に比べてかなり低い場合には、国内格付け機関から高い格付けをとるチャンスはない。逆に発行体としては、自社の格付けに内外で大きなギャップがある場合には、国内格付けにも引き下げ圧力がかかることを承知しておくべきだろう。とくに、第1図で右側に位置する業種ほど国内の格付けが引き下げられるリスクが大きいといえよう。
|