文書No.
980902
日本証券新聞 1997年9月10日
首相の鶴の一声「信用秩序維持」で大蔵省の財政・金融の分離はご破算になたが、これについて反発する声がつよい。その根拠はそもそもバブル経済を起こさせたのは金融行政の失敗である。かつバブル崩壊で行き詰まった「住専」(住宅金融専門会社)の処理に財政資金を投入した。預金者保護の名目もないのに税金をつぎ込むなんてことはもってのはかだった。信用秩序の維持でもなんでもない。ただのゆきあたらいばったりのその場限り政策にすぎない。金融ビッグバン後もこのやり方を続けるような仕組みを温存するなら悪名高い「護送船団方式」の維持・継続で大改革に価しない。 にもかかわらず分離を頑として断るのは何故か?単なる役人の権力維持本能のなせる技か。それとも建設会社の倒産や証券会社の不祥事・経営困難でこのところ「信用不安」が高まっているおり、不良債権のことなら「何でも知っている」大蔵省のこと。緊急に再び公的資金を投入しなければならない事態でも予想しているのかと勘ぐる向きもある。 そもそも不良債権は順次償却しているとはいえ、住宅都市整備公団の一千万円値下げが波及して不動産の市況は軟調に転化、不良債権は減るどころか増加の兆しがある。現在不良債権はざっと見てなおGDP(国内総生産)の一0%もあるのに変わりがない。本当の信用不安が皆無になったとはいえない現状を大蔵省は分かっているから本音ベースで財政・金融の分離を拒否しているとのうっがた見方もある。空恐ろしいことだ。 株式市況がこのところ安いのはなにも銀行支援の打ち切りによる建設会社の倒産のせいだけではない。どうも景気が消費中心に回復どころか底割れ懸念がある。そうなると、すでにつぎ込んだ六千八百億円に加え第二次の財政出動が緊急に必要なのではないかと心配している。官僚の権限を維持したいだけのための分離反対ならまだまし。いやむしろそうあってほしいと思うほどである。長期金利二%割れの意味しているところは大きい。 それにしても信用秩序の維持とは何か。銀行の倒産が連鎖的に起きて金融システム全体が崩壊するようなことがないように対策をとることである。「住専」という土地転がし屋・地上げ屋の仲間を助ける事ではない。担保金融という秩序を無視して土地や株の値上がりを見込んで過大な貸付をしたことは信用秩序の破壊である。これを黙認してきた責任を財政資金投入でごまかそうとするのが信用秩序の維持ならそんな事は即刻やめてもらいたい。 金融ビッグバンは金融の市場化である。市場で(相対でなく)、市場価格で取引する。リスクとリターンをキーワードにして価格メカニズムが働き、不明朗な互恵取引・系列取引は通用しない。
(四条耕三) |