不可思議な「元高」、投機筋の策謀か
元切り下げ(九四年)がアジア・デフレの元凶 ペシミスティック・ニューパラダイムに陥る
このところ中国人民元の対米ドル相場が堅調である。連日「元高」が新聞紙面を賑わしている。インドネシア・ルピア、タイ・バーツなどアジアの他の通貨は連日新安値を報道されているのと対象的だ。特にインドネシアの山火事の煙が東南アジアを被っていることもあってよけいに際だった違いが目につく。
しかしアジアの通貨をもうすこし長期にみると全く逆である。中国・人民源は現在八・二米ドル(以下単にドル)だが、九三年は五・八ドルだった。わずか四年前だが、この年と前年発展途上国の「離陸期」の通弊で、空前の国内景気に湧き生産が増強し、輸入が急増、貿易収支は赤字に転落した。八十年代と同じ「赤字体質」に陥る危険があった。
そこで人民元を一本化し、同時に五0%切り下げ八・六ドルとした。衣料品・雑貨など「五割安」の中国製品は米国、アジア向けに輸出が急増九四年三一%贈の一千億ドル台にのせた。香港経由をいれると過去最高の記録を更新した。
中国はいまやカラーテレビはじめオートバイ、クーラーなど衣料・雑貨と同じく「世界一」クラスの生産高を誇るようになった。しかし国内は一部の富裕層と大多数の貧乏人で需要は全体として急増しない。典型的な供給過剰である。「余った製品」は輸出するに限る。国内で安売りしてせっかくつくった市場を破壊しかねない。外国で安売りするほうがましだ。つまりデフレの輸出だ。
この結果米国の対中貿易赤字が拡大しただけでなく、タイ、マレーシア、フィリピンなどアジア各国も貿易赤字が大幅にふえた。これらの国々は外貨準備もそこそこ積んだがタイの例でも分かるようにまだまだ脆弱だ。こうしてアジアの通貨崩落は起こった。中国のデフレ輸出、つまり近隣窮乏化政策の犠牲になった。これがアジアのペシミスティック・ニューパラダイムという。
ちなみに日本は中国に遅れること一年、九五年ようやく円高修正に踏み切った。その対策として公定歩合を0・五下げたが、その大半はジャパン・プレミアムとしてユダヤの銀行にもっていかれたという苦痛を受けた。
アジア通貨戦争はマレーシアやタイとジョージ・ソロスの戦争のようにみえるが、それは一つの断面にすぎない。本質は「ユダヤ対華僑」の対決だと思う。
すでにそれは始まっており、「元高」は「仕掛けられている」と思われる。なぜなら中国の不良債権、国営企業の赤字が西欧で喧伝されだした。国営企業のリストラも始まった。対アジア輸出が停滞するとますます国内過剰生産が露呈する。「悪材料」ばかりなのにアジアのなかで「元の独歩高」は「投機」以外のなにものでもない。スペキュレーターは乱高下がすきだ。
外貨準備が多いから安心だというが、対外債務はそれを上回っており、「香港の"外準"を合計すればよい」という者もいるが経済は「二制」の根幹で管理権は北京にない。大体、中国の"外準"は完全に管理されているのか。沿岸経済特別区は北京に管理権をゆだねているとも思えない。
(四条耕三)
|