文書No.
980908
日本証券新聞97年10月22日
国内の行政改革が足踏み状態になっているが、これは第二次橋本内閣発足時にこの欄で予想した通りで、いまのところその範囲を出ないので、中国問題を続ける。ただ景気は悪い。未曾有である。重体に近い。ちょっとしたきっかけで経済・金融システムが瓦解する。日本版ビッグバンがきっかけになるかもしれない。早く「手術」することが望まれる。風薬では治らない。 さて中国は米国と日本はロシアとそれぞれ近く首脳会談を予定しており目を離せない。経済を考える上でグローバルな枠組みの変化を考えておこう。 最近の東アジアの情勢を見ておくと、香港返還で英国のアジアでのプレゼンスがなくなり、これに代わって米国が改めて睨みをきかす。そのため米国は日米安保を強化しようとしておりガイドラインを見直した。中国と国境を接するフィリピンはこれを歓迎した。台湾をめぐって日中がもめるのは米国の思惑通りだ。 一方、北朝鮮のミサイルの脅威を(日本に)喧伝しているのは米国であり、戦艦を大挙して日本の港につけている。このため日本脅威論を説いているのは中国である(解放軍報)。北朝鮮は何も援助してくれない中国やロシアより核開発やミサイルで日韓を脅せば、エネルギーや食料をくれる米国に接近する。日本人妻の一時帰国問題は中国残留孤児問題の朝鮮版だ。ただ中国も南北分断を腹の底では望んでいる。南北統一で強大な軍事国家が登場することを恐れているのは日米も同じ。「金王朝の崩壊」がない限り統一はない。米国は中国が強大で横暴になるのは許せない。できればソ連のように「細分化」されるのを待っている。絶えずそれを仕掛けてくる。米中、日ロの秋の首脳会談は今後の東半球の歴史を決めるきっかけになる。 それにしても七月の香港返還の前と後でアジア情勢がなんと大きく変わったことか。様変わりである。通貨と株価が暴落した。経済はそれまでが嘘のように沈滞化した。相場は下落がこれで終わりか、始まりかまだはっきりしない。キーは香港などの不動産価格とレッドチップ(中国系香港株、中国のブルーチップ=優良株)相場。上海、深せんには空きビルが林立しており、まるでゴーストタウンになっているという。工業製品と同じく不動産も供給過剰である。空きビルに投下した資本は寝ている。これでは金(かね)が回らない。 香港返還前、レッドチップに「アセット・インジェクション=資産注入)が盛んに行われた。レッドチップに本土の資産(有料道路、コンティナーメーカー、バス事業など)を譲渡、その見返りに新株を発行するなどして大量の資金を集めた。不良債権がGDPの二0%の中国としてはここぞとばかり香港経由で本土に金(カネ)を持ち帰った。レッドチップはその意味では「ペーパー・カンパニー」である。しかしレッドチップの株価暴落はこの調達ルートを閉ざした。本土の実態はこの虚構を崩す。国営企業の民営化に伴う大量の株式の発行は誰が引き受けるか答えはない。中国のビッグバンは文字どおり画餅だ。中国は「市場経済」の本当の意味をこれから四条を通じてユダヤに教えられるだろう。首脳会談を控えて元と株の動きが一段と注目される。
(四条耕三) |