文書No.
980910
日本証券新聞97年11月11日
「ビックリバン」はアジアやアメリカに触れている間に足元で三洋証券の会社更正法申請という「事実上の」ビッグバンが進行した。これまでの「事実上の」ビッグバンの第一は検察庁が総会屋への利益提供事件を摘発した野村証券が代表取締役全員総退陣し一気に経営陣が若返ったこととすれば、今回は証券界の適者生存・敗者摘出の本格的ビッグバンである。来年三月を一つの区切りとしてこの動きはここ数カ月にヤマ場を迎えると見られる。 大蔵省のビッグバンは同省の資料「主な具体的事項」によると実施されたのは今年七月の個別株オプション開始、同十月の「証券総合口座」の導入ぐらいで、二つともいまのところ目立った成果は何もない。あとは予定と計画ばかり。総会屋への利益供与事件は予想通り四社に広がり「大蔵」より「検察」先行で「ビッグバン」は進んでいるように見える。 本来大蔵省が免許を与え、人、物、金(カネ)の経営のすべてを握っている証券会社が更正法で裁判所に管轄されるのは行政と司法の「混雑」でこれまで適用を避けてきた。それを思い切って今回更正法適用を選んだのは司法に対し行政がワクをはめたわけで、劣後ローンを貸していた生保やメーンバンクも「意外」だったようで虚を突かれた。従来の護送船団方式で助けられるのではないかとたかをくくっていたフシがある。したがってまず第一に大蔵省のこれまでの証券政策は大きく後退したことを指摘しなければならない。同じくメーンバンク(東京三菱、日債銀、大和銀)も大株主(野村)「いざというとき」役に立たなくなった。その気がない国際証券を無理矢理引っ張り込む事も大蔵は失敗した。これらのことをハッキリと肝に命じなければならない。大蔵も銀行も大型倒産を救えないことは事実となった。これを天下に示したことをまず特記する。 会社更正法は再建するため一旦資産を裁判所の元に保全するが、信用システム維持のため顧客の預かり資産は直ちに返還するという異例の措置で三洋の店頭は当日平静だった。発表を休日の三日夜に選択したのもよかった。二兆七千億もの預かり資産を一度に返すと混乱するのは必定。これが大手だと何十兆となり「大混乱」は避けられない。大手の場合長期の連休や海外市場も休場など十分な周知期間をとって慎重にことを進めて貰いたい。「日銀特融」はもはや発動できないから、大手や銀行の場合、金融パニックを引き起こすことは間違いないからだ。 大蔵省は「三洋倒産は系列ノンバンクの不動産融資の焦げ付きという特異事例」を盛んに喧伝しているが、証券会社が赤字津好きで準大手は国際証券を除いて青息吐息は誰でも知っている事実。「特別の事情」でなく「一般的事情」である。大蔵大臣が免許を与えて商売させているところでも「潰れる」ことをいいたくなかった気持ちが露である。 証券の売買仲介ぐらいで多額の手数料をかせぐというのはもはや成り立たない。新株引き受けもいまやインターネットで発行者が自分でできる時代である。免許制は空洞化している。今回四社に寄託証券保障基金を増やすため奉加帳をまわしてカネを集めたが、経済原則に反する。行革会議で「企画」をたてに機能分離に反対したが、こんなことでは企画は手放した方がよい。
(四条耕三) |