ディスクロージャー研究学会



(青空に物事を晒すと虫干しされ綺麗になる)

文書No.
980913

ビックリバン13

    日本証券新聞97年12月02日

    続山一廃業事件 大蔵、「外圧」を利用か 財政資金投入の合唱、金融分離論消える 内閣が責任とらずにビッグバンはない  

 シンガポールのゴー首相はAPEC(アジア・太平洋経済会議)から帰国後の演説で気になることを二点いっている。一つは「山一は外圧で潰された」。もう一つは「これでは中国だけが栄えてASEANは滅びる」と。

 第二の問題はこの欄でかつて指摘したように、中国は九四年に人民元を五割も下げてアジアに大輸出攻勢をかけ、それが成功したことが今日のASEANの行き詰まりをもたらしていると主張している。もちろんASEANと中国の間と取り持つのはシンガポールしかないとスピーチを結ぶことを忘れない。イスラム世界に囲まれている中国系社会だけあって立場をわきまえた主張であり、第一の指摘によって日本が調整役ではないとも言外に言っている。

 こんどのAPECでは日本の成果は何も無かった、いや威信が落ちたことだけでは確かで、この点で橋本首相は経済外交の失敗を問われてしかるべきだ。やはり山一廃業事件が響いた。金融改革をクリントン米大統領に説明している手前、商法違反(総会屋利益供与)、証取法違反(粉飾決算など)では会社存続は難しいとはいえ、APECの最中に潰すことは「日本の信用」に関わる問題。米系格付け会社はここぞとばかりに間髪をいれず格下げを告知したのもタイミングがよすぎる。

 アジア各国から日本の金融支援を切望され「アジア通貨基金」を提唱している日本はリーダーシップを発揮する絶好のチャンスだった。「円」のプレゼンスが高まるはずだった。しかしアジア通貨基金は一蹴され、山一廃業で決定的に日本の立場は守勢になった。ゴー首相はもっと具体的なことを知っているのかもしれない。橋本首相は現地での記者会見で「日本はアジアの金融問題に責任があるのではないか」と記者に追求されていたが、まともに返答できなかったという醜態を演じた。山一行き詰まりの所為である。

 九五年、円高の時アジア各国が円を外貨準備にしようとしたとき米国は大蔵の強い要請で円安に合意、円は八十ー百二十に五割安となり、円経済圏形成はもろくも崩れたことがある。円安はミスターYENの「榊原効果」なんてものではなくて、円の信用を引き下げ、日本衰退のパラダイム・シフトだったことが、これでハッキリした。「日本売り」はこの時から始まったと考えてよい。「官僚経済」はこの意味でも直ちに廃止すべきだ。同時にアメリカは冷戦時代の外交戦略を目下経済外交で用いていることを年頭に考えないといけない。官僚の対米追随外交も根本的に改革しなければアジアの孤児になる。

 山一廃業で大蔵省は国内的には大きな「成果」を二つ上げた。一つは財政資金を銀行の不良債権処理に投入すべしという世論の形成。もう一つは財政と金融を分離するという大蔵省解体論が消えたこと。その意味では絶妙のタイミングだったのではないか。米側の信号を待ってましたという筋書きではないか。世論づくりのうまい大蔵の見事な手口とほくそえんでいるかもしれないが、昔ならクーデターものだ。大蔵省はかつて山一が一旦行き詰まったあと証券業を登録制から免許制に切り替えた(昭和四三年)。それから三十年大蔵省の思うがままの証券行政を行ってきた。その結果バブルが起き、損失補填事件が起き。総会屋への利益供与事件がおきた。三十年間の証券行政は一体なんだったのか。だから「反省」して山一を潰すのか。それなら大蔵省も潰してからにしてもらいたい。

(四条耕三)


お問い合わせ ik8m-ysmr@asahi-net.or.jp


目次に戻る